#10
吉田名言集
「せんせー! お腹が痛いから保健室に行ったけど、保健室の先生がババアじゃったから家に帰りまーす!」
禁聖剣シンシア
それは、クライライラ王家代々に伝わる宝剣である!
かつてこの世界には月が5つ存在していた。
嘆きの月『アムサムルム』
渇きの月『ムットーワム』
轟きの月『バムール』
囁きの月『テンパム』
山田の月『山田』
ある時、山田の月より一人の山田の民がこの地へと降り立った。
山田の民は、自らを山田と名乗った。
さてこの山田の民というのは不老不死の個体であり、ある意味群体でもある。
一人の山田の意思は全体の山田の民と共有している。山田は山田の月すべての総意として舞い降りた。
すべてを山田とするために。
「飢えも病気も老いも寿命も孤独も、あらゆる苦しみから解き放ってやろう」
山田のそれは善意からであったが、この地の者達は到底受け入れることは出来なかった。
当然だ。山田を受け入れる事は、個を捨てることと同義なのだ。それは心の死とも言い換えできよう。
無論、抗った。
だが山田はそれを理解出来ない。そして救いの手を自ら拒む不届者と判断し、人類に抗戦した。
山田の力は、圧倒的だった。
特に山田自らの体内血素を操り固めた『月虫刀』は、斬った人を、生物を、有機物を、大地を、海を、空を、無機物を、ニュートリノを、みるみる汚染する恐ろしくも凄惨な威力を誇った。
このまま汚染が続けば、ホタルの住める川が無くなってしまう!
それを危惧した時のホタル魔法使いシンシア・クライライラ・ナーキアは、ある計画を打ち立てた。
そう、有名な『どうせホタル居なくなるなら今のウチに全部のホタルを魔力材料にしちまおう』作戦である!
皆の視線は……冷たかった。
「この女! ホタルを乱獲してからに!?」
「違うの! 私、ホタルを根絶やしにしたいだけなんです! それがホタルのためなんです!!」
最初は誰からも理解されなかった。石を投げられたこともあった。熊に襲われたりもした。ホタルを苛めるなと老若男女から責められた。
しかし、彼女の真摯な活動にいつしか一人、また一人と協力者は増えて行き、ついには世界中の人達の協力のもと、ホタルを一匹残らず狩り尽くすことに成功した。
そのホタル全てを注ぎ込み、彼女は一振りの細剣を創り上げる。それこそが禁聖剣シンシア。
「凄い魔力を秘めた剣だ」
「これならば山田を倒せるかも知れない!」
「剣に自分の名前つけるとか自己顕示欲パネェ!」
人々の希望を背負った禁聖剣シンシアのひと突きは、
月虫刀をへし折り、山田の生命核を貫き、地を穿ち、海を割り、空を越え、山田の月『山田』すら粉砕し、まだまだ行くぜと言わんばかりに渇きの月『ムットーワム』をついでに爆砕した。
こうして、この世界の月は3つになったのだ。
嘆きの月『アムサムルム』は仲間の月が居なくなり哀しんだ。
その嘆きを受けて轟きの月『バムール』は猛り狂った。
バムールの轟く慟哭を聞いて囁きの月『テンパム』は密やかに呪詛を吐き続けた。
山田を誅し訪れたかに見えた平穏も長くは続かない。テンパムの呪詛が地上へと流れ落ち、異形が跋扈す百鬼夜行へとなったのだ。
だが、その頃にはシンシア・クライライラ・ナーキアは国を組織し、禁聖剣シンシアを手に異形に対抗した。
折れた月虫刀を矢じりに加工し、国一番の弓の名手がテンパムに射る。
矢はテンパム地表に突き刺さり、囁きの月は汚染によって赫く染まり呪詛もナリを潜めたかにみえた。
それでもまだ、虫の声さえ聞こえぬ静寂に支配された夜などには、赫い月の囁きが滴り落ちてくるのだという。
囁きを祓う禁聖剣は、今日も静かに光を放ち、我らの平和を見守っている。
といった説明を店主が一生懸命してくれた。
すげー熱弁してくれた。
でもなー、なんかなー、何かにつけ熱く語ってる人みるとコッチ冷めるよなー?
な?
俺だけじゃねぇよな?
大体話がなっげーんだよお前は全校集会の時の校長先生かってレベルでなっげーし校長の話をまともに聞いたことない俺が真面目に聞くわけねーだろが店主の説明とか半分以上右から左だわ。
店主が更にクライライラ国の歴史とか語りだして、流石にもう付き合えない。
コッチから本題に戻してやろう。
「んで、結局この剣いくら?」
「話聞いてた!? おいそれと値段つけらんねーシロモノなんだよコレぇ!!?」
「そんなにすげー剣なんだ。やった! 売るわ」
「軽い! ノリが軽い!? あと話聞けよ値段つけらんねーんだって!! 下手に売買したのがバレたら俺もアンタも打ち首レベルのシロモノなの!!」
「バレなきゃダイジョーブだって! ね? いい子だから我儘言わないで買い取ろ?」
「俺が駄々こねてるみてーに言いやがって! 無理な物は無理だ! そもそもどうやってこの禁聖剣を……いや、聞かないほうが身のためだ! 言うな! 絶対に言うなよ!」
「なんだよ保身に全力ダッシュしやがって。
それなら刀身を鉛か鉄でコーティングして、柄も叩き壊して別の装飾嵌めて別の魔法剣として売り捌けば問題なくね?」
「もったいない上に罰当たりすぎるわァァア!!!」
「あー言えばこー言う! やだやだ。結局、田舎の武器屋なんてそんなもんか」
「あっ? お客さん、テメェ今、なんつった?」
「いやいや、武器屋とは名ばかりの田舎のホームセンター店主には荷が重い案件だったようですねー…なんて言ってませんよー?」
「言ったなァ!!!!」