#3 クマる
吉田名言集
「マイナスドライバーを使う事をマイナすって言おうぜ」
「ん……」
意識が戻る。聞こえる川のせせらぎは、崖下の川原か、はたまた三途の川か。
いや死後の世界とかあんま考えたことねーけど、あの高さから落ちたのに身体のどこにも痛みが無いってのはおかしい。
奇跡的に無傷で済んだのか、はたまた重症すぎて身体が痛みをシャットアウトしてるのか、死後の世界で浮世の肉体からは解放された状態なのか。
実は目を開けたら鬼がウェルカム地獄へとか言ってくるんじゃなかろうか。
確認するのが怖いが、意を決して目を開ける!うおおおお我が眼パチクリィー!!
「あっ、やっと気付いたのですね」
そこに居たのは地獄の鬼ではなく、天使のような美しい女性だった。
すげー美人だった。
詳しく説明するとすげーすげー美人だった。
そのすげーすげー美人は言った。
「私はユーリュ。まずは、窮地の私を助けていただき本当にありがとうございます」
「ごめん車で崖から落ちて色々と理解が追いつかないんだけど、とりあえず君を助けた覚えはない。っていうかココどこ?」
改めて周りを見渡せば、川原には俺と彼女と軽バンがある。
吉田はどこだ?
というか落ちた筈の崖が見当たらない。川原のそばは雑木林で鬱蒼としているだけだ。
そして空を見上げれば……
「月が3つある……?」
「おそらく、事故で記憶が混乱しているのでしょう。
しからば順を追って説明しますね。
まずここは、あなた方のいた世界とは別の異世界」
「異世界!!?」
「そうです。バリバリの異世界です。ほら月が3つありますからね。THE異世界ですね。
そして私はホタル魔法を操る魔法使い」
「魔法使い!!?」
「そうです。ホタル魔法はホタルの光を魔力に変えて操る魔法です。しかしこちらの世界にはホタルがいない。
なので私は転送陣であなた方の世界に赴き、ホタルを乱獲していました」
「乱獲!!?」
「そうです。ホタル魔法使いにとって、手っ取り早く魔力を集めるのに最適な方法なのです。
ところが、後の生態系や美観を度外視して乱獲をしていた私は、つい襲いくる脅威に気付くのが遅れました」
「脅威!!?」
「そうです。それは熊でした」
「熊!!?」
「あの……、さっきからちょくちょくウザいんで、ちょっと黙って聞いてくれません?」
「あっはい」
釘さされちまったよ。合いの手いれるの楽しくなってきた所なのに残念です。
「襲いくる熊!ベアー!咄嗟の防御陣を形成するも、熊の豪腕は容易くマジカルホタルバリアーを打ち砕く!」
「魔法なのに熊以下なんだぁー…」
「っさい!!色々あんのよ相性とか色々! ていうか熊バカにすんなよ!熊はマジヤベーんですからね!
迫り来る熊の連続攻撃!私の魔法防御も形成しては打ち砕かれ形成しては打ち砕かれ、このままではやられると思った私は転送陣を形成して元の世界に戻ろうとした!
しかぁし!さりとて敵も百戦錬磨の熊よ!その隙を見逃すはずがあろうか!? いや無い!
熊の一撃、その名もベアクラッシュが我が乙女の柔肌を傷付けるまさに一瞬!すわ一大事に飛び込んで来たるはそこな一台の軽バン自動車でぇーござい!!」
「よっ! 待ってました!」
「車はその巨体を熊にぶつけた! どうだ!? 熊はどうだ! ああっとコレは効いているぅ! 熊さん足元がおぼつかないぃぃいー!!
恐れをなしたか千鳥足で逃げる熊!しかぁし!
一度人間を襲った危険な熊を逃がす私と思うてか!?
魔手天倫 龍鬼咆哮 絶黒霊光 ホタルの光よ私に力を貸して!
うおおおおおーホタル魔法奥義が炸裂!熊を滅殺ゥゥウー!!!」
「SUGEEEEEーーー!!!」
「散りゆく熊の最期の言葉を、ホタルが教えてくれたわ。『(熊)俺はここのホタルが飛び交う幻想的な景色が本当に好きだった。だから乱獲をするあのニンゲンを許すことができなかったのだ。無念……ガクーッ!』戦いはいつだって虚しい。熊は私にそう教えてくれましたのよ」
「くまさんかわいそう……」