#6
吉田名言集
「俺にスネ毛の蟻つくらせたら三千世界で日本一じゃぞ」
車は夜通し走った。
朝日が見えてきた頃に、吉田が「さすがに眠い」とか言って車を停めて寝た。
そりゃ一晩中走り続けりゃ疲れるよなー。とか、そもそも車なのに眠るの? とか、疑問は浮かんだけど俺も眠かったし割とどうでもいいから俺も寝た。
起きたのは昼過ぎ。
そこからまた走り出して、いまは川原を抜けて獣道のような雑木林を当ても無くラリーしている。
この車の頑丈さどうなってんの? 4WDなの?
そもそもはたから見たら無人運転席に助手席の俺がずっと独り言喋ってるみたいで、中々気が狂ってるような感じがするが今更か。
だって突然の異世界、身についた異能、女の子を泣かせて捲ったこと、色々考える事は多いのである。
そして今一番の案件はというと……
「この剣、どうするよ?」
軽バンの後部座席に投げおかれた一本の抜き身の細剣。
刀身は昼間でもうっすらと光っているのが分かり、ホタル系由来の魔法剣なのかも知れない。
柄もゴテゴテと無駄に装飾されており、なんていうか見るからにゴイスーなのだ。
「あの王女のねーちゃん、重いからって俺の中に置いたままにしとったけーな」
確かに持ってみると細剣とは言え中々に重量がある。これを女の子一人で持ち運びするのは骨であったろう。
というか吉田、『俺の中』っていう表現やめろ。
なんなら俺だって今、吉田の中に居るってことじゃん?
ぅわぁ……吉田のナカ、あったかぃナリぃ〜ってか?
「殺すぞ?」
「いきなり暴言吐くのやめよーで?」
悪い悪い。つい、心の声がアレしてしまったね。
でもまあ、ある物は仕方ない。
「ここは俺たちが有難く貰っておこうぜ。
もしかしたらモンスターとか居る世界かも知れないし役に立つかもしれん」
「そーじゃな。儲けたと思うとこう」
吉田の野郎、人様の剣を盗っておいて罪悪感ゼロと見える。あなたって本当に最低のクズね!
「名のある剣とかだといいなー。これ持ってるだけで勇者とか言われてチヤホヤされねーかなー?」
「元の持ち主が友達居ないボッチガールなんじゃし、多分それは無い」
「そやね……」
速攻で夢を砕かれ不貞腐れたりもしたが、剣の問題はこれでホームズばりに解決した。
「ん? おいワトソン君!」
「買わなきゃハドソン!」
「うるせえ! いいから右手側みろ! 道が開けてるぞ!」
「おお! 本当じゃん! 行くべ行くべ!」
ギャギャギャギャギャーと細い草木を薙ぎ倒し軽バンは方向転換。
相変わらず頑丈な車だけど、そもそもコイツの視覚って今どうなってんだろうか?
車内の様子も把握してるし車外全方位も見えてるっぽい。
もしかして催眠音声界隈で言うところの全身が性感帯、みたいなノリかも知れない。
「この変態性癖野郎!」
「だからいきなり暴言やめーや」
開けた道に移り、しばらく走っていると、遂に街が見えてきた!!