5話
CGの基地.ギルベルトとヴァランを含む第一斑は計画の資料を整理していた.
「ヴァラン,ちょっといいか?」
ギルベルトはヴァランを自分の机に呼び寄せる.
「次の作戦での人員を考えると,ペギーとジロラモを組むしかないんだが,説得してきてくれ」
「…他には不可能ですか?」
「誰も手が空いていない.ベルトランを呼ぶ手もあるが…,あいつも教団の方で予定を組んでいて,緊急でもないのに呼べるかどうか」
「まあ,そうですね.仲が悪いから呼び出す,なんて納得しないでしょう.はあ…,説得してきます」
「ペギー,少し話がしたい.今いいか?」
ヴァランはペギーに電話を掛けた.
「30秒待って頂戴」
ペギーは向こうの臨時基地で聞き取れないが何か指示をしているようだ.
「待たせて悪かったわね.それで,話というのは?」
「次の作戦で,ああ,内容については次に君が本部に戻るときに話す.危険性を考えてβの力を持つ人を2人以上で行動させたい.そこで,ジロラモと組んでくれ.誰も手が空いてないんだ」
「嫌よ」
「君が嫌っているのは分かるが…」
「奴は組織にとっての癌細胞.とっとと取り除くべき.奴はグンナーやジュールのような無能とは格の違う無能だ,いや害悪だ」
「いつまでも昔の失敗を言うもんじゃない.彼だって成長した」
「成長?無理だね.奴が行動するだけで私達の仕事が増える.間違った方向へ全力で進み,それで疲れてハイ,満足だ.組織の栄光浴で自尊心を覆い,自分の行動の価値を揺るがしかねないものは排除する.辞書の屑の欄にジロラモのこと,って書いてないのが不思議なくらいだ」
「だが彼には人望がある…,それだけでも価値があるんじゃないか?」
「人望?発想が逆だ.類は友を呼ぶというだろう?奴が居るから,そういう奴が集まるんだ.だからこの組織はいつまで経っても強くならないんだよ.奴を排除するべきだともう一度言う」
「私は,今の所,ジロラモを排除する気はない.君のは愚痴だ.愚痴でなく,現実にしたくば,私と同等の権力を持ってからすることだ」
「そのために,次の作戦は我慢してしたがって,成果を上げて昇格しろと言いたいのか?奴が何もしなければ,私はもっと楽ができて,今より組織のために調べる余裕も考える余裕もできるというのに.奴と組まない仕事なら肩代わりするから,それで別の奴を捻出しろ」
「…決まったらまた連絡する」
ヴァランは電話を切った.
「ジロラモから説得してみるか,それでだめなら仕方ない…」
「ジロラモ,次の作戦でペギーと組んで貰いたい」
「は?」
「危険性を考えてβの力を持つ者が2人以上居る.しかし,誰も手が空いていない」
「お前は?」
「私は本部に残る.当然だ」
「ペギー,あいつは嫌いだ.組みたくないね」
「そんなことは百も承知だ」
「いや,分かってないね.お前は言葉の上では分かっているが,その言葉が意味することまで分かっていない」
「要するに大嫌い,と」
「大っ嫌いだ」
「はあ,そうは言うが組織のためを思って,耐えてくれないか」
「無理だ.あいつは俺のプライドを踏みにじるし,言葉の端々にも毒を以って接してくる.言い出したらキリがないが,とにかく,絶望的に相性が悪いんだ.まともに仕事なんてできない」
「はあ,無理か…」
司令室.期限過ぎてもファイルがヴァランのパソコンに送られていないので,ジュールに電話をする.
「ヴァランだ.ジュール,頼んでいたファイルが届いてないが,どうした?」
「あ,その…できてません」
「もう2回も延長したんだが…ではいつ頃できそうだ?」
ヴァランは怒りを抑えつつ,冷静に対応する.
「……」
「…どうした?」
「それが…,まだサンプリングできてません?」
「は?検定ではなく?」
「はい…実は,どうやってやればいいか分からなくて…」
「え?修正で手間取ってるというのは嘘だったの?」
「……」
「最尤法だとおかしいから別の方法で試すって言ってたろ?」
「……」
「なんとか言えよ」
「はい…」
「分からないなら聞けばいいじゃないか」
「はい…」
「なんで延長した後で,最初からできてないって言うのさ….せめてもっと早くに言ってくれれば良かったのに….ばれなきゃ何とかなると思ったのか,囚人のジレンマ?まあそれはさておき…」
「どうすればいいですか?」
「聞きたいのはこっちだよ….もういい,好きにしてろ,その仕事はまた振りなおす」
ヴァランは電話を切った.
ギルベルトとヴァランは作戦から帰ってきたグンナーの報告を聞く.
「と言うわけで,私は最後まで抵抗したのです.しかし,力及ばず…」
「真っ赤な嘘だ!」
耐えていた平隊員たちが怒りを露にする.
「聞いてください.こいつは,SCのファルシオンに一瞬で負け,パーツを差し出して降伏すると,それに飽き足らず,CGの会員証まで差出したんです.CGの様々な情報にアクセスできるβの会員証をですよ?」
「嘘です.こいつは私を陥れようとしているんですよ」
「グンナー,それが正しいかどうかは私たちが判断することだ」
「それで一旦逃げたんですけど,カードの効力を止めるように本部に伝えようとしたら脅してやめさせるんですよ.信じられます?こいつは,自分が恥をかきたくないからという理由で組織を危険に追いやったんですよ」
「ちょっと待て,カードはもう止めたのか?」
「いえ,その必要はありません.破壊しました」
「ファルシオンの使い魔へ囮を向けて,かつファルシオンの隙を見て破壊しました」
「それならいいか.しかし念のため後で変えておこう」
「これで終わりじゃありません.カードを複製させて,その痕跡を消すように,俺達に脅したんです」
「ふむ,これらは本当かグンナー?」
「まるで,すぐに降伏して,しかも手柄を横取りする奴みたいじゃないか?」
「そう言っているんだ!」
「こいつらの言っていることは嘘です.仕事をサボりたいから嘘をついたのでしょう.俺を牢屋に入れて,次の上官が決まるまでの自由時間を謳歌したいのでしょうよ.いやあ,上に立つ者は憎まれ役ですからな」
「きさま,よくもぬけぬけと!」
「どうやらすぐには分かりそうにないな.ここは調査すべきだと思うが,どうだヴァラン?」
「時間も労力も惜しいですが,仕方ありませんね.グンナー,君は調べ終わるまで閉じ込める.βの力で真実を捻じ曲げられる可能性があるからな.(仕事の配分をまた考えなくては…はあ…)」
「(私が上手く伝えられないから上手くいかないのだろうか,彼らが無能だから上手くいかないのだろうか.…客観的に見なければ分からないな.かといって頭の中にイラつきを残したままでは歪んで見えてしまう.テキストに愚痴書いてみよう.まあ人間のやることだから客観的なんてありえない.観察の理論負荷性と言ったかな?いやちょっと違うか.それに説明というものは統合させることで,誤差を無視するのを積み重ねていくこと.まあいい,それを考えても今すぐどうかできるわけじゃない.書きこむか)」
ヴァランは自分の席に座り,テキストを起動した.
「(…これはサボりではない.今後の改善のための分析の前の毒抜きとでもいうものだ.そうだとも私はサボりではない.そうだ,無能って何パターンあるんだろう?できないと言えずに時間切れになってからできませんでした,というタイプ.いい返事だが,その本質はこちらがとコミュニケーションを取りたくないからびびらせようというタイプ.今までの行動が間違いだと言われたくないから新しい方法を聞き入れないタイプ.こちらが喜ぶデータしか出してこないコンサル.いや…全員が有能である必要は無い.有能な奴が上に立てばいいだけのこと.問題はβの力持ちの力は強く上の地位になってしまうから.とはいえ,そうでもしないと評議会に振り回されることになる.それはもっと不味い.生まれ持っての弱点と言ったところか.無くすのは無理だから悪影響を弱める手を考えるしかない.まあとにかくCGの駄目なところを書こう.……」
ヴァランは文字を打ち込む.パワーバランスの欠陥,ミスが発生する状況,ガーディアンズに負けるとき,抜けたメンバーの影響などを書き連ねる.
「(だめだ,ガーディアンスやSCに勝てるわけが無い.無理だ.何を打とうが手遅れだ.不可能だ.この組織との遭遇はもはやボーナスステージに突入したも同然だ….こんなところに居られるか!)」
「アキノ君,私はこれから極秘の仕事に出る.だから私は当分CGの呼び出しに出られない.極秘だから内容は他のメンバーにも言えない.長官たちには海で泳ぎに行ったと伝えてくれ.それで通じる.通じない奴はこの部屋に呼び出して,極秘任務の別名だと行ってくれ」
「分かりました」
「それじゃ」
ヴァランは部屋から出て行く.
ヴァランは駅前の町に出た.駅には6つの鉄道会社と3つのバス会社がそれぞれの路線の駅を持ち,それぞれの会社ごとの南口,北口,等の出入口がある.駅の周囲は地上のほかに2層の楕円で囲まれた通路があり,その通路から周囲のビルに入ることができる.電車は橋の上か,地下にあり,地表には1つも走っておらず,駅の周囲は車道となっていおり,車道の地下と上の楕円の通路が歩道となっている.
ヴァランは,上の通路を通り,空中庭園を横切ってカフェに入った.
「(この辺りはCGの私服がうろついている.ガーディアンズに合うこともないだろう)」
ヴァランはキャラメル入りのコーヒーを注文し,庭園の見える窓際の席に座る.近くから男女の会話が聞こえてくる.
「ジュード,今日はどうだった?」
「ここに来ると色んなものが売っていて面白いね.服ってあんなに種類があるんだな」
「それでも男性用は少ないけどね」
「男性用はどれも似たり寄ったりな感じだった気がする.差が分かるほど詳しくないだけかもしれないが」
「あれ?もしかして女性用の服について言ってた?」
「いや,男女両方.しかし高いな…」
「いつもどこかが会員限定のセールやって値引き状態だから,そうでないととても高く見えるねえ.そうそう,実験場に木が欲しいな,って思ったんだけど…」
「実験に使うのか?観賞用か?」
「観賞用.あそこ殺風景じゃない?」
「それは俺も思ってた.さっき店の前を通ったら欲しくなった?」
「思い出しただけ.別に影響されたわけじゃないから.あ,でもジュードも欲しいっていうなら買おうよ」
「ふふ…,そうだな…俺も欲しい.エルサはどんな感じのが欲しいんだ?」
「詳しく知らないんだけど落葉と常緑どっちがいい?」
「用途によって違う.落葉樹は夏は緑陰樹,冬は日差しを通す,といった使い方ができるほか,紅葉が見られる.常緑樹は年中緑だから,物悲しい冬でも葉が見られる.冬に咲く花もある.ああ,常緑樹でも古い葉は落ちる」
「じゃあ常緑樹がいい.ジュードは?」
「食餌木」
「どっちでもない…」
「これは外に植えよう.鳥が来る.室内なら常緑かなあ,年中緑だから.日当たりと風通しが不安だが…」
「何にする?」
「見てから決めよう.椿とか金木犀とか松とかローズマリーもいいな」
「よし,行こう!…あっ,CGのヴァラン!」
「なぜお前達がここに?」
「こっちの台詞だ.なぜここにいる?」
「まあ,落ち着け.あまり騒ぐと他のCGに見つかるかもしれない」
「どういうことだ?」
「CGを辞めたんだよ.奴らについていけなくなった」
「お前がCGのメンバーに変わりは無い.今,ここで!」
「待てエルサ,ここは不味い.一緒についてきてもらおう.お前一人で俺達に対抗できまい」
「…(私はエルサの仇の仲間だった.どんな危険があるか….辞めた直後にこいつらに遭遇するとはついていない…明日には山か海の中だろうな)」
ジュードたちはヴァランを連れて地下道に入り,関係者以外立ち入り禁止区域に入った後,ヴァランを目隠しして,車に乗せて走り出した.
ガーディアンズの基地に着いた.本部とは遠い,通信機能と規模の小さい整備場しかない.
「シェイド,出て来い」
ジュードはヴァランを奥の部屋へ入れ,シェイドに見張らせた.隣の部屋でエルサは机のボタンを押して通信機の電源をつけ,暗証番号を入力する.ジュードが部屋に入ったのを確認して通信を始める.モニターに半透明の色つきの帯が2つ現れる.それぞれCentral ,The Clockと書かれており,Centralの帯には赤い円が,The Clockの帯には緑の円がある.すぐにCentralも緑の円になった.
「こちらジュード.どうぞ」
「こちら研究所.どうした?」
機械音声が聞こえる.
「ヴァランを捕まえました.これから連れて行ってもよろしいですか?」
エルサは驚き,ジュードの顔を見る.
「様子は?」
「大人しくついてきています」
「…そこでもう少し様子を見てからだ.君が大丈夫だと思ったら連れて来てくれ」
「私の判断でよろしいのですか?」
「問題ない」
「了解.通信終わり」
2人は隣の部屋に行き,ヴァランを連れ出し,隠し扉を開けて倉庫に出た.倉庫のボタンを押して,地下から車を上に出す.
「ヴァラン,確認したいことがある.最近,CGで調査中の場所があるはずだが…」
「いくつかある.教えろと?」
「教えてくれたら助けよう.仲間にしてもいい」
「(そんなこと言って喋るわけない…)」
エルサは半目で2人のやり取りを見る.
「では採掘場へ案内する」
「採掘場?何の?」
「魔銃のパーツだ」
「よし,案内してもらおう」
車が外に出た後,ジュードは目隠しを外した.ヴァランは明るさに面食らったが,徐々になれて地図を指差した.
3人は採掘場に着いた.ジュードが外を眺める.
「ここにβの力を持つ奴は居るのか?」
「ジロラモが居るはずだ」
「他には?」
「いない」
「…そうか.ここで大人しくしていてもらおう.出て来い,コバ…,いや,シェイド」
バッジからシェイドが飛び出し,ヴァランの隣に座る.
「ここを透明にして隠してくれ.エルサ,準備はいいか?」
「ええ」
「よし,行こう」
ジュードとエルサは外に出た.
「まずは,パーツがあるかどうかを調べる.しかし,コバルトの存在をヴァランに知られたくない,念のために.それに2体同時に操るのは難しい」
「他に潜入向けの使い魔はいない以上,私達でやるしかないようね」
2人は採掘場の前の小屋に忍び込んだ.天井裏に隠れる.下から会話が聞こえる.
「いやあ,CGはやっぱり変態だ.あんなロボット作るなんて」
ジロラモが話題を出すと周囲の人が即座に反応する.
「人型です」
「ネットワークリンク!」
「キュルキュル」
笑い声が聞こえる.
「(どこが笑うところなの…?)」
「……」
「ジロラモさん,ちょっと来てください.パーツらしきものが見つかりました」
「よし,今行く」
全員ぞろぞろと出て行った.ジュードとエルサは下に降りる.
「何で彼らは笑ってたの?」
「さあ?フレーズを口に出したら思い出して笑うんじゃないかな?」
「ああ,なるほど」
ジュードは壁に掛かっているボードを読み,特に有益な情報が無いのを確認し,引き出しの中を見た.
「カードキーあるけど,取っておく?」
「いや,ヴィヴィが居るから要らない.うーん,これといって新しい情報はなさそうだ.ジロラモの跡を追ってパーツを横取りしよう」
ジロラモは魔銃のパーツを見つけた.
「やったぞ.早速手配をして本部へ送るぞ」
「そうは行かないぜ!(ここで逃すと面倒だ)」
「ジュードか,どこから入ってきたが知らないが,お前の相手をしている暇はない」
「勝てないから逃げるのか?」
「なんだと?」
「お前はCGを賞賛することで,その一員たるジロラモという人物も同時に賞賛されたように錯覚しているに過ぎない.ただの栄光浴.戦ってみれば分かるさ,思い込みとは違い現実は大したことがない人物だということがな」
「大したことないだと?ならばその目に焼き付けるがいい.この俺の力を!こい,エンオ!」
ジロラモはバッジから使い魔を出した.
「来い,ホーリー」
岩陰からエルサがバッジから使い魔を出す.
「エルサもいたのか」
「相手は私がする」
「いいだろう.まずはお前からだ」
ジュードはシェイドの力の一部を使い,襲い掛かるCG兵を念力でなぎ倒してパーツへ向かう.
エンオは両腕を前に突き出し,それぞれの手の先に火球を作り出し,ホーリー目掛けて飛ばす.ホーリーは宙を泳いでかわし,槍の先に水が渦巻き始める.エンオは左腕を曲げて胸の前に動かし,右腕を後ろに伸ばして右手の先に炎を溜める.それを見たホーリーは空中で止まり,槍を後ろから前に突き出す.槍の先から水が渦を巻いた水が噴き出す.エンオは右腕を振り,その先の巨大な炎の剣でそれを打ち消す.周囲に霧が発生する.霧の中,エンオは飛んできた岩を左手の炎の貫手で破壊する.直後に右上からホーリーが現れ,槍でエンオの右肩の上からを斬りつける.エンオが左手で槍を掴もうと動いた瞬間,ホーリーは槍を跳ね上げ,右腕が左頬に接するように引き,左腕を上に押し上げエンオの顎の下から石突を当て,奥へ押しこみエンオは後ろへよろける.ホーリーは再び刃を振り下ろし,エンオに斬りつけ,エンオはバッジに戻った.
「くっ…」
「エルサ,パーツは手に入れた.戻るぞ.退路を開いてくれ」
エルサは背後のCG兵に気付き,ホーリーの音波で吹き飛ばす.ジュードも囲まれて身動きが取れない.
「どうやら使い魔が使えないようだな,,ジュード.お前達,ジュードを狙え!お前を人質にすれば後がやりやすくなる」
「(…シェイドを呼び寄せるか,いや,それは危険か.しかし最悪ヴァランに逃げられても俺が捕まって交渉テーブルを用意してしまうよりはマシか)」
そのとき突然地割れが起きる.CG兵の慌てている隙にエルサがホーリーに掴まって,ジュードの下へ向かう.ジュードは浮かび上がり,ホーリーに飛び乗って脱出した.
車に戻ると外にヴァランが立っていた.隣に金色の木がある.
「さっきの地割れはゴールドの力か」
「そう,根を張って太らせて地割れを起こした.シェイドの力が弱まったので,外に出して貰ったよ」
「(念力使ったときに弱った.そのせいか…)助けてくれてありがとう」
ジュードは目をそらしつつ言った.
「礼はいい,早く出よう.ここはまもなく爆発する」
「何?」
「さっきの地割れで自爆装置が作動したはずだ.なあにジロラモたちも知っている.すぐにここを出るだろう」
ジュードたちは車に乗って脱出した.
CG基地ではヴァランが帰ってこないことが話題になっていた.
「我々にも秘密の仕事か?もしやスポンサーの…」
ギルベルトは怪しいスポンサーを考える.パーツ集めが上手くいかないので,痺れを切らしたスポンサーが密偵として雇ったのではと考える.
「家出じゃないですかね?」
ベルトランは気楽に呟く.
「誰かさんが上の地位を得ようとして追い出したとか?」
ペギーがベルトランを見て言う.
「悪い冗談だ.私はヴァランなしでこの組織が持つなどと考えていない.彼は無くてはならない人材だ」
「そのようね,悪かったわ」
「ベルトランの言う通りかもしれない.家出と言うよりはサボりだと思うが.負担が大きすぎて投げ出してしまったかもしれない」
「あるいは,ガーディアンズやSCに連れ去られた」
「その線で今捜査中だ.しかし全く進展しない.とにかく当分ヴァラン抜きでなんとかしてみせる」
「仕事の引継ぎは長官が?」
「いや,ペギー,君に任せる.今の担当は外れてくれ.当分凍結させる」
「止むを得ませんね」
「ベルトラン,君は捜査の指揮をしてくれ」
「了解.無事に連れ戻しましょう」
「ヴァランが居ないが,なんとかする!するしかない!」
3日後
CG基地の地下道を抜け,壁を破壊する者がいた.壁を壊してシェイドが出てくる.続けて4人が出てくる.
「(どうにも無謀な気が…)」
警報装置は電源が切れている.
「マイ,どうかしたか?」
「今更言ってもどうにもならないが,やはり無謀じゃないかな,と」
「そうか?何とかなる気がするぞ,なあ」
「ああ,CGはもうお終いだ」
ジュードが話を振るとヴァランが答える.
「ジェシカ,準備はいいか?」
「いいよ」
4人は部屋の奥へ向かう.巨大な金庫になっている.
「ここにロボットがあるわけか」
「βの力を纏ったロボットはここだ」
「俺達の脅威になりかねない.破壊させてもらう」
「暗証番号はこうだ」
ヴァランはボタンを押して開ける.
「カードは通さないのか?ここに通すんじゃないのか?」
「無くても開けられる.それはダミーだ」
扉を開けると中に犬型のロボットがある.
「やれ,シェイド」
シェイドは杖の先から炎を出す.ロボットに火を吹きかけるが,中々溶けない.
「そんな火力じゃ破壊できない」
「何?しかしこれ以上強くするなら外へ持ち出さなければ危険だ」
「上に運び出そう.ジェシカ,ウィンを出してくれ」
「来て,ウィン」
バッジから使い魔が飛び出す.
「そいつを乗せて上に飛ぶんだ」
ウィンは壁の穴に運ぶ.
「予定が狂った.隊を2つに分けて1つは,こいつの処理,もう1つは魔銃のパーツを取りに行く」
「止めたほうがいい.欲張らずにこいつの破壊だけにするべき.4人がすぐに戻れるから船にはエルサとヴィヴィだけ置いてきた.もたついて見つかって2人ずつ分断されると危険だ」
「…仕方ない,そうしよう」
4人は壁の穴に入り,出口へ向かう.
突然,横穴が空き,ドラコが飛び出す.後ろを見るとダークネスが居る.
「逃がしはしないぞ,ガーディアンズ」
ギルベルトは使い魔の後ろに歩く.
「ヴァラン1無事だったのか?」
「長官,どいてください」
「何を言う,脅されているのか?」
「脅される?何を言っているのです?私は目覚めました.彼らガーディアンズこそが正義,CGは悪だと」
「ジュード,貴様ヴァランに何をした?」
「先を急いでいるんだ.通して貰うぜ」
「その通り.通して貰います.出て来い,ゴールド」
丸いバッジから使い魔が飛び出す.バッジにはグレーの岩を砕きつつ根を張る金色の木が描かれており,使い魔が飛び出すことで金色の木はバッジから消えた.
「CGの羽バッジはどうした?」
「置いてきました.必要ありません」
「正気に戻れ!ヴァラン!」
「出て来いナイト,後ろの敵を倒せ」
マイのバッジから使い魔が飛び出し,ダークネスに切りかかる.
ゴールドは枝と根をうねうねと伸ばし,ドラコを絞めつけて動きを封じる.
「ヴァラン,そんなもので倒せると思っているのか」
「目先の勝ち負けばかり気にするから負けるんですよ,あなたは」
ドラコが暴れ回り,枝と蔓がぶちぶち千切れる.ゴールドは新しい枝を伸ばして次々と縛る.
「ジュード,マイ,ジェシカ,今のうちに!」
3人は横を通り抜けて,構え直す.ヴァランを外側に連れて来なければならないが,ドラコが妨害して上手く行かない.
「すまないヴァラン,私はお前に謝らなくてはならない」
「……」
「私はお前に仕事を押し付けてしまった.もっと分け合うべきだったんだ.しかし,私は立場が上であるのをいいことにお前に押し付けてしまった.ここに来る前なら,分けていた,こんなはっきりとした上下関係じゃ無かったからな」
「いつの話だ?先代を倒す前か?」
「そうだ.私は自覚するべきだったのだ,そして節制するべきだった.すまなかった,私は心を入れ替えた」
「…….ククク,それがどうしたというのだ?CGが悪に代わりはない」
「先代を倒すと決めた日,言っていたことを覚えているか?2つを誓ったはずだ」
「覚えているとも.1つはあの邪悪を倒し,苦しんでいる人たちを救うこと.もう1つは,若い人に時間を与えること」
「そうだ.1つ目はほぼ完了した.だが,もう1つがまだだ.若い人は家族や恋人と時間をすごし,子供が大きくなった頃に上の地位に就いて仕事に多くの時間を拘束させる.子供が小さいうちは,一緒に過ごす時間ができるように,若いうちから上の地位に就かざるを得ないような状況に追いやらず済むように私達がしっかりとしようと!中々進んでいない.だが…お前はその誓いを破ろうとしている!」
「……そうだ.私が副官となって彼らを守る.そう誓った.…思い出した…思い出しました…」
ゴールドの根が床を突き破り,ウィンを貫く.ウィンはバッジに戻り,ロボットが地表に落ちた.
「ヴァラン…お前…」
「ジュード….…….…悪いな.私はやはりCGの人間だ」
「…分かっていたさ.やっぱり俺はお前達に勝てなかったんだ…」
「長官,無礼をお許し下さい」
「もういい,奴らを捕まえるぞ」
「勝てなかったとは言ったが,逃げ切れない訳ではない.シェイド,塞げ!」
シェイドが杖を振ると,天井が崩れて通路が塞がった.ジュードたちはその隙に逃げ出した.
「もう追いつきませんよ.外に彼らの飛行船があります」
ヴァランは追おうとするギルベルトに言う.
「そうか…,奴らの拠点は知っているか?」
「はい,これまでの間に知り得たので」
「では早速で悪いが,教えてくれ,今回知った彼らの全ても」
「…そうですね.部屋に戻って話しましょう」
ガーディアンズの飛行船.
「ヴァランの洗脳が解けました.本拠地は偽装したのでバレないでしょうが,拠点スノーを放棄する必要があります」
「…分かった.すぐに取り掛かる」
「この3日間弱では彼らの何十年もの絆には勝てなかった.いや,負けるなんてありえないんだ」