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〆26

宮崎君名言集


「クソみてえな人生だったけど、それでもお前のおかげで、中々と楽しかったぜ」






酒を飲み尽くした頃。

夕暮れに沈む太陽の反対側で、他の月より一足早くにテンパムが顔を出していた。


「おい、なんで俺の酒全部飲んどるん? 膝の皿割られてぇの?」


「待て待て。そう怒るなって、酒なんてまた買えばいいだけだろ」


「ふん。その金があればの話じゃけどな」



あれから。


禁聖剣シンシアは王女が持っていたという事にして、親父は晴れて無罪放免。

剣は王国が再び管理して俺たちの手元を離れたが、王女の懸賞金はめでたく頂戴できそうだった。


そこまでは良かった。


しかし、受け渡し日に玉座に招かれ、当の国王ときたら「そこの右大臣と左大臣から事情は聞いた。お前達異世界人が禁聖剣シンシアを売ろうとしていたとな。本来なら打ち首だが、余の不肖の娘を捉えた功績として武器屋の無罪と懸賞金の減額ということで手を打とう」だってさ。

「でもアイツら山田だぜ! 山田の言うこと鵜呑みにするんですか!?」

という最もな俺のチクリに対しても、

「事情は聞いたと言ったであろう。もちろん余も知っておる。その上で彼奴等が誰であろうと、国を想う気持ちは真っこと本当だ。そして、それこそが一番の宝。信用に値する」

と、まるで動じなかった。

「あんたの娘に一番無かった心じゃなぁ」

「はい懸賞金さらに減額〜」

吉田の馬鹿が余計な事を言ったせいでこの仕打ち…!

国王の減額宣言を聞いて左右田は、クスクスと笑い合いながら報奨金が入っているであろう袋からゴッソリ札束を抜き出す。

おいそんなに抜くなやボケェ!?

確かに左右田は国想いだよ?だからってアイツら役職そのままで俺らは減額って、それっておかしくね?

ムカついたから左右田には焼肉でも奢って貰わないと割りが合わないと心に固く誓った。


さて、減額されたとは言え報奨金は二人で一年は遊んで暮らせる額はあった。

それが半月ほど経った頃にはすっかり無くなってしまった。



「いやあ、ギャンブルって怖いなぁ」


「清々しいまでにクズじゃなぁ宮崎君は」


なに人ごとみたいに言いやがって! 勝手に金を持ち出した俺も悪いが、それを見越して止めてくれなかった吉田も同罪だろォー!?


挙句にひと月も経った辺りでパラサイトしてた武器屋のおっさんに、とうとう店から叩き出された。


「誰のおかげで無罪になったと思ってる!?」


「うるせえ! そもそもお前らがいなきゃ最初から捕まっとらんわ! 毎日毎日手伝いもせずにグータラと…! とっとと出て行け!! そんでまともな定職でも探せ! 落ち着いたらまた連絡よこすんだぞ! じゃあな!」


なんともツンデレな親父である。そのツンデレに免じて正月には顔を出しに行くつもりだ。


さて、放り出された俺たちは、仕方ないから二人でタクシー&配達業をすることにした。

王都と離れ街ごとに設置されたゲートなら一瞬で人も物も転送できる世界らしいから、すぐに廃業かなーなんて思っていたら、朝夕のゲート前の通勤ラッシュが苦痛だからとか、まだ絶対数が少ない車に乗ってみたいだとか、離れ街自体が大きいと移動が大変だったりとか、今日はゲート修理中だからとか、市民登録してないからゲート利用できないとか、治外法権謳ってるせいでゲート設置できずにバイクで運ぶには大きい荷物があって困ってる何処ぞの森という名の砂漠地方とか、まあ細々と需要があったおかげで今日まで食い繋いでいる。


・明らかに勘で走ってるなって時があります

・運転手の態度は悪いですが面白いですよクズですけど

・料金。かなり適当です。ボッタクリ注意

・金目の物の配達はやめておきましょう。偽物と差し替えられてました

・私を裏切った報いをいつか受けていただきます


ご覧の通りレビューサイトでも★★☆☆☆と絶好調!


あっ、営業許可は左右田に無理矢理認可して貰った。これで焼肉一回分チャラな。って言ったら「「まだタカるつもりか!?」」ってビビられたっけ。


仕事とかクソだと思っていたけど、こうして仲のいい奴と一緒にやれるなら、あながち悪くは無いかもな。



「ま、思ってても絶対言ってやんねえけど」


「なに? またいつもの病気?」


「はっ、言ってろ」


「なんじゃい気になるわー」



ピロリロリン。

その時俺のスマホが音を鳴らす。

配達業するとき必要になると思って買ったんだけど、まさかアイフォンがこっち売ってるとはなー。

元いた世界とも連絡が可能(そう、アイフォンならね!)だったお陰で、頻繁に家族と知り合いから電話越しに説教される俺の図。しばらくは元の世界に帰りたくない。だってぜったいめっちゃ怒られるもん。

「はいもしもしこちら配達タクシーのYOSHIDAで……ああ、ヤ・マーダーか。

えっ何? 王女さんが脱走ってお前それ何度目だよ!? あーーもーー!

わかったわかった今回も適当にあしらって王都連れてくからタクシー代用意しといてな」


「今月でもう三回目だぞ脱走…」げんなりとして電話を切った。


「あの王女さん脱走を遠足かなんかと間違えとんじゃねぇーの?」


「ありうる。裏切り者めー!って怒る割には帰る頃にはいつもニコニコだしな。下手すりゃ俺ら、ぼっち姫の中で友達にカテゴライズされてるまである」


「ま、ちょうど懐も寒い具合じゃし、臨時収入が定期収入になりつつあるんは喜ばしいじゃろ」


「向けられた友情を金勘定とかクズいわぁー。吉田クズいわぁー」


ピコーンとLINEの音して開けば、噂の独尊姫ユーリュ王女様から『これから行くね (ハート)』の文字が。

続け様に『スルーしたら殺す (殺)』の連投ですよ。やだなー。こわいなー。こんなヒロインやだなー。


「……おっと。王女さん乗せるまでに、もう一仕事ありそうじゃぞ」


吉田の言葉に窓の外を見ると、女が一人立っている。

離れ街から離れたこんな道で人に出くわすのは運がいい。だいたいは客になってくれる可能性が高いんだ。(あと料金高めにふっかけられる可能性も高い)


「やあお嬢さん。こんな所で迷子かな? それとも旅人? よかったら乗せてくよ(※有料)」


車を停めてドアを開き招き入れる体制は万全!

対してお嬢さんは真っ赤な服に身を包んで立ち尽くし、視線もあやふやに言葉もたどたどしかった。


「あ…ああ……! 悲しい悲しい悲しししぃ…!

私私は、ああ…行きたい……帰りたいのですです誰かお願い……我がが母なる地に月…突きさささった月虫刀を忌々しい……抜いて下さる方を……!貴方方ですそれは…! これから滴る囁きを道路にしてあな、あなたのホタ、ホタル魔法の車なら走れまますす可能ですすす…!

貴方達と我がテンパムにににぃ行ってあああの矢じりを抜いてくれれば……悲しいのが悲しいじゃなくな……るるる!!!」



ああ、冬はこれからと言うのに、心の中に春を飼ってるお客人だ。

軽く現実逃避して空を仰げば、なんだ?

テンパムの月から、何かが伸びてくる。

赤黒い、影のような、腕のような、涙のような囁きがつらつらとこちらに流れてくる。


「わわ私はテンパムの民。さあ私を乗せて月まで行って下さる? ああ、ああ救世主よ我らの悲しみ悲しみ、あと悲しみを救えるのは……圧倒的に貴方! ああ! ああああ! 我らの涙をどうぞ止めることが貴方たちなら可能可能可能可能……!」

ああああああっと、そう金切声で叫んでから女は泣き崩れた。



なるほどわからん。


よくわからん。が、これだけは分かる。



「泣いとる女は?」

吉田の問いに答えは決まっている。


「放っておくに限る!」


ドアバターン! エンジンどるるーん!

ズギャギャギャギャギャーっと急発進!


「まま…マママジジかああああああーー!!? おおおお前らマジかああああああああーーー!!?!?」





「うーわっ。あんた達ほんっとサイテーですわね」


ヴンッと転移陣で車内に突如現れたどこぞの王女様に、いの一番に罵られた。


「うるせー。文句があんなら降りろお尋ね者が」


「何よ折角会いに来たっていうのに。これだから裏切り者は」


「あいあい。ほんじゃ行き先はいつもの王城でよろしいデスカネー」


「まあ宮崎君、そんな急がんでも、どっか寄り道してこうぜー」


「こっからだと北の温泉街が近いな。良かったな王女様。温泉ポロリでヒロインの面目躍如だ」


「なに妄想してんですか死ね! 温泉よりも行きたい所とか無いんですか? 例えば…………テンパムとか?」


「うっわ趣味悪ぃでやんの。盗み聞きしとったんか」


「はい却下。行く理由がない。興味ない。面倒くさい。よって却下」


「なによ。それなら私が先週貸した二万円返してよ今すぐに!」


「おっまえ……! それ言うの卑怯だろ……! そんなすぐに返せるわけねえだろ。こちとら伊藤ちゃんトコのガソリン代のツケも溜まってんだよ!」


「あらあら、借りた金も返せないなんて誰に似たのかしらね?」


「やめろユーリュ王女、その言葉は作者に効く」


「もう埒があかんなぁ。こうなったらジャンケンで決めようで。

俺らが勝ったら温泉、王女さんが勝ったらテンパルだかテンテンだかの月。負けた奴はしっぺリコピン馬場チョップな!」


「だからその罰ゲーム意味がわかんねえって!」



軽バンは走る。その行き先は川のように流れ流され、いつかは待ち受ける闇に呑まれてしまうのかも知れない。

それでも、そんな闇の中でも、吉田と宮崎、彼らならば光を見つけられると信じて。

ホタルのような儚い光でも、集まれば巨大な光となり煌めくのだ。

いや、例えそれが一匹の小さな光でも、そこに希望と喜びを見出せる二人ならば、この先もきっとホタルが導いてくれるだろう。


この物語は、ここで終わる。


それでもホタルを見るたびに、どうか彼らの事を思い出してくれないだろうか?

この、不器用で、不誠実で、どこまでも人間臭い彼らの友情を。

この物語があなた達の心に、小さな、どんな小さな明かりだとしても、それを灯せたならば。


その光はホタルの光だ。


だから、ホタルの光がある限り、彼らの旅…………






「モノローグでエピローグなポエムうぜェェェエエーーッ!!! いいから行くぞ!!」


彼らの旅…………


「「「さーいしょーはグー!!」」」


彼らのた…………


「「「ジャーンケーンポン!!」」」


彼ら…………


「やったー勝った私の勝ちね! ねえ!」


「は? 馬鹿言うな三回勝負に決まってんだろ!」


「宮崎君ほんとにクズじゃなぁ」


彼…………


「いいか? 次に俺はグーを出すからな!!」

「じゃったら俺は必殺のグーチョキパーで」

「それやったら利子つけるからね」


…………



「「「ジャーンケーンポン!!」」」







彼らの旅は、続いてゆく。















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