只スの村人 一話 ロハス
――ここはまったりとのんびりと日々が過ぎて、美味しい作物が沢山実るいい星サタナスである。
ただ自分と皆が変わらず幸せに暮らせればいいと常日頃から神様に感謝している。
「せいがでますね」
幼馴染で村長の息子ヒイロが視察にやってきた。いいやつだが金銭感覚が緩くてよく一部の農家に騙される。
「なんか買う?」
「スタァフルウツなるものをテレビで見たんですが」
「それは温暖気候の作物だし果物だからエリア・トロカピアンのフルーテア国に行かないとないなあ……来年でいいなら育てるけど」
来年ということで今年はママイヤで我慢してもらった。
「相変わらず品揃え悪いよねー」
意地悪な農家の娘ラギレが母親ときた。
「なにかかいにきたの?」
「うちはアンタの家より品数多いの寝言は寝ていいなさいよ~」
ひやかしならどうでもいいや。
「閉店ガラガラ~」
「あ、ちょっと!」
さて畑仕事に戻って、ボタンをおして水田の水を調節させる。
「これもドルゼイ様のおかげなんだよなあ……」
かつてこの星は悪い王が民を強いたげていた。それをドルゼイ皇子が討ち、他の星をも牽制するようになった。
「ねえ」
でももう刺激ならば隣の畑のスパイスで足りているし、ダメ男の父さんだって結婚できたのだから嫁さんだっていつか来るだろう。
「何かかいにきた?」
「お肉ないの?」
虚ろな目をした少女はたずねる。
「ここで売ってるのは作物類だから。肉ならディーツ、魚ならアクアルド、チーズはドゥーヴル星、バターはバタカンチンだよ」
といっても宗教的に肉を禁止しているので食べない。
「のど乾いた」
「じゃあしぼりたてリンgoジュース、200円だよ」
「商売うまい」
「一人暮らしだからね」
「一人で畑と店して盗まれないの?」
「監視カメラあるし」
「領地ド・イーナカのくせに……」
「あはは……」
見かけない変な少女はその場に空気イスを始めた。
「観光?」
「ううん。下半球ドルゼイから来た」
ドルゼイということは星の憲兵もとい構成員の子だろうか。
「へーなんで?」
「14の誕生日だから、やっと外出できる」
そういうルールがあるとは知らなかった。普通は自分が構成員だと俺達に知られるような単語を使わないからだ。
「きみ名前は?」
「ロイン、あなたは」
「俺はシュジ」
「またきていい?」
「うん」
■■■
「やれやれ、こんなド田舎に旅行なんてクイーン陛下に嫌われたものだな……」
銀髪の男は白馬から降りると、想像以上に広大な田畑にため息をつく。
「でも食べ物は美味しいって聞きますよ!」
焦茶髪の女が黒馬から降り励ます。
「ここ肉食禁止なんだよ?まあ禁欲暴発防止のために酒場はあるみたいだけど、賭博もないとかさあ……肉あるだけ軍事星家マージンがよかったなあ」
男は雑草を眺めながらぐちぐちと話す。
「たまには武器やら肉ばかりでなく他の栄養をとれっていう陛下のありがたい気づかいじゃないですかー?」
すかさず女は彼をなだめる。
「てかこの星、どうせ野菜しかないよ」
「野菜はいただけないけどメシマズのマキュスや魚料理しかない従属星アクアルドよりパァンや果物があるってだけマシです!」
騒ぎ立てる二名に、配下兵や周りの民が集まる。
「へーあの帝都ジュグの首都であるディーツ騎士団さんの旅行!?」
「ようこそいらっしゃいました!」
村人は騎士団達をもてなす。都会から来たとはいえ田舎のなんか懐かしい雰囲気に大半が和む。
「うわ……盛大に歓迎されちゃったよ」
「あはは、元は隊長のせいじゃないですかー!」
女はバシバシ背を叩いた。
「暇だなあ……」
「なにか買い食いしたらいいじゃないですか隊長さま」
女は売店で買ったグマ餅を食べながら歩く。
「さっきからなんでずっと付いてくるんだ君」
「女王陛下から特に女遊びには呉々も目をつけておけってご命令があったのでーあ、シメリケセンペイ」
といいつつ買い食いを続ける。
「あ、なんかコヂンマリした店と地味な店主にかわいい看板娘ですよ!」
隊長は地味な店主と看板娘のいる店に半ば強引に座らせられる。
■■
「いらっしゃいませー」
「チェコヴレッド2斤ちょうだーい!」
焦げ茶髪の少女はコインをロイン指で弾き渡した。
「別に継承権はないんだからどこで現地妻を作ろうと問題ないよね」
銀髪の男性は隣の女性になにやら難しい話をした。
「そうですけど陛下はビタ一コイン払いたくないとかで……え、看板娘ちゃんを現地妻に!?」
「なんで嬉しそうな反応するかな」
「だって主食は肉なのに草くってる隊長が現地妻作るって聞いたら……」
「いつからお母さんになったよ」
「隊長、酒場にめっちゃ美人いるんすけど!」
「隊長もどうですか!?」
彼は噂の騎士団の隊長らしく、私服の部下兵達は興奮している。
観光客はお金になるので酒場には飛びきりの美女と屈強な男がいる。
そして食事の材料はもちろんこの星産である。
「体調よくないからいいや」
隊長だけに体調よくないってことか、まあどうせ酒が飲めないんだろう。
部下兵の人達は特に気にせずお大事にといいながら去った。
「ねーお二人さんはどんな関係なの兄妹?」
「え!?」
「昨日初めてあって今日また来た。店やってみてる」
「へーにしても地味店主も看板娘も若いね何歳なの?」
このディーツ星人、超絶フレンドリーで苦手なタイプだ。
「18です」
「14さい」
「あの、シュジ」
「あ、ヒイロ」
昨日は俺一人だったから普通だったが、彼は極度の人見知りタイプである。
「えっと、明日賓客が来るので高いものをください」
「え、どこの国」
「インダ地区のヴィサナス星です。多神教で何やら食事も難しそうで……」
「あー酒類はイシタル神の飲み物だから禁止らしいよね。あとは肉禁止でスパイスが好きな星らしいよ」
というわけで普通にカレェとナァンを用意する事にした。
「そうだ。せっかくだし味見していかないか?」
ヒイロは村長の息子であり世間しらずだ。意地悪農家の娘ラギレも井の中の玉の輿を狙っている。
友人、村人として彼が騙されラギレのような女や家が裕福になるなどは嫌だ。
せめて人の善し悪しを見抜く力を身に付けてもらいたい。
「あ、村長の息子さんよ」
「珍しいわね」
村の女性達がわらわら集まっている。皆、やたら村長の息子としか呼ばない。
「でも、相席になってはご迷惑じゃ……」
ヒイロの母はテラネス星の首地であるジャポナスの生まれでやはり内向的だ。
いつか村長を継ぐのは彼と決まっているのだからしっかりしてもらいたい。
「前の席にどうぞヒイロさん」
人のいい焦げ茶髪の女性はにこやかにしている。
「はあ……もっと威張ってもいいんだよ未来の村長様だ敬えって」
「そんな、村長はあくまで小さな代表ですし……」
「貴族の勘違い子息共に爪の垢を飲ませてやりたいくらいだねぇ」
隊長さんは頭をかかえた。
「……あいてるか?」
「ラウシュ!」
「二人とも、久しぶりだな」
彼はヒイロ共通の幼馴染で外星員の息子のため各惑星を移動していた。
「もう会えないかと思ってたよ」
とヒイロがいう。
「明日インダから来るっていう賓客の観光ガイドにきたんだ」
「はは、そりゃこの上ないガイドだ」
―――二日間で謎の少女、観光客、幼馴染との再開と立て続けに起きて忙しい。
「せっかくだしラウシュもカレェ食べていきなよ」
「なら相伴にあずかろうとするか……辛くするなよ」
照れながら言われるが男の照れ顔なんて嬉しくないのでやめてほしい。
「からいめし」
「なんだお前の幼妻か?」
「ぶー!」
なにも飲んでないがふいた。
「冗談だ。お前に嫁がいて俺にいないのはおかしいからな」
「……沢山の星をめぐってるのに意外だね」
「あ、現地妻はいるんでしょー」
「で、この女誰だ。ヒイロの嫁か?」
「都合悪いことあるとコレだよ……」
「私はサルヴェナでこちらは騎士団隊長のファイセンさま」
「あ、先にいっとくけど彼女は副官だからね」
自分が言うのもなんだがどいつもこいつも女気がない。
■■
村長宅にヴィサナス星のインダ領首地の外交官フォボスが来訪した。
留守の父親に変わってヒイロがやるらしいが、不安だから協力してくれと言われた。
「この星は涼しいですね」
生まれながらに美神の加護を受け、金髪に白磁の肌を持つ種族である。
干上がった土地で、暑さに耐性があるらしい。
「暖房をつけたほうがよろしいですか」
「いえ丁度いいくらいで、何せあの星は暑いですから王侯貴族はクーラーが手放せないのです」
取り合えずヒイロには、インダでは毎日カレェ食べるんですかとかの愚問は止めろと言っておいた。
「そういえば、小耳に挟んだ程度なのですが」
「はい、なんでしょう」
「ここにはジュグ帝国の騎士が羽休めに来ていると」
おそらくここに来たのはこの星を踏み台にジュグ帝国星と同盟を結びたいとかだろう。
「ええ、昨日は食事をさせていただきました。……ご友人でもいらっしゃるのですか?」
ヒイロがナイスな返しをした。先にジュグと親しいアピールをしてナチュラルにインダを牽制するとはやるものだ。
「ええ、ジュグ帝国とは1000年に渡る同盟を結んでいますので近々ご挨拶に向かおうと思っていましたから」
――ならさっきの予測は外れたな。ただ単にどの国とも仲良くしたいだけらしい。
「そろそろこの星内をご案内させて頂きたいのですが」
視察とか言うと嫌味に聞こえるし観光も違うだろうし、偉い人は滅多に来ない為に連れ出す時の単語は浮かばなかったようだ。
「出来ればイーナカ領の民の暮らしを拝見したいですね」
「民の暮らしですか?」
金持ちは変な奴が多いと聞くが、なんでそんなものをみたがるんだろ。
「ヴィサナス星では主に砂で民芸品を作りますので農耕に興味があります。サニュ星が近く干魃から作物など育つ土地がありませんから」
農耕ができない国があるなんて考えた事もなかった。
「えっと……これが畑です。この機械で麦や作物に与える水分を調節しています」
「農耕に機械が用いられているとは、本には記されていないので新たな発見がありました」
それにしても外交官の金持ち大使が農耕に真面目に興味があるとは思えない。
どうせ社交辞令とかいうやつで、その場しのぎに褒めてるフリだろう。
「フォボス大使、何かお好きな料理はありますか?」
「では果物入りのグラノウラを」
それ意識高い系イマドキ女子がよく食べるやつじゃん。
店にはもっと高いメニューがあるんだから金持ちはそれを頼んでクレープ。
「私が生まれたダースイン領ではサニュ星からもたらされた様々な宗教がありまして、その中でも栄養をとらずに早死するというものがあります」
美と光を司るヴィサナス星のあるエリア:インダはかつてエリア:ヨウコクのマキュス星に管理されていたが解放されたらしい。
「は、はあ。でもそれ栄養満天ですよ」
その後は知識と水を司るマキュスが近づけないようにサニュ星の近くにいるという。
「ええ、私は宗教に興味がありませんから栄養をとり長生きする所存です」
まだ24くらいの見た目なのに随分と先を考えている。
「ところでこの星では動物の肉を一切食べないそうですね」
「はい。ヴィサナス星では動物を愛していたり宗教的な面なのでしょうか?」
「まあ、そうなりますね。神聖とされる生物もいます」
「このサタナス星では一部の動物の肉が穢らわしいとされてきたのです。数年に渡る概念の変化で特定の動物を差別するのではなくすべての動物を禁じる事になりました」
そんな理由だったなんてしらなかった。
「では蛋白質はどう補っているんでしょうか?」
「乳製品やお菓子などから、民によって様々です」
一時はどうなることかと気を揉んでいたがヒイロは結構それらしい案内や対話が出来てきている。
「今日の夜は僭越ながらフォボス様ご一行の来訪パーティーを開かせていただきます」
「それは楽しみです。なあ、そうだろう?」
後ろにひかえている数名の警護の兵が小さくうなずく。
「そういえば隊長、今日の夜に村長宅でパーティーがあるらしいです」
サルヴェナはクッキーを食べながら話す。
「ああ、大使と賓客の接待だって言ってたね」
興味がないと欠伸をして本をかぶるファイセン。
「インダとは同盟の件もあるし、今年も穏便に恩を売っておくか……」
「例えると会員カードの更新ですね。パーティー衣装はどうします?」
ファイセンは田舎のパーティーなどたかが知れていると笑った。
■■
村長宅の地下でパーティーが始まる。田舎だが首星地のため村長宅は豪邸だ。
「それにしてもラウシュ、ガイドにこなかったね」
「ラウシュなら父に同行しています」
まあここだけなら道案内は必要ないと考えてスケジュール調整したのか。
明日は村長が戻る日だからその時だろう。
「んまーい」
「副官長殿、食べすぎです!」
昨日しりあった騎士の隊長とその補佐とたぶん他兵士が小さな騒ぎをおこしている。
「お久しぶりですファイセン殿下」
「フォボス中尉、このような場所で会うとは奇遇ですね」
二人は不穏な空気を漂わせながら会話を始めた。
「こちらはティニュ少尉とテオ准尉です」
「お初にお目にかかります大尉」
気の強そうな褐色の赤毛女性が挨拶した。
その後ろで色白の金髪少年がペコリと会釈している。
「彼女は補佐官、サルヴェナ准尉だ」
サルヴェナは何も語らず頭を下げた。さすがにいつもの明るさがない。
「折り入ってお話がございます」
フォボスはファイセンに近づく。取引か何かを持ちかけるようだ。
「なにか?」
――それにしても、騎士団と軍が両方あるなんてしらなかったな。
「彼女は王族、ハージャンの血を引いているのです。母親はハビスナという星一番の美女で、その年最新のマシンにくべられ、唯一子孫を残す事を許されています」
「ああ、それはそれは……」
ファイセンはつまらなそうに聞き流す。
ジュプスやヴィサナスなどの先進星は遺伝子淘汰をしているらしい。
「ぜひ愛妾にいかがでしょう?」
「誠に残念だがこちらの国には、そういう制度は無いんだ。只断るのは気が引けるから、ヨウコクの友人に独身の公子がいるので、そちらを紹介しようか」
これが大人の対応か―――
「では、そちらは内々に……」
「まだ何かあるのかな?」
フォボスはまだ取引を持ちかけようとしている。
「貴方の補佐官であるそちらの方を、ぜひ私の妻にしたいと思うのですが」
フォボスはサルヴェナを手で差している。
「おや、愛人にではなく?」
「ええ、恥ずかしながら私は未だ妻を迎えていないのです」
「これは意外や意外」
彼等の会話に周りは興味津々で聞き耳をたてている。
「しかし、貴殿はコルビパン公の三男で侯爵位や子爵位を持っている。本妻とあらば彼女の家とは釣り合わないでしょう」
「長男や王子に生まれなくてよかったと思っておりますよ」