#17
吉田名言集
「宮崎君ちょっとハサミ貸して。ありがと返さんわ」
中々に長い道のりだった。
すでに夕日が落ちて空は赤く染まっていた。
途中車が砂に嵌って、一時間くらい難儀したりもした。
二人とも汗だくになって、そのうちに吉田が「一回車を戻してから召喚し直せばよくね?」て言った。
コイツ天才だと思った。
もうトランス要素が無いのは気にしないことにした。
砂嵌りを抜けて走っても、依然にして森らしきものは見えなかった。
だから気付けなかったんだ。
ここがもうエルフの森だったなんて……。
「おォい…? "エル符"もナシに"餌流巫の喪理"に来るなんて、"ゴギゲン"な野郎だぜぇ!?」
ビキピキ…!?
そう、俺たちは今、バイクに乗ったヤンキー達に囲まれていた。
ドルン、ドルンドルン…! どるんどるんどんどるん…!!
バイクの吹かしたエンジン音が、逃がさないと告げるようにけたたましい。
やっべーなー。言われるまま車から降りたのは失敗だったなー。
「餌流巫の喪理にようこそォ…!? ここがアタイらの"楽園"でェ……テメェらの"墓場"さァァア!?」!?
「おめーらドコ中だぁコラ! やんのか! やんのかオラ!?」!?
「"挽き肉"にしてしてやんよぉ…?」!?
口々に口汚い暴言を投げかけてくる彼女達。
数は10人程か、改造されたバイクに跨り、特攻服に身を包み、釘バットや木刀や道路標識やツルハシやヨーヨーで武装し、耳は長くとんがっていて、顔立ちの整った金髪集団。
……認めたくねぇ。
もう泣きそうだった。
せっかくの異世界転移なのに、肝心の異世界感はまるでゼロ。唯一の心の拠り所だったエルフが、まさかこんな特攻系女子なんて、なにかの間違いであって欲しい!
「俺たちはエルフに会いに来たんだ! それだけだ!!」
「あぁ? アタイら"エルフ"に、"ニンゲン"が何の用事があるんだァ?!」!?
黒マスクして木刀を持った女が凄む。
これで、彼女達がエルフだと証明された。されてしまった……いっぱい哀しい。
さて何の用事かと聞かれても俺たちは徹頭徹尾エルフに会いたいだけだったから目的は果たしたし長居する必要なんてないからすぐにでも帰ればいいのだ決して念願のエルフが珍走団してて恐いから逃げるとかじゃない。決してない。ほんとだよ?
「吉田逃げ……」
るぞ。っと言い終える前に、俺と吉田の身体に糸が巻き付く!?
「逃がさねぇよぉーぅ…?」!?
絡みつく糸の正体はヨーヨー! 糸の先に目をやれば、日章カラーのインパルスに乗り込んだエルフがドヤ顔で「エルフヨーヨー…!」とか言っててネーミングセンス最高にダサい。
「クソ! こんなヨーヨー糸引き千切ってやる! うおおおおおおぉぉぉーーぉ無理だーー!!?」
「なんじゃぁこの糸は!? もがけばもがく程にキツく絡みついてくる! あかんわ。痛いのに、その痛いのがちょっと気持ちええわ」
お前はSなの? Mなの?
「くくくく! ヴゥァアーカめェ! その"エルフヨーヨー"は"そん"じょ"ソコ"らのヨーヨーとは"ワケ"がちげーぞォ!!?」!?
「古代エルフ魔法の術式を贅沢にあしらってやンのよォー!!」!?
「ドエレー……COOOLじゃん……!」!?
「このエルフヨーヨーを断ち切るなんて、いかなる"武器"を持ってしても"無理"だっつーーの!!
どうしても切りたきゃ"禁聖剣シンシア"でもあれば話は"ベツ"だがよォ!!?」!?
「オイオイオイ! "禁聖剣シンシア"なんて"上等"なモン、コイツらが持ってるワケねーべ!!?」!?
はい売りましたからね。
「そりゃそうだ! "禁聖剣シンシア"と言やぁ俺らの元総長だって見たことネェ、サバイ剣だっつーじゃんよ!」!?
「…おい、城島ァ!? 元総長の話は"御法度"だぜ…!!?」ビキピキ!?
「す、すまねぇ十和田サン。"つい"だよ、"つい"」
「チッ。次からは気ィつけんだな。"お口"に"チャック・ノリス"されたかねーダロ?」!?
「…オーライ了解だ。チャックノリスは"カンベン"だぜ。それならまだ"神樹"に"逆さ吊り"のほうが"億倍""マシ"だ…?!」!?
「"神樹"か……。"懐カシぃ"じゃねぇのよ…!!」!?
「そうだ。十年前まで、ここら一帯は緑豊かな森"だった"……!」!?
先ほどまであんなにオラついてたくせに、神樹のワードが出た途端にエルフヤンキー達は押し黙り、表情は揃って影が差した。
そのうち、一人のエルフが俺たちの前に進み出る。
特攻服には『餌流巫の喪理十六代総長暴走妖精十和田推参』と書かれている。
身動きの取れない状況でこの流れはヤバい。危険だ。まさか……
そのエルフ、十和田は口を開く。
「"神樹"ってのはな……」
やっぱりぃぃィィイー!! コイツ逃げ場のない状況で俺達に"長話"を語るつもりだあああああああ!!?!!?




