3話
清流が見えるわけでもなく,地上に露出した岩の集団も見えず,雪の残った山頂も見えない.ただ,山頂付近に電波塔や送電線が立ち,弧を描くアスファルトの道路とその横の植物が隙間から横に伸びるコンクリートで覆われた壁,地上を覆い隠す広葉樹林,のありふれた山.上から見るとブロッコリーのようで新鮮味がない.植物や小鳥,虫などに詳しい人は興味が沸くだろうが,一般人からしたら一晩経てば忘れるようなただの風景である.道路を大型の車が走っている.車はトンネルに入り,車内はトンネルのオレンジの光が波打つように流れる.車がトンネルの外に出ると,目の前に鹿の群れが飛び出し,撥ね,車は止まった.運転手は後部座席に座る人たちに停止表示板を設置させ,自分は車の様子を見る.助手席の男は,車を降りて鹿を見に行く.車にはへこみと血がある.全員が車外に出ている隙に烏が車に飛び,箱を持って飛び去った.烏が森の中に消えると,鹿は消え,車のへこみや血も消えた.
「これは…」
「大変だ!例の箱がなくなってる!」
「例の箱?」
「…魔銃の,だ」
「なに?」
「催眠術に掛かってた訳か」
「このことを報告しよう」
「待て.まだ慌てるには早い.探し出して取り戻そう」
「グンナー,ここにβの力を持つのはお前しかいない.お前の面子よりも…」
「うるさい,探すぞ」
「はいはい…(まあ失敗してもこいつのせいだし)」
「ご苦労,コバルト.ナインもな」
森の中で,コバルトから魔銃の箱を受け取ったジュードは,ヴィヴィに渡してナインに見せる.ナインは箱を見て,電磁波で発信機を破壊する.その後,テレキネシスで円盤に運び,ジュードたちは円盤に乗り込むと,円盤は浮かび上がり,遠くへ飛んでいった.
ガーディアンズは研究所に戻った.ジュードは博士達に魔銃のパーツを見せた後,保管庫に入れて解散の指示を出した.
ジュードは,休憩室に入り電気ケトルに水を入れ,スイッチを入れる.ガラスの棚から輪ゴムで封をした茶葉をとり,ポットに入れ,椅子にもたれ右肘を手すりの上に乗せ,軽く曲げた指で頬骨あたりを支え,花瓶に挿された桃色のガーベラを眺めつつ,お湯が沸くのを待つ.
「ジュード!」
名前を呼ぶ声がした.
「ん?…エリオットか」
「お休み中のところ悪いが,船の試験運転に出かけて欲しい」
「ええ,今…?」
ジュードは上半身を起こした.右腕はJの字を逆さにした形で,顔を乗せるように待機している.
「後にできないこともないが…辛い.具体的には…」
「ああ,言わなくていい.分かってる.ふう…やるしかないか」
お湯が沸き,ジュードはポットにお湯を注ぐ.
「上も下も青く広い世界,ちょうどいい休憩になるだろう」
「まあ,湖は頭上だし,すぐに戻れるか」
「…?だったら俺がやるだろう」
「ああ…海でやるのか.この基地の近くだと目立つから?」
「そうだ」
「やれやれ」
「面倒に思うのは始める前だけだ.始めたら楽しくなるさ.戦いとは無縁の海でゆっくり休むといい」
「そう…だなあ…」
ジュードは茶漉しで紅茶を別のポットへ注ぎ,そのポットから自分のカップに注いで飲む.
「話は聞かせてもらったわ」
エルサが廊下から部屋に入ってきた.
「ジュードは風景を眺めてぼーっとしていていいよ.試験運転は私達がやるから」
「「(大丈夫かな…)」」
「エルサ,これはジュードが主導してやらないとダメだ.試験運転の結果だけなら作った本人以外なら誰でもいいが,それに加えてこの船はどんな感じかをリーダーであるジュードが知っていないといけない」
「お兄ちゃん,話すの早くて長い.ええと…ジュードがやらなきゃだめなのね.じゃあ仕方ない….船以外なら…,代わりにガーディアンズ集めておこうか?」
「ああ,頼む.収納庫は…どこ?」
「2番」
「2番ね.じゃ,先に待ってるから」
エルサは部屋から出て行った.
「さて,待たせるわけにはいかなくなったな…」
「そういう割には嬉しそうだな」
「当然」
海から少し離れた陸上に大樹の緑陰に覆われた白い建物がある.
建物には潮風からの風を取り込むバードギールが両端に2つと,排気用の煙突が奥に並んで2つある.風路は上から見ると蛇行している.風路は上段と下段に分かれており,上段をバードギールから取り込んだ風が通り,下段にパーゴラを用いてつくられた緑の円筒を通った空気が取り込まれる.上段には所々に磁石が上と下に付いており,上段と下段の間に細長い穴が開いている.その穴の端を通る2本のレールがあり,横から見ると長方形のように上段と下段にまたがっている.2本のレールの間には磁気作業物質の板が等間隔に吊り下げられている.板は右左右左と交互に付いている.
上段には横切る水の張った容器がある.容器というよりは水路のように,建物から吸気口側まで直線に伸びている.レールの動きに沿って進み,板は上段の三角の出っ張りで横向きに倒れ,磁石の間を通って熱を発する.水に浸かって表面に水をつけた後,水溜りから出て,また倒れ,磁石の間を通り熱を発しながら,風に吹かれ気化熱で冷える.ある程度蒸発して磁石のない下段に移動し,下段の通る空気を冷やし,自分に熱を溜める.再び上段に昇り…と繰り返し,下段を通る風を冷やしていく.左右左右と配置されているのでジグザグに風が進ませることができる.上段の湿った風は煙突から外へ,下段の風は室内へ吹く.しかしこのままだと,空気が詰まってしまうので,建物の奥に付いた煙突で,空気を押し出す.
白い建物は蔦で全身を覆われており,潮風と日差しから守っている.
そこで若い人たちが同じような服を着て生活していた.中年もおり,彼らは若年よりにやや豪華な服を着ている.
コバルトはその周囲を飛び,観察を終えると木陰で休むジュードたちの車に戻ってきた.
「なるほど.何かの宗教施設か?」
「会社の研修かもしれないよ.制服じゃない?」
「コバルトに調べさせるまでもないんじゃないの?」
「近くまで行くのが面倒.コバルトに調べて貰った方が早い」
「まあいいけど…」
「船を出そう.向こうの舗装されているところに動かそう」
ジュードたちは再び車に乗り,移動して船を海に出した.浜から離れ,辺り一面は海だ.
「エルサ,念のためにホーリーを監視に出そうと思う」
「使い魔を出すと逆に怪しまれるんじゃない?」
「それに,何かあったときに呼び出せないよ」
「使い魔はβの力を持っている者以外には肉眼でしか見ることができない.仮に監視カメラがあっても気づかれはしない.眼鏡なら見えるのが不思議だが….それに,こんな海の奥にβの力所持者が居るなんてとんでもなく低い確率だとは思わないか?それもホーリーのことを知っている人がだ」
「それもそうね」
「今回はホーリーに頼むが,今度博士に普通の水生生物の形した使い魔作ってもらおう」
「シャチがいいな.かわいい」
「いいね.考えておこう」
「出て来い,ホーリー」
エルサの声に反応して,バッジからホーリーが飛び出し,海に入って一回転すると海上に顔を出し,両手で前髪を後ろに流して上を見た..
「これから船のテストをするから,周りを見張っていて.あと,危ないから少し離れててね」
ホーリーは首を縦に振って潜った.
「さて始めるか」
ジュードたちは試験運転を始めた.
「ふむ,意外と問題が浮き彫りになったな」
「こうたくさん羅列されるとお兄ちゃん,折角作ったのに…って落ち込むんじゃない?」
「その心配は要らない」
ヴィヴィが窓の外を見たまま,エルサの呟きに答える.
「どうして?」
「私の兄もそうだけど,彼らはそういうことでいじけない」
「頑張って作ったのに否定されたら嫌じゃない?」
「否定されるべきところから目を背けて,すごいすごいって言わせる人だっているものな…」
ジュードは疲れきっているのか,遠い目をして淡々と思い出したことを口にする.
「まだ未完成だから,いや完璧がないから.作ってきた今までの物を誇るんじゃなくて,作り上げていくこと,そこで生み出される法則に誇りを感じて大切にしようとはする.対して,未完成のものへの妥当な判定はそれらと違う.喜ばれる.ただ,知りもしないのに方向性にケチつけるのは良くないけどね」
「ああ,そっちのタイプだったなそういや.誰とごっちゃになったんだろう?」
「ジュード,ちょっと休んだ方が…」
「そうさせてもらう.とりあえず,緑を眺めてから.望遠鏡使うね.…おっ,ベルトランだ」
「えっ?」
ジュードはアンテナとカメラの向きを変え,音と映像をモニタに映した.
ベルトランは朝礼台の上に立ち,宣言した.
「これから諸君らには神と信徒の前に自らの罪を告白してもらう.まずはお前,前に来い」
ベルトランは1人の男を台の上に乗せ,台を降りた.
「私は以前漁師をしていました.しかし年々漁獲量が減っていき,生活は厳しくなっていく一方.昔はもっと遅い時間から魚を取りに出かけたのに,他の漁船に先を越されまいとどんどん早くなっていきました.まとめて網で取り,小さい魚,稚魚は逃すという決まりでしたので,ボロボロの死にかけの魚を投げ捨てるように海に戻しました.年々獲れる量が減るのに加えて,年々小さくなっていきました.そのせいで高い値段が付かずに利益も思うように得られませんでした.小さい魚が豊漁の時は特に儲けが出ません.小さい魚の全てが獲るのを禁止されている訳ではありません.その選考基準が科学的な基準ではないのは薄々気付いていました.しかし,だからといって異議は唱えず,稚魚を獲って養殖業者に売りました.むしろ,稚魚を獲らなきゃ収入が足りないのです.国からの補助金で何とか存続できましたが,もう国の補助金では足りずに借金が返せず,船も土地も失いました.学者さんの出した管理計画には反発しました.賛成しても私は借金が返せず死にます.反対すれば,運がよければ収入が増えて借金が返せると思ったのです.私がいたがために,周りの全てを不幸に陥れたのです」
「……」
話が終わるとざわつき始める.
「次はお前だ」
5分ほどした後にベルトランは1人の女を指名し,男を台から降りるように手招きした.
「私は山奥の村に住んでいました.あるとき,新しい店ができました.近くの大学の卒業生たち,都会出身の人たちです,が開店した店です.余所者なのに洒落た店を構え,開店時間が午前10時以降と甘えたものでした.村の皆は朝早く起きて家畜に餌をやり,畑を耕しているというのに.店に入るたびに,早起きしなくていいね,と言い,店の前でごみを燃やして嫌がらせをしたり,看板犬に毒を盛ったりしました.私だけでなく,村の皆もやったことです.店内には休憩所とテレビもありました.近隣住人がそこで休めるようにしていました.私たちの方が長く住んでいるのに,私達の集合所を無視して立地の良い場所に作るなど,村を滅ぼす気なのでしょうか.それらの理由があったといえ,彼らを自殺に追い込んでしまいました.死なせるつもりはなかったのです.生意気な連中を懲らしめてやりたかっただけです.最近の若者は打たれ弱いと言いますが…それでも私が殺してしまったも同然です.私の罪は殺人まがいのものです.罪を償わなければなりません」
「……」
再びざわつき始める.ベルトランはやはり5分ほど待ってから次に移る.
「静粛に!彼らの罪と比べたら軽いから良いと思ってはいまいな?それは,この世界での社会の尺度に過ぎず,神の世界での尺度ではない.それを神が人に伝えることはない.伝えればそれで優劣をつけるからだ.神はそれを望んではいない.それに,神々から比べれば我々など小さく等しい.神々に祈りや供物を捧げず,神の威光を示したる神殿を疎かにすれば,咎人は死後に救われることはなくなる.人は生まれながらにして罪深き生き物だ.それに加えて現世での罪を重ねたとすれば,どうしてあの世で救われよう.神に捧げるのだ.一般人が神と交信することはできない.特殊な素養を持ち,修行を積んだ我々聖職者を通して交信が可能となる.我々は神の言葉を諸君らに伝え,諸君らは我々を通して神への祈りを捧げよ」
ベルトランが台から降りると別の幹部らしき人が台に乗った.
「君らが物知らぬ隣人を助けたけるには,君らの勧誘が必要だ.だがその前にしっかり勉強しなくてはならない.前もって言ったとおり,これから1月弱ここで生活してもらう」
「考えることが苦しみに繋がる.考えるのをやめれば苦しまない,しかしそれは不可能だ.人は考える生き物だからだ.人にとっては重要な機能なのだろう.しかし,度が過ぎれば苦しみは耐え難いものとなり,自分だけでなく周りも巻き込んだ大災厄を引き起こすことがある.だからこそ人間は考えなくとも,そういうものだという認識で思考を放棄する.真理と向き合うのであれば悪いことではない.我らの神々の意思と同化するのだ.修行し,自分を見つめなおし,神の導きに従って神の意思と同化するのだ.そうすれば,悲しむことも苦しむこともなくなる.これは悪いことではない.さらなる飛躍のための足場固めだ.騎士の本質的な強さはそれだ.騎士道により,迷いなく剣を振り下ろすことができる.もし悩み続けた迷いだらけの剣では何も切れず,何も守れない.強い信仰を持たないものは,力強く生きることができずに何かを得ることも守ることもできないのだ」
ベルトランが台の上に戻る.
「さて,昼食を挟んで後半に続けよう.これからが長い.しっかり食べてくれ」
「もういい,ベルトランはCGの仕事でいるわけではない.教団の方の仕事でそこにいる.監視する価値は無いし…第一不愉快だ」
「本当に切っていいの?」
「いいよ.問題なんか何も無いよ」
マイはスイッチを切り,ジュードは肩をほぐした.
「懺悔か…」
ジュードは過去を思い出し,声が漏れた.
「どうかしたの?」
「懺悔とは少し違うけど,似たようなことで嫌な思い出があってね.話た方がすっきりするか…」
「……」
皆はジュードの出方を待った.話す気がないならそれでいいし,言いづらいけど聞いて欲しいなら,聞ける状態にする.
「昔住んでた所では黒髪黒目が大多数だった.98パーセントぐらいじゃないかな?厳密には,漆黒の黒髪と茶色をとことん濃くした黒髪,黒目と言うより濃い茶色の目か.そこで中学校に通っているときに,注意されたんだ.髪を染めるな,カラコンを入れるなと,校則で禁止されてたんだ.しかし俺はそんなことしてない.俺は元から茶色の髪に緑の目だ.注意した教師に元からだというと,それを証明するものを出せというんだ.子供の頃の写真と保護者が一筆書いたものが必要になる.それを用意するのも面倒なことながら,それを見せると,「悪かったな」といいつつ,不満げに去っていく.面倒な姿しやがってと思っているに違いないね.それがたまらなく嫌だ.俺が生まれることが本来はあってはならない間違いだと言っているようだ.これが何度も違う教師から注意されて,その度に証明しなくてはいけない,苦痛だ.まあ,最初の半年,いや違う,1ヶ月くらい?で知れ渡るからそれ以降は証明しなくてもいいとはいえ…なぜこんな目に逢わなければならないんだ.黒く染めたり,黒いカラコン入れればいいという奴もいるが,そういう問題じゃない.黒が当然であり,それ以外は基本的にありえないと言っているみたいだ.何も悪いことをしていないのに,悪いみたいに言われる.「何だ,本当に地毛なのか.しかし就職するときは黒髪じゃないと印象良くないから大変だな」とも言われた.髪色で分ける連中の巣窟から抜け出せてガーディアンズに入れたことは嬉しいよ.昔の名はもう捨てた.ここでは髪色や目の色を気にしない.全くの無頓着というわけではない,意識しないというか,奇異の目で見ることはないと言った感じか.褒めることはあっても,その色ゆえに否定されることはない.気にしない.とても居心地がいい…」
「ジュードの帰る家はここ.どんなジュードでも私は帰りを待つ.だから心配しないで.貸し借りなんて考えなくていい.ただ,ジュードが居てくれればいい」
「俺が先に帰っててエルサがまだ帰ってなかったら?」
「もう!これは例え.無粋ね」
「照れ隠しでは…」
「ところで,目立つのは髪と目の色だけだったの?」
「俺が変人だと?」
「そうじゃなくて!」
「それ以外も目立つなら最初から染髪とか疑われないのでは,ということか?」
「ま,そんなところ」
「あいつらの顔や体格は千差万別だ.身長だって幅広い.だから目立たなかった」
「なるほどね」
「ねえジュード,懺悔とのつながりが見えないんだけど」
「あ,ああ.懺悔は自尊心を破壊して,自分が生きていていいのか,認めてくれるものなど居るのか,となって慈悲深い神や組織への信仰を持つという性質がある.おれもガーディアンズにそのような信仰を持っているんじゃないかなと思ったんだ.ここなら俺を受け入れてくれる,って.でも冷静になれば他にもあるのかもしれない.冷静に考えると心が冷えていくようで嫌だな…」
「無責任な言い方で悪いけど,今すぐ結論を出すようなことでもないんじゃない?」
「ああ,そうだな….しまったな,なんで口にしたんだろう?疲れてるのかな?見る目が変わっただろう?」
「というと?」
「俺を信頼できなくなる」
「そんなことないよ.ただちょっと不安定なだけ.だれでもあることじゃない?」
「ありがとうエルサ…」
「ん…,ホーリーが異変に気付いたようね」
エルサは電波を受信した.召喚者のみに伝わる使い魔の超音波だ.
「敵か?」
「CGのグンナーたち,山にいたメンバーが船でやってくる」
「他には居ないのか?ベルトランは?」
「いない.なぜか分からないけど」
「相手はこっちに気付いているのか?」
「こっちに向かっている.けど,私達だとは気付いていないと思う」
「そうか.挟み撃ちに警戒しつつ脱出するか,やりすごす.その後,さくっと倒して脱出しよう」
「グンナー,海を探すより町を探したほうが…」
「町に出て他の奴らに見つかったら不味い.帰るまでに見つけられれば済むんだ.つべこべ言わずにやれ.時間が無いんだぞ!」
「あの船の船員に聞くのか.何を知っているっていうんだ…」
「海は見晴らしがいい.小型の飛行物体を見ているかもしれない」
「効率悪ぃ…」
船に何かが当たり,大きく揺れる.
「何だくそっ,出て来いファントムウィッチ」
グンナーはバッジから使い魔を呼び出す.ノースリーブのワンピース,首を中心に肩にから胸の下へ青バラの花を広げたような服飾がある.セミロングのウェーブの掛かった金髪の上から大きなリボンのついた三角帽子を被り,真っ赤の半球状のイヤリングを両耳につけている.イヤリングは良く見るとピンクのガラスの中に赤いフィボナッチ数列の渦が無数に書き込まれている.服飾の派手さと対照的に手足,腕や腿から先には何も装飾をつけていない.
「ファントム,水中で何かが当たった.見てきてくれ」
ファントムは帽子を右手で押さえて海中に潜った.グンナーは使い魔からの電波を受信する.
「人魚?ガーディアンズの?この近くに奴らが居るのか,ちょうどいい.まずはそいつから相手をしてやれ」
「相手が気付いたようだ.ホーリーだけで大丈夫か?」
「手出し無用.水中はホーリーの力を最大限出せるから.それに,巻き込みたくないから」
「じゃあそっちは任せよう.こっちはこっちで準備する」
ファントムは両手の平を向かい合わせに構えて間から渦を作り,両手を前に突き出してホーリーに向けて放出する.渦は横から見ると放射状に広がる.ホーリーは俊敏な動きでファントムの後ろに回り,槍で突く.ファントムは右に回り突きをかわし,右手で掴もうとするが,ホーリーが槍を振り上げたので手を引き戻し,上半身を後ろに曲げて切り上げをかわす.ホーリーは槍の柄で軽く突き,後ろに後退してファントムの周囲を泳ぎ回る.ファントムは魔力で作り出した青色の機雷をばら撒く.ホーリーは槍の先にエネルギーを溜めて放出する.ファントムは渦を作り出し,ビームを分解して上下左右に流し,矢を作り出して渦の中心からホーリー目掛けて飛ばす.矢はホーリーに当たり,ホーリーは溶け出し,泡に包まれた槍が残る.ファントムの周囲から歌声が聞こえ始め,ファントムは海の下を見る.暗い海の向こう側から声が聞こえる.ファントムはテレキネシスで自分を中心に海水を外へ押しのける.底が見えるよりも先に歌声の効力でファントムは麻痺と眩暈でテレキネシスが解け,水に押しつぶされ,体が爆ぜ,折れ曲がり,光る粒子となってバッジに戻った.ホーリーは浮上し槍を掴み,グンナーたちの船を破壊した.
「もういい,エルサ.ホーリーを戻せ.帰るぞ」
「…戻れ,ホーリー」
ホーリーはバッジに戻る.ジュードたちは霧を作り出し,船を砂浜に戻して,車に乗せて帰った.
海中にただよう巨大アメーバがグンナーたちを乗せて砂浜へ運ぶ.
「戻れ,アネイマブル」
使い魔はベルトランの腕時計に戻り,文字盤に赤い紋章が浮かび上がる.
「おや,意外なところで会うな,グンナー?」
「…….なぜお前がここに?」
「仕事.CGの仕事じゃないぞ.私は今日CGの仕事は休みだ.で,何でここにいるんだ?」
「使い魔に聞けばいいだろう」
「こいつに?無理だな.もう1体,ダークネスは言語化する力があるが,こいつにはない」
「ガーディアンズと戦った」
「なぜ?」
「奴らを発見したからだ」
「…?パトロールしてたってことでいいのか?」
「そうだ」
「行き先はどこだ?」
「分からない.逃げられた」
「……」
「……」
「まあいい,うちの教団の建物横にシャワーがある.そこの手前に皿がある,ミニチュアの家みたいな奴の中だ.お布施を置いてから使え」
「金取るのか?」
「払わなくても罰は無い.だが,払ってくれると嬉しい」
「分かったよ.払うから本部には黙っていてくれ」
「くだらない….まあもらえるものは貰っておこう.ついでだ,持っている中で一番高い硬貨置いてけ」
「分かったよ」
グンナーたちはシャワー室へ向かう.ベルトランはそれを見た後に,対岸の小島とそこの魚つき林を眺める.
「(黙っていろか.その方がこちらにとっても好都合.ガーディアンズの目撃情報ゆえにこの近くにCGの基地でもできたら俺が困る.口出されると面倒だからな.それに近くで戦ってたのに気付かなかった上に戦わなかったってのがバレたらうるさいからな.どんな小さなことでも余計なことでクビにされるリスクを晒すわけにはいかない.あ,効率の悪いやり方をやっているのに口を出すのは別だ.口を出されるのを嫌がるくせに,言われたことしかできないとか抜かしやがるのがムカつく.イライラしてきた.叫べばスッキリするか)帰還閥のバーカ!滅んじまえ!」
ベルトランは後ろに近づく幹部に気付く
「あっ,違う.君らのことじゃない.もう1つの仕事の組織のことだ」
「あなたがそんな人だったとは残念です…」
「待て!誤解だ.話あおう」
この後,ベルトランは誤解を解くのに四苦八苦した.
「(どっちも面倒な奴らだ!)」