#15
吉田名言集
「当たるも八卦、ワタルも魔神英雄伝って言うじゃろ」
「なっ! なななな何をするっスかァ!!?」
「どうもこうも、触れって言ったから触っただけだし」
ヒリヒリと痛む頬を撫でながら俺。
「だからって女の胸をいきなり揉む輩がいるっスか!?
あ、コラ! だから触るなって言ってんだろ!」
この際もう一回くらい揉んでおこうとしたら、バッチコーンと再び平手打ち。左右に紅葉跡がクッキリですね。
「いててて……あのなぁ、大体そんなガラガラ声してたら男だと思うだろが!!」
「はぁー? これは昨日飲み過ぎて酒焼けしちゃっただけでスー! 普段ならCVゆかな余裕でスー!」
「声優まで詳しいとか勘弁して!」
もうここは異世界って思わないほうが生きやすいんじゃないかしら?
あれ? だとすると現代日本で胸をモミモミなんて警察沙汰か!?
うん。この事案を乗り切るには……
「吉田でてこい! パターンBだ!」
「まかせろ!」
車から飛び出した吉田が、店員の前にそびえ立つ!
「な…なんスか……?」
店員が怯んだ。「今だ!」
俺の掛け声と共に、吉田は膝を揃え、三つ指で見事な土下座を披露した!
「俺の連れがスマッセンでしたぁぁあー!!!」
ゲザァァァーッ!!
「え、いや、何もそこまでしなくていいっス! ああもう! 顔上げて!」
突然の吉田土下座に面食らう店員。ククク…予定通り!
「そんな訳にはまいりません! 許してもらえるまで吉田の土下座をやめさせるわけにはいかない! なあ吉田!」
「お許しくだせぇ! どうか宮崎君をお許しくだせぇ!」
「そもそも何で君が頭を下げてんスか!? 普通は逆でしょ!」
ふっふっふっ! これぞパターンB!『悪くない方が土下座で謝る作戦』!
思い起こすは高校時代。近くの公園で缶蹴りしてたら(吉田と二人で)、蹴った缶がヤクザにジャストミートしてしまった事があった。
その際にこのパターンBを試した結果、見事二人揃ってボッコボコにされた実績がある。駄目じゃん!? やっべーパターンB駄目駄目じゃん!?
あっ、でも何故かその後に、ヤクザのオッサンも加わり三人で缶蹴りを続けたな。オッサンは楽しそうだったけど、俺らは生きた心地しなかったよ……。
「くけけけけ。店員さんはまだ俺を許してくれねぇみたいだぞ吉田ァ?
土下座が甘いんじゃないか吉田ぁ? もっとほら、頭を地面に擦り付けるんだよ吉田ァァア!!」
ゲシィ!
吉田の後頭部を踏み付ける! そのままグリグリグリグリィ! やだこれ楽しい!
「なんて非道い事を!! やめるっス! 彼が可哀想っス!?」
「部外者は黙ってろォォオ!!! これは俺と吉田の問題だぜぁーー!!」
「ぐ、ぐぅ……。お許しを、どうか店員さん。宮崎君に慈悲を……!!」
「わああああ許す! 許すから今すぐやめてくれっス!!」
「はあああああー?? それが人にものを乞う態度ですかああああー??
コッチは吉田が土下座までしてるのに、貴方は立ったままってそれ、オカシクないですかぁああー??!
……どうやら此方の誠意がまだ伝わりきれていないようだァ。だったら分かるよな吉田ァ? そーら俺の靴を舐めやがれぇーい!」
「あ? 調子のんなや」
ズコッ!
いい加減プッツンした吉田の腕が、俺の軸足を持ち上げた!
お留守ッ……!!
圧倒的足元がお留守ッ……!!!
バランスを崩した俺はそのまま後ろに倒れこみ、地面に後頭部をしたたかに打ち付ける!! はいゴッツーン☆
「ぃっってぇぇぇええッッ〜〜〜!!?!?」
あまりの痛みに地面をのたうち回ろうとするも、腹部にズシッと吉田が乗っかり、動きが取れない。
わーお、これは見事なマウントポジションだー。
「吉田くん。ぼくら……トモダチ、だよね……?」
吉田はニッコリと笑い、
そのまま腕を振り下ろした。
バチコォーン!!
「なんっで! 俺が! 土下座せんと! おえんのんじゃ!? オォン!!?」
バチコンバチコンバチコォーン!!
吉田の容赦ない両手ビンタが俺を襲う痛い痛い痛い!!
「うがっ! やめっ! ごめっ! ごめんなさい痛い痛い頬が破けるごめん痛いやめてけろォォオーー!!!」
「君ら仲いいの? 悪いの?」
ボロ雑巾となった俺を、ガソリン店員が憐れみながら言った。
そんな目で俺を見るな……。




