クリスマス時雪
聖なる夜?知りませんね!と思いながらゲームを始めて実に十二時間。
コタツの温かさは優しく僕を眠りに誘って行った…
「メリークリスマス!!!!」
こたつで寝落ちを決めていた僕、時人を起こす大きな声。
びっくりして目をパチクリさせている目線の先には雪がいた。
「雪ちゃん、来ていたの…?」
「ええ、なんせクリスマスですから!サンタの雪ちゃん参上!」
そんなキャラだっけ、とツッコむのを堪え時計を見る。
午後2時、今日は快眠だったようだ。
サンタ・ド・ユキは赤い服ではなく一般的な服装である。
「サンタにしては随分質素な格好だね」
「雪サンタは家庭的な格好を好むのであります」
手を抜きすぎたサンタのようだ。
「サンタさん僕の欲しいものはあったかいコタツと静かな休眠の時間だよ…」
そう言って僕はコタツにすっぽりと潜った。
温かい、こここそ僕の聖地だ。
「せっかくケーキ作ってきたのに。」
「…」
僕は案外ちょろいのだ。
好きな女の子の手作りケーキを食べたくない奴がいるだろうか。
コタツから顔を出すと雪がニヤけた表情をしていた。
「うわ、腹立つ顔だなぁ」
「ご覧ください、雪ちゃん特製チョコレートケーキ!」
明らかにセベンイレベンの美味しいチョコレートケーキがコタツの上に置かれている。
「雪ちゃん、『作ってきた』って言ったよね…?」
市販だ、どう見間違えたとしてもこのケーキは市販だ。
「作ったよ!ほら見て!」
指差す場所はチョコレートケーキが入っているカップ……に書かれている『愛情を注ぎました』の文字。
「書かれている通りでございます!愛情を注ぎました!」
やはりあなた、そんなキャラでございましたっけ?と聞きたいのは堪える。
「アアウンアイジョウタップリダオイシソー」
こうなったら何もかも気にしては負けである。
愛情を注ぎましたの文字が書かれているカップを取りチョコレートをついていたフォークで食べ始めた、市販の味がする。
「美味しい?」
「普通に美味しいよ。」
寒いのか、雪が僕の身体を押しのけコタツに入ってきた。
密着する身体、ほんのり女の子の香りがしてきて市販のチョコレートケーキを許せる気持ちが湧いてしまった。
「雪ちゃんは何か欲しいもの、ある?」
「市販じゃないチョコレートケーキ」
「自分で作りなよ。」
機嫌の悪そうな顔をする雪の口元へ、チョコレートケーキを一口やる。
美味しい、とふやけた笑顔を見せた。
「時人は何かないの?」
どうやらチョコレートケーキ以外にもくれるようだ。
手作りのチョコレートケーキと言うほど僕も意地悪ではない。
少し考えた後、雪の右手を引き寄せて指をなぞった。
「雪ちゃんの、右手の薬指。」
反応を見ると顔を真っ赤にさせながら雪は不満そうに眉間に皺を寄せていた。
「…左手じゃないの?」
「左手は将来の旦那さんの為に取っておきなよ。」
僕は君の将来を縛る権利がない。
そのまま指を絡め合うと雪は右手に強く力を込めてきた。
「私の欲しいもの、言っていい?」
「どうぞ。」
雪は右手と同じように左手の指と僕の右手の指を絡めた。
「時人の指、ぜーんぶ欲しい。」
にぃっと笑った雪。
突飛な願いに僕はあんぐりとする。
私も右手の薬指かな…とかいいえ私は左手の薬指よ。とか言うと思ったのに
「ぜ、全部ですか。」
「もちろん、ぜーんぶよ。」
そう言った雪はいきなり僕の唇へと噛み付いた。
口の中に血の味が広がる。
時々彼女はとても、なんというか積極的だ…。
「時人の全部、欲しいの。」
色づいた目は楽しそうに僕を見ていた。
入ってくる舌を拒まず受け入れると血の味がする、と言うように目を細めた。
きっと舌を噛みちぎりあったらこんな味がするんだよ、なんて口が裂けても言えない。
主導権はいつの間にか僕に代わり、雪を押し倒して散々舌で遊んだ。
やっと口を離すと息を荒げながら嬉しそうに雪は言った。
「舌、噛みちぎったらさ、こんな味、するのかな。」
「…試してみる?」
まだ3時にすらなってないのになあ、なんて呑気な声が聞こえた気はした。