主席魔導師 1
今日から僕も名門校の生徒だ。
早く行かないと不良生徒認定され、教師から目をつけられてしまう。
「新入生諸君、君たちは誉れ高い。高い志を持ち、魔法使いを目指していることであろう
だが、本来の目的は魔力を操り力に奢ることではない。
力に溺れず御すことである! 諸君は卒業までに其れを学ぶのだ。
我々教員一同、導くことをここに宣言しよう!」
「以上をもち、入学式を……」
閉会の言葉で終わると一同が気を抜いたとき、遠方から爆発音が聞こえた。
厳かな式はぶち壊され、周囲はパニックになる。
こういうアクシデントは伝説の魔法使いの映画でありがちな展開だ。
「もしかして……」
「……」
「なに? なんなの?」
「静粛に! これにて閉会とする!」
「見に行こうぜ」
入学式の終了とともに生徒が野次馬を開始する。
「あらあら、まだ杖を渡していませんのに」
「構わんよ。渡すはずの杖がまだ届いておらん」
野次馬に飲まれながら帰還用の魔法陣へ向かう。
「仰々しく表れたわりに、おそるるに足らん下等魔物ではないか!
斯様な悪魔は捨て置き、貴様らもゲートで帰れ」
「なんだつまんね」
確かに小さくて弱そうな低級魔族。あいつのいう通り構うことはない。
だけど別の魔物がいる気配がする。
「ちょっと! 魔物の色が変わってない?」
「ニンゲン……ケス」
「きゃああああ!」
眼鏡の黒髪おかっぱの女子が攻撃されそうになっている。
一年は杖が配られてないから魔法が使えない。今は教師もいないからヤバイ状況だ。
「新入生が危険だというのに、先生方は何をなさっているのかしら!」
群青髪の上級生が表れて魔物を撃退した。休日なのに、どうして学校にいるのだろう。
「ではごきげんよう」
先輩はホウキにまたがり、さっそうと飛び去った。
僕もあんな風になりたい。
「さすが昔ながらのお嬢様は違うわね」
「おい他所で新入生より目立つなよ。オレ達は本来ここに立ち入り禁止なんだぜ」
「やれやれ……誰がこんな手の込んだ結界を」
◇
「ここが寮か」
ここは寄宿舎学校ではないが、遠方などから来る生徒が住む場所は完備されている。
「先生! 部屋の鍵はどこにあります?」
「君は……これだよ。同室の子の分の鍵も」
「はい」
「そこの君、Eの3号室のヤツを知らないか?」
黒髪のおかっぱ頭の真面目そうな生徒に問われた。
「僕だよ。さっきカギを渡されて」
「そうだったか、先ほどのモンスターは怪しい登場だったな。
卒業生の父が言うには入学式の後に杖が配られ、その日が魔法使い第一歩と言っていたが
入学式に配られるはずの杖は配られず」
「年度によるんじゃないかな。創立200年で数回は発注ミスとか」
「……それもそうか、200年の入学式など把握しようがないしな。妹にも考えすぎといわれたよ」
「おかっぱ頭のさっきモンスターに襲われそうになってた?」
「ああ、双子でクラスは違うが……けがは!?」
「上級生が倒してくれたからおそらく無傷だったよ」
「惹魔体質ではないが、あいつは不幸体質というかよく転ぶんだ」
惹魔体質は大昔に黒魔術で生み出された悪魔と契約するための魔方陣を必要としない人体媒介。
現代にもその呪いを持つ子孫がいると聞く。
「俺はクロードだ。同部屋ということで、これからよろしく」
「ああ、よろしく。僕はレウトだよ。立ち話もなんだから荷物置きに行こうか」