表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/27

#14

吉田名言集



「チューハイってあるじゃん? あれは焼酎ハイボールの略語で、ハイボールってのは当時丸い氷をロックにして飲むのが流行ってたんだけど、酒に丸い氷は格好悪いってすぐに廃れたんじゃよ。

それでも一旦流行った流れで、酒じゃなくてジュースに丸い氷を入れるのが定番になったわけ。丸い=ボール。で丸氷のジュースをボールと呼ぶようになった。

それから焼酎にジュースを混ぜたのをボール入焼酎と呼ぶようになって、氷の有る無しも曖昧になってしもうてボール(はい)焼酎、つまりチューハイって言葉だけが残ったんじゃな。嘘じゃけど」




走り続けて数時間。吉田が呟いた。


「あ、ガソリンねぇわ」


ガソリン……!

その発想は無かった!


「ホタル魔法の不思議なチカラで走ってんじゃなかったんだな」


あの王女様はドヤ顔で『車人間』とか言ってたけど、当の吉田は車を呼び出して普通に運転している。

これ、もう車人間というより車召喚しただけだよね?


「俺も魔法で走っとんじゃと気にもかけて無かったけど、今見たらエンプティーランプ付いとるわ。

……エンプティーランプティー付いとるわ!」


「なんでハンプティーダンプティーみたいに言い直したの? 割られたいの?」


しかしこれは困った。

車は走るごとに景色からどんどん緑が消えていき、今は荒野を突き進んでいた。

見渡す限り砂と岩。道路は申し訳程度に土が固められているだけだ。

エルフの森の森要素が微塵も見当たらないよ?

本当に方向合ってるの?

ていうか、ガス欠したら元の町まで徒歩で戻らないといけないパターンだったりする?

うわー、それはすこぶる避けたい事態だなー。


「でも都合よくガソリンスタンドなんてあるわけないしなぁ」


「いや、あったわガソスタ」


みれば道路脇に『ガソリンスタンドこの先5ピロメートル』の立て看板が。



「マジか」


ご都合展開万歳だな。

ピロが何かわからんが、ピロメートルって言うくらいだしkmのことだろう。メートルそのままならキロも頑張れよ……。

大丈夫? 少しでも異世界感だそうと軽い気持ちで単位の名前変えたんだろうけど、そういうのに限って油断した時にボロ出るんだぞ? 気をつけてよね?





「ラッッシャァーセェ!!

ヘイラーイ! ラーイラーイラ……ハーイストップぅオッケーイ!!」


ガソスタに着けば、帽子を目深に被った長髪ガラガラ声のニーチャンがウェーイウェーイと誘導してくれる。

日本のガソスタすぎて異世界感ゼロ! いいよもう。異世界感を期待するだけ無駄ってそろそろ学んだよ。そんな中でエルフが存在するって事実は本当にありがとう!! 褒めてつかわす!



「レギュラー満タン、カードで」


窓を開けて日本でも慣れ親しんだオーダーを出す。

多分通用すると思ったんだけど、店員のニーチャンは「?」と小首を傾げた。


あれ?


もしかしてピロメートルみたいなノリでレギュラーって言葉が通用しないのか?


「ガソリン入れて欲しいんだけど?」


そこまで言って、やっとニーチャンは手をポンと打って納得してくれた。


「お客さんサーセン、うち、セルフなんスよ」


「最初に言えよ!?」


セルフなら誘導なんてしないで下さい!


「なるほどなー。こういう細けぇ所で俺らの常識が外れるあたり、異世界来たって実感するわ」


「してたまるか!」


俺は軽バンから降りてタッチパネルの前に向かう。


「ユシュをセンタクしてクダサーイ」


横から聞こえるガイダンス音声。

音声っていうか、完全にニーチャンが喋ってる。

真横でニーチャンがつきっきりで操作説明してくれてる。


それがお前の仕事なの?


ご丁寧に機会音っぽく喋ってるのが更に癇に障るんだけど?

油種もレギュラー、ハイオク、軽油という意味をなした異世界語。

だったらピロメートルもキロで良かったよね?

その辺りの線引きをどう考えているんでしょうか?

あ、何も考えてない?

だと思ったさ!


「スウリョウをシテイしてオカネをトウニュウしてクダサーイ」


「はいはいレギュラー満タンクレジット」


なまじ操作が日本と一緒なだけ、横のニーチャンがマジでウザい。


「セーデンキジョキョシイトーにフれてからキューユをカイシしてクダサーイ」


はいはい静電気除去シートね。うん?

シートが見当たらない……?


あれれと周りを見回してもそれらしき物は無い。

どうしたものかとニーチャンに向けば、彼は自分の胸についた名札を指差している。


彼の名札。



『伊藤』(異世界語でそう読める)



「ウィーッス! 自分がこの店の静電気除去士『伊藤』っス!」



うーっわ……。


やだなー。こっちさっさとエルフの森いきたいのに、変なキャラと遭遇しちゃったなー、やだなー。


「おいー。はよー給油せーや」


しびれを切らしたか吉田。うるせえ分かってんよ。


「えっ何。君に触ったら静電気が無くなんの?」


「もちろん! ガソスタ店員に危険物取扱と静電気除去魔法資格は必須スよ!

自分は静電気除去士"甲"取得済みスから、安心して欲しいっス!」


「はいよ」


もう何でもいい。疲れた。

ニーチャンの名札めがけて腕を伸ばせば、




むにゅ。





やわら……かい……?



確認のためもう一度。




むにゅむにゃむにゅむにゅむにゅ。




「お前……女だったのか!!?」


「キャアアアアアアアアアア!!??」


バチコーン!

伊藤ちゃんのビンタがクリーンヒット!


遂に訪れたラッキースケベ。やっぱ異世界モノはこうでなくっちゃな!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ