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#23

吉田名言集



「夏休みの宿題を夏休み中に終わらせるような奴に夏休みは必要ない」




さてと、ここは俺と吉田が最初に訪れた離れ街。

結局居酒屋はエルフに奢ってもらい(そのあとまた正座させられた)、翌日はカードが使えない件を問いただそうと武器屋まで戻ったのだが、肝心の武器屋が閉まっていた。

そこに現れた武器屋のおっさんの元部下という男と、今はファミレスで話をしている。


「くひひひひ。まあまあ、まずは料理でも注文されてはどうですぅ?

支払いは出しますよぉ?」


男は二十歳そこそこの、普通の青年に見えるものの、いかんせん話し方がキモい。

俺たちは店員に一番高い料理を聞いて注文した。

その店で一番高いのを注文するのが奢ってもらう時の礼儀だよね?


「で、何でカードが使えんようになったんじゃ?」


「おっとぉ。話せば長いのですが、それはですねぇー」


「長話はやめろ。三行で頼む」


「無茶言わない下さいぃ。では出来るだけ掻い摘んで話しますがぁ、

武器屋の親父さんが十年前に国中を騒がせた盗賊団の頭ってのは知ってますよねぇ?

僕はぁ、その時のメンバーだったんですよぉ。

今回、しゅっごぃ剣が手に入ったとかでぇ、久しぶりに招集されてブラックマーケット出品の手伝いをしてたんですよぉ。

それでぇ、禁聖剣シンシアをカタログに登録したらぁ、クライライラ王国側にバレてぇ、頭は剣はどっかに隠して証拠は無いんですが、それでも身柄を拘束されて財産凍結されたんですよねぇ」


「なんだよそのクソ間抜けな話は…」

「でも武器屋のおっさんが俺らを騙したんじゃあなさそうで、そこは安心したわ」


「くひひ。盗っ人の割に情には厚い人でしたからねぇ。そこは信頼していいと思いますぅ。

おそらくブラックマーケット側に王国の内通者でも居たんでしょうぅ。本来王国は闇市に不干渉が公然の鉄則だったんですがぁ、物が物だけに駄目だったみたいですねぇ」


それを聞いて吉田は腕を組み、しばし考えて言った。


「もしくは、アンタが王国側にチクったとか?」


「はにゃっ!? ば、ばばばば馬鹿言わないで下さいぃ!

あば! ががが! ぼぼぼ僕に何のメリットがあってそんな事をしなきゃいけないんですかぁ!??」


うっわ動揺しまくりやんけ。

最初から怪しい思ってたけど、これもう怪しさMAXいったわ。怪しさGOGOヘヴンどこまでも行こうぜヘーイイエーイだわ。ってそれはMAXじゃなくてSPEEDだよ馬鹿が!

「今の若い子には伝わらねぇよッッ!!」


「うわ!? なんなんですかぁこの人突然!?」


「ああ、それは宮崎君のいつもの病気じゃから気にせんで。

それでメリット言っとったけど、例えば、そうじゃなぁ。武器屋のおっさんが捕まることになったら証拠の剣が見つかるとヤバいけぇ、隠さんとおえん。

その隠し場所を聞くことが出来たら、晴れて剣を自分の物に出来る、とか?」


「ギクぅ!!?」


「そんでこの状況を鑑みるに、アンタ信頼されてなかったからシンシアの場所を教えて貰えんかった。じゃから元の持ち主なら知ってるかもと俺らに話し掛けたって所か?」


「ギクギクぅ!!?」


「おい露骨すぎんだろ……」


「い、いえいえぇ。そ、それよりも! もし頭が禁聖剣の隠し場所を吐いたら、貴方方は莫大な富を逃すことになるんですよぉ! それでもいいんですかぁ!?」


「あー、確かにそれは困る」


「でしょう! それに頭が口を閉ざしたままだと、いずれ打ち首の刑に処されますぅ!」


「証拠もないのに処刑って、マジか?」


「大マジですぅ。元々禁聖剣シンシアは王城で厳重の厳重に管理していた神聖国宝。本来は市井に渡るなどあってはならぬ事ですぅ。それを売買するような冒涜は、例え冗談だとしても打ち首にされてしまうのですぅ!」


マジかー。そんなヤベー剣だったのかー。いや確かに武器屋のおっさんが打ち首案件とか言ってた気がするわ。

思ってた以上にヤバい橋渡らせてたんだね。おっさんゴメン。


「でも、何でそんな大層な国宝がそもそも城から持ち出されたんじゃろ?」


「それはぁ、幽閉されていた独尊姫が逃げ出す時に、ついでに盗んでいったからなんですよぉ」


「独尊姫?」


「ユーリュ王女の俗称ですぅ。彼女は我儘自分勝手のお嬢様で、あまりの自己チューっぷりに『お前みたいな娘に後を継がせたら国が滅びるわ』と父王に言われる始末でしたぁ。

でもその言葉にキレた独尊姫は、父王を牢屋にぶちこんで王権を奪い取りましたぁ。

彼女の政権時代は重税や変な政策オンパレードで、とうとう国民と城の兵士達はガチギレして反乱軍を組織して独尊姫を牢屋にぶち込み幽閉しましたぁ」


「ロクでもねぇ王女とは思ってたが、想像以上じゃねぇか!」


そりゃ友達いないわ。


「その後、父王が王権に返り咲き平和が戻ってきたんですけどぉ、半年前にユーリュ王女が脱走してぇ、今や彼女は生死問わずの懸賞首ですねぇ」


「とんでもなくROCKな人生してやがる……」


注文していた料理が来て、話の途中だろうが俺と吉田は遠慮なくいただく。


「ニーチャン、アンタは食わねぇのか?」


「くひふ。僕はあまり食べなくても平気なんですよぉ。それにニーチャンと言われましたが、僕はぁ貴方方よりもぉずっとずっと歳上なんですよぉ。くふふふふ。ずぅぅーっとねぇ」


また怪しい事を言う。武器屋のおっさん、こんなのが部下とか情に厚いのはいいけど人を見る目は無いんじゃねーか?

実はコイツの正体が山田の民だったーとかでも全然納得できる怪しさがあるぜ実際。




「さぁぁーってぇ、食べ終わったようですしぃ、そろそろ本題に入りませんかぁ?

禁聖剣シンシア、何処にあるのか、教えてくれますよねぇぇ??」


「いや、知らん」

「皆目検討つかんわ」


「うっそぉーーー……」


ガクーッと肩を落とす怪しい奴。

疑り深いのかその後も何度も同じ質問をしてきたが、知らんものは知らん。禁聖剣シンシアはありまぁす! なんて無責任な事は言わずに我慢してたら、ようやっと信じてくれたようだ。


「……こうなればぁ、もはや王城の地下監獄にいる頭を救出して剣の在り処を吐かせ…ゲフンゲフン! ……教えてもらうしかなさそうですねぇ」


「お、おう。まあ世話になったおっさんが打ち首なんて夢見が悪いしな。がんばってくれ」

「どの道もこみち桜木花道このままじゃ金が無いけぇな。期待しとるで」


「つきましてはぁ、城内に僕の協力者が居ますぅ。彼と連絡を取り付けてぇ、一週間後に救出作戦決行しましょぉー」


「えっ、それメンバーに俺ら含まれてんの!?」


「いま言った『どの道もこみち桜木花道』って割と自信あるギャグやったんじゃけどどうじゃった?」


「うるせぇ! 全然つまんねーよ全然つまんねーけど今度飲み会で使わせて貰うわサンキュ」


「とにかくぅ! 貴方方の協力は不可欠なのですぅ! 貴方方だってぇ! 頭が捕まったままだとカード使えなくて困るでしょぉー! 頭が戻れば今度は上手く売り捌けるハズなんですよぉー!」


「でも俺らが協力しないといけない理由なくね?」


「冷たいぃ! なんでぇ!? ヤバい橋を渡る時は三人一緒だって、ボマーも言ってたじゃないですかぁぁー!!」


だからなんでそんなに詳しいんだよお前ら。

なに、もしかしてジャンプ売ってんの異世界(ココ)


「だいたい、盗賊団って言うからには昔の仲間がまだ居るんじゃねえの? そいつらに頼めばいいじゃん」


「それは宮崎君、コイツがのうのうと歩けとるって事は、おっさんがまだ盗賊団じゃとバレてないって事じゃけえ。昔の仲間で集まっても誰か一人捕まれば芋蔓式になるからじゃろ」


「そ! そそそそう! それそれ! うん! そうそれね! くひひひ。禁聖剣シンシアの在り処が判明しても、昔の仲間の監視があったら奪い難いとかぁ、そんなの全然思ってないからねぇ!

その点貴方方なら頭も剣の在り処をポロッと言ってくれそうだしぃ、くひひ! ブラックマーケットなんかに流させやしねぇよぉ。禁聖剣シンシアは僕が頂くのさぁ! ……なーんて微塵も思ってないですよぉ!」


……馬鹿なのこいつ?


「はい決定ぃ! もう決定ぃ! 貴方方は僕に協力しますぅ! そうと決まればコレ準備金ねぇ! よっしゃ受け取ったなぁ! 契約完了だねぇ!

じゃっ、僕は一足先にゲートで城下街まで飛んで準備してっからぁ! 市民じゃない貴方方はゲートの利用は出来ないからぁ、車で来てねぇ! 車でも四日はかかるから一週間後に間に合うように来てねぇ! 落ち合う場所はこの地図に書いてるから間違わないようにねぇ!」


言うだけ言って走り去ろうとする怪しいマンを慌てて呼び止める。


「おい、ちょっと待て! せめてお前の名前くらい教えろ」


「僕? 僕の名前ぇ? くひ。僕の名前は……ヤ・マーダー」


「「山田?」」


「くひひひひ!! いかにも! 我こそ山田の月より此の地を山田に平定せんと舞い降りた山田に山田化してもらった山田の徒であ……ゲフンゲフン! ややややだなぁー! 僕は山田じゃなくてヤ・マーダーですよぉ!」


そう言ってヤ・マーダーは去っていった。



もうダウト、完全に山田やんけ。

なんだよヤ・マーダーとか合成人間みたいな偽名しやがって!

俺はスプーキーEとユージンが好きなんだ!


「よく分からないって人がいたらブギーポップを読め!!!」


「その病気なんとかならんの?」


「ならん!」



禁聖剣シンシア、山田、王女ユーリュ、ついに物語は大きく動き、その核心へと手を伸ばしている。

俺たちはが取るべき行動、それは……。


俺は吉田とファミレスを後にする。すでに日は沈み、夜風が頬を撫でる。

この世界で俺たちが出来る事、しなければならない事。



「お待ち下さい」


後ろから若い女の声がかかった。

振り返ればウェイトレス衣装に身を包んだ店員。笑顔とは裏腹に眼光は刺すように鋭い。

店員は苛立ちを隠せない様子で告げた。


「お代、よろしいでしょう?」


「え……? さっき出ていった奴が払ったんじゃ……」


「いいえ頂いておりません」




この世界はまだまだ分からない事だらけだが、ひとつ心に決まった。



山田、ぜってーぶん殴る!



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