#25
吉田名言集
「宮崎君が修学旅行で買ったこの木刀。いつまで俺の部屋に置いとくつもりなん……?」
「あれから三ヶ月か」
揺れる車内。最近買った車用冷蔵庫(カー冷蔵庫魔法で動いているらしい。なんだその魔法ナメてんの?)から吉田が買った吉田の発泡酒を勝手に拝借しながら、俺は感慨深く呟いた。
思えば色々とあった。
「あのあと、剣が無いと知って激昂した王女様を宥めるのは大変だった」
「大変言う割には、剣は落とした言うて信じる王女さんはちょっと純粋すぎたわなぁ」
「ああ。マジでチョロかった」
「なんやかんや王女さん丸め込んで、王都に行った時は流石に驚いたわ。まさか……」
まさか、道路がアスファルト舗装されてたなんて。「ふふふ! これがアスファルト魔法の力よ!」と言ってドヤる王女様の顔のウザいことウッゼーこと。
「途中からすげぇハイテンションじゃったよな。あれ何じゃったん?」
「あれだ。俺たちがエルフの森に行ったって話聞いてからだろ」
その話を聞くや否や王女様は、「エルフの森に行ったのね!でかしましたわ! 何せエルフの彼奴らときたら、私が十年前に神樹を大量に安く買い叩いた件を未だに恨んでいるのですよ」と大はしゃぎだ。
お前は昔やった悪事を自慢する元ヤンか何かか?
とはいえ、その買い叩いた神樹で離れ街の外周を囲って、安心と安全を国民に提供していたのだ。根っからの悪政だったという訳では無いのだろう。
「でも何でエルフの森行ったくれぇで上機嫌なんかがわからんわ」
「ほら、城の中で右大臣のヤマ・Dと左大臣のヤマ・Dに見つかって対峙しただろ。あの時……」
あの時。
右大臣「我らが山田の民となぜバレたのだ!?」
宮崎「いや名前でモロバレだし」
左大臣「君達も武器屋の親父奪還計画よりも早く抜け駆けなんて、さては裏切ったのか!?」
吉田「え、なんでそのこと知っとん?」
王女様「全ての山田の意識はシンクロしているのよ。全が山田、山田が全。それが山田の民。
私は山田の民にこの国を牛耳らせないために今まで戦ってきた!」
ここに来て判明した新事実、やっぱり王女様は根はいい奴かもしれない。俺たちの命の恩人だしな!
右大臣「我らを排するため? くくく、そのためにあんな悪政を敷いていれば、我らの前に国が滅びるわ!」
王女様「違うもん! 頑張る自分にご褒美だもん! そのために王権行使して私服を肥やして何が駄目なのかしら!?」
前言撤回。
右大臣「やはり貴様に国を任せるのは危険だ。ここで排除する!」
王女様「うふふふ、できるかしら? 私達には『エル符』があるのですよ!」
左大臣「エル符だとー!!? しまった! エル符とは母神樹より切り出された木札。マザーの加護によって我ら山田の山田魔法はことごとく無効化されてしまうゥー!!」
吉田「いや、エル符なんて持ってねぇよ」
王女様「えっ」
吉田「持ってねぇよな宮崎君?」
宮崎「お前この話の流れでそれ言う?」
「あの時の王女さんの絶望した顔ときたら、傑作じゃったな」
「そだな。当事者じゃなけりゃ俺もゲラゲラ笑えたんだけどなぁ当事者のくせにあの時ゲラゲラ笑ってた吉田くん」
それから王女さんを宥めるのにまた苦労した。
「なんでエル符もってないの!?」「なんのためにエルフの森行ったの!?」「完全に無駄足じゃない!?」「寄り道でも後々に生きてくるのが物語の鉄則でしょ!?」「小説の基本わかってんの!?」
とまあ散々な言われようだったけど、基本とか分かってりゃそもそもこんな話書いてねーよって話だよな。
そっから王女様VS山田左右大臣のアツい魔法バトルが幕開けしたんだ。
「もう無視して武器屋のおっちゃん探しに行ったけどな」
「ほんま宮崎君ってクソじゃわ」
そして地下牢に辿り着いたのはいいけれど、そこに居て当然みたいな顔で見張りの兵士が居たものだから、
「もう諦めようかって」
「見込み甘すぎるわぁ〜。諦めんのも俊速すぎるわぁ〜」
かと言って他にする事があるでもなく適当に入った部屋が、兵士たちのロッカールームだったので甲冑拝借して「見張りの交代と嘘ついて地下牢潜入作戦」を決行した。
「多分初めてじゃない? 俺らの作戦が成功したの?」
「でも肝心の牢屋に高圧電流が流れとったんは誤算じゃった」
「ああ。目の前に武器屋のおっちゃんが居るのに手出し出来ない。歯がゆかったぜ。
こんな時に静電気除去士の伊藤ちゃんが居たら良かったのに」
「呼んでもねぇし来る訳ねぇべ。ほんと、何で俺らエルフの森行ったんじゃろ……?」
もし総集編があったら、間違いなくエルフ編は全カットされるかね。
結局はトランスカーで車になった吉田が突進して牢屋をぶち壊すことで解決できた。
ほんとなんなのあの車? 重機なの?
「一瞬ビリっとして気持ぢえがったわぁ〜」
お前の性癖はどうでもいい。
そして武器屋のおっちゃんに禁聖剣シンシアは何処かと訊けば、胃の中に隠しているとのこと。
さすが、5メートルを越す巨人族である武器屋のおっちゃんならではの隠し場所だ。
何という叙述トリック! 作者のストーリーテラーとしての才覚が光った瞬間であろう。
さて、おっちゃんも剣も一先ず確保として、次に取るべき行動と言えば……
「「王女だぁぁあーー!!! 王女がいるぞォーー!! 独尊姫のユーリュ王女だああああああ!!!」」
俺たちの叫びに兵士が駆けつける。「なにぃ! 本当か!」「あのクソ王女、生きてやがったのか!」「君達がここまであの畜生を連れて来てくれたんだね! いやあ助かる!褒美は後日に!」「お前らァ! 独尊姫をひっ捕らえろォォオ!!」「ウオオオオオオー!!!」
血気盛んな兵士たちを後に俺たちは城を脱出! あとは後日に褒美を受け取りに行こうか…と算段していたら、
「あっ! 貴方達! やっと見つけた!」
やっべー、独尊姫に見つかった……。
王女様はMP切れを起こして大臣から逃げ回っている最中だという。
どうでもいいけどホタル魔法の燃費クソすぎねぇ?
「逃げっゾ!」
「よしきた!」
「おい待て異物飲んだまま走ったら吐き気が………オロロロロォー!!!」
カランコローンとおっちゃんの口から吐き出される禁聖剣シンシア。
胃液まみれのソレを拾い上げ、「禁聖剣シンシア…これさえあれば!」と瞳を輝かせるユーリュ王女。うっわバッチィ。エンガチョだわー。
「そっからどうなったんじゃっけ?」
「どうもこうも、なし崩しに山田左右大臣討伐パーティに組み込まれたじゃねぇか」
「ああ、ああ! そうじゃったそうじゃった!
そこでまさかのホタルダイヴ初披露じゃったな」
「最初で最後だったな。もう頼まれたって二度としねえ」
ホタルダイヴ。
それは全身が発光するだけの魔法だと思っていた。
だがしかし、その光はただの光ではない。ホタルの光だったのだ。
ホタル魔法のホタルドレインという魔法は、目にしたホタルの光を吸収して魔力へと変換する魔法。つまり、これを組み合わせればホタル魔法使いは無尽蔵の魔力を手にする!!!
さあ今ぞ叫べよ高らかに! ホタルとついでに熊の命を輝かせてやろうではないか!
\ホ タ ル ダ イ ヴ !!/
「いやー、でもなー、まさかなー、崖ダイブしたあの日は防虫スプレーしてたせいで、スプレーしてなかった尻しか光らなかったとはなー」
「魔力回復のためといえ、野郎の光る半ケツを見つめ続けんといけない王女さんが不憫じゃった……」
こんな扱いで良かったの?
一応タイトルの核となるような魔法だよ?
ねえ?
「武器屋のおっちゃんが写メしとったん送ってもらったけど、見てみ」
「うっわ王女様泣いてるし。なんなら俺も泣いてるじゃねーか。そりゃそうだ! 何が悲しくて半ケツをすっげーすげー美人さんに視姦されなといけねぇんだよクソがああああ!!!」
誰も幸せになれない。それがホタル魔法。
「いや、俺は結構羨ましい思うたけど?」
お前の性癖はどうでもいい。
こうして兵士達を掻い潜り、禁聖剣シンシアとMPマックス効果でなんとか山田の左右大臣を打ち倒したのだ。
「「ぐ……我らは……この地に太平をもたらさねばならぬ……それが山田の……存在…意義……」」
「大きなお世話よ! 自分たちの事は自分たちで何とかしてみせるわ。例えそれが貴方達から見て不器用な方法であってもね!」
「「そんな事は……あの…神話の戦いを経て…とうに分かっている……。この地の民は、この地の民で……治めるのが……一番であるの……だ………だから我らは……こうして……見守っているだけの存在であろうとし……しかし……」」
「しかし?」
「「ユーリュ王女の悪政は……民のことを蔑ろにし続けたあの悪政は……流石に……アレすぎた………コイツはヤバイ……早くなんとかしないと……」」
「ちょっとちょっとタンマタンマ。私だって良い政策もしたハズよ!
神樹の柵を離れ町に配置したりさあ?」
「「それを設置した……土木業者と貴様の癒着を…知らぬとお思いか…?
そして神樹を買い叩いたせいでエルフ達との関係は拗れ…美しいエルフの森の砂漠化を助長することとなった……長期的に見れば失策でしかない……!」」
「で、でも! 他にも民の為に良いことやったハズだもん! 例えば………」
「「例えば?」」
「……………………私の幸せが民の幸せ? みたいな所あるし? いやだって実質私が正ヒロイン、みたいなものですし?」
どうやら『この話で一番やべー奴は誰だ選手権』の優勝者が決まったようだ。ブラボー。
つーかヒロインが存在していた事に驚きだし、なんならまだ伊藤ちゃんのほうがワンチャンあるわ。
「「しかも仕舞いには呪詛を吐くテンパムの月がウゼェから、シンシアで打ち砕こうとか言い出すし。
そりゃ呪詛は魔獣を生むよ? でも月虫刀の汚染で微々たるもんじゃない。気をつけてりゃ魔獣に遭遇することも稀だし、遭遇したとしても変に挑発しなきゃ襲ってこない大人しい奴らだよ?
だいたい魔獣の皮や肉も重宝してるし実際に雇用に繋がってるじゃないですか。
そもそもそれでテンパム砕いたとして、あの時みたくノリで別の月まで壊されたら、故郷を失った身としてはあまりに忍びない」」
だから執拗に禁聖剣シンシアを狙っていたのか。己の保身ではなく、他の月のために。
あとなんかコイツら発言が流暢になった気がするけど『…』入力すんのが面倒になっただけなのかも知れない。脳内補完で乗り切ろう!
「言いたい事はそれだけかしら?」
禁聖剣シンシアを構えてユーリュ王女。
今にも右大臣と左大臣の首を刎ね飛ばしかねない殺気だ。だから俺は……
「おい王女様」
「なによ今いい所なッ…!?」
「蚊ヨケール君プシャァァアー!!」
「ギャアアアアアアアアア!!!!いやああああああ犯されるゥゥウーー!!?!
無理矢理40デニールの黒パンストを履かせて練乳塗りたくられてペロペロされて脚を重点的におぉぉかぁぁさぁぁれぇぇるぅぅぅうーーー!!?!?」
「吉田ァ!!」
「ほいキタぁ!」
そのまま吉田が担いで地下牢にポーッイ! 鍵ガチャー!
「お前らァァア!! 裏切った! また裏切りよった!! 殺してやる殺してやる殺してやるゥゥウーー!!!」
なんか物騒なこと言ってるよあの娘。やだなー、こわいなー。
「だって吉田がそうしろって」
「言ってねぇ言ってねぇ」
駆けつけた兵士達に後はよろしくと伝えてもう疲れたし武器屋に帰ろうかなんて思っていたら、山田左右大臣……めんどいから左右田でいっか。
左右田が言った。「我らを見逃すのか」と。
見逃すも何も、この世界の事情なんか知ったこっちゃねえのが俺たちだ。俺は吉田と顔を見合わせ、そして言った。
「今度メシでも奢ってくれ」




