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17話

 大都市同士を結ぶ道路の傍に小さな町がある.周囲を田畑に囲まれ,さらに外側を山に囲まれている.

 ガーディアンズはその町の中を歩いている.別荘の整備に来た.

「あれ?前来た時は立ち入り禁止だったっけ?」

 ジェシカは小山へ続く道の前に掛かっているロープとそこにある進入禁止の看板を指差す.人一人が通れるくらいの小さな道は枯葉が敷き詰められ,両端を木がトンネル状に包み,蛇行した道は向こう側を見せない.

「どうだっけ?忘れた.まあとにかく入らないことだな」

 ジュードとエルサは気に留めずに歩き続ける.ジェシカは止まって看板やその周囲をまじまじと見る.

「その看板は毒ガスが出たり,地盤が崩れたり,色々な危険がを知らせてくれるありがたいものだ.先人の忠告,先頭を歩かなくていい身分というのはいいものだな」

 ヴィヴィはロープを跨いで奥へ入る.

「ちょっとヴィヴィ!何してるの?戻ってきて!」

「……」

「ジュード!ヴィヴィが奥へ行ったよ!」

 ジェシカはジュードを呼び止める.

「え…?連れ戻してくる.出て来いシェイド,よし,行くぞ」

「私達も行く」

「まあ,シェイドが居るなら大丈夫だろう」

 3人は道に入った.


「こんな寄り道よりもSCから早く魔銃を取り返さなくてはいけないんだが…」

「急がば回れ」

「何か違うような…あっ,SCだ」

 ジュードは木々の向こう側にSCを見つけた.フォチャード,カトラス,マンゴーシュが居る.

「ん?何か話している.聞いてみよう.見張っていてくれ」

 ジュードはポケットからイヤホンと音を拾う機械を出した.電源を入れてイヤホンを耳につける.


「アキュリスがあの探偵と….小さい頃から好きだったんだって?上手くいくかな?」

「あれ?フォチャード,嫉妬してる?」

「嫉妬?無いね.あのね,カトラス.子供の愛と大人の愛は違うんだよ.そして子供の愛は大人の世界では通用しない」

「愛なんて俺には無関係だね.まあ,でも,言っている意味は気になる」

「子供の愛は本当の愛じゃない.ただ,恋愛テーマの本や雑誌,大人の会話から,恋人を作ろうと焦っている結果,恋をしていると錯覚しているに過ぎない.子供の非力さから何かに頼りたいという願望の映し出した結果でもある.大人になって力がつけば,それは冷めて消えていく.これが子供の愛」

「それで大人の愛は?」

「大人の愛は本当の愛さ.自らに欠けたもう半分との一体化によって生じるもの.味や匂いが好きならそれは相応しいパートナーさ.あと,遺伝的な要因とは別に精神的に不足しているものを持っている人というのも有ると思うよ,多分.父性や母性などを持っている人とか,分からないけど」

「目当ての遺伝子かどうか分かるの?」

「遺伝子情報という設計図通りに作ったのがこの体だ.ミスがあるかもしれないが,大きいミスではないだろう,生きているのだから.見たり舐めたり嗅いだりすれば分かる.良い相性の間に生じるのが愛.子供生める歳ではない頃好きだったとしても,それでは大人の愛にはなるとは限らない.なるかもしれないけど」

「ふーん,なるほど」

「マンゴーシュ,まだ?」

「もうすぐ終わる.君らは話して待っているだけでいいな」

「怒ってる?」

「別に.簡単な仕組みな分,効率化していなくてイラつくだけ」

「久しぶりのSCのベッドに慣れなくて中々眠れないんだよ」

「まあ,それもある」

「しかし俺から言わせて貰えばもっとリスクの少ない作りすればいいのに.何かがぶつかったら危ない」

「金がかかる割に危険性が減らない.それにこいつが居ないと使えないから十分安全」

「タイムギアだったか?そいつがいないと開けられないのが一番面倒」

「ん?あれはガーディアンズのヴィヴィじゃないか?」

 ジュードはヴィヴィを見つけてイヤホンを外す.

「まずい,ヴィヴィが見つかった.救出するぞ」

 ジュードたちは木の間を抜けてSCたちの前に姿を現し,使い魔を呼び出す.

「他の奴らも出てきた」

「ヴィヴィ!こっちへ戻れ!」

「そうはさせるか.行けフェニー」

 フェニーはヴィヴィとジュードたちの間を滑空して通った跡に炎の壁を作る.ホーリーは槍から水流を出して消火する.ジュードはヴィヴィを引き寄せて自身の後ろに回す.

「行けナイト,まずはシェイドを…」

 ナイトは霧になってシェイドに近寄る.タイムギアはシェイドの背後にテレポートして光線を構えるが,シェイドは左回転して杖でタイムギアを打って吹っ飛ばす.タイムギアはマンゴーシュの使っていた機械にぶつかり,機械が煙を出す.

「一旦引いて整える.あの岩を死角にする.走れ!」

 ジュードたちは岩に向かって走る.機械が爆発し,ジュード,エルサ,カトラスは岩の前で消えた.使い魔たちは光になって自らの主の下へ向かう.


 ジュードたちは平原に出た.意味有りげに石碑が複数建っている.

「ここはどこだ?」

「それ以上近づくな.いいか,こいつの力を使えば出られる」

 カトラスはジュードとエルサから目を離さずに自らの使い魔を親指で指す.

「こいつを倒すと出られなくなるぞ」

「その手に乗るか!やれシェイド!」

「ホーリー,やっちゃって」

 シェイドは黒い雷を放ってタイムギアに当てる.タイムギアはダメージを受けてカトラスの手の痣に戻る.

「何しやがる!?帰れなくなるぞ!」

「そいつが回復するまで待とうか」

「さて,お姉さんたちとお話しましょう,フフフフフ…」

 カトラスは後ろずさりする.シェイドの作った透明な壁に阻まれて止まる.

「これを見ろ,自爆ボタンだ.魔銃の力を使って作ったものだ.βの力の持ち主でも死ぬ」

「よせ,お前も死ぬぞ」

「だから?死ぬのなんて怖くない.俺は伯爵のためなら死ねるんだ」

「伯爵?」

「俺たちの主さ.とても崇高なお方だ.お前達の汚れた目で見れば目は潰れるだろう」

「SRの前でつく嘘じゃなかったのか…」

「フッ,あのお方のために死ぬなら俺は満足だ」

「果たしてそうかな?」

「なんだと?」

「お前は本当は死にたいと思っていないんじゃないのか?」

「死なずに済むならそれでいい,だが,俺の死が伯爵に役立つのなら構わない」

「そういうことじゃない.お前はただ自身に掛かる重圧に耐えられずに逃げたいだけなんだ.それに納得できる存在として,自分が命を賭けてもいいといえる架空の人物を作りあげた.死によって重圧から逃れようとしている.有終の美なんかじゃない.お前はかっこよくも何とも無いダサいガキだ」

「黙れ」

「空想上の人物のために死ぬ,そして残るものは何もない.お前は人生全てを賭けてお笑いを提供してくれるだけに過ぎない道化.忠義の騎士にはなれはしない.ハハッ」

「言わせておけば….だがもう遅い,ボタンは…」

 自爆ボタンを押したと思ったらボタンは消えた.喋っている間にシェイドの魔術で方向感覚をずらしてボタンがそこにあるように偽装した.本物のボタンはその隣にあり,カトラスからは見えないように偽装した壁で覆われている.

「お前の負けだ.さて…」

「もうやめてジュード,相手は子供なんだから」

 エルサがカトラスを庇う.

「…お前がそういうならそうしよう.こいつの使い魔は倒したから,恐れるものはない」

「伯爵は居る」

 ジュードとエルサは突然の念押しに困惑した.

「伯爵は居るんだ.俺の憧れなんだ.否定はさせない.俺は選ばれた人間,俺には俺のやるべきことがあるんだ.ここで邪魔はさせない」

 カトラスは暴れだし,エルサはカトラスの手を掴んだ右腕を引いて,足を引っ掛けてカトラスを地面に叩きつけ,頭の横を踵で蹴った.その後,足を引いて少し距離を取る.

「やるべきことって何?」

「この世界を守ることです」

「そんなの誰でもそうじゃない?」

「お前が選ばれた者というのならば,何が違うんだ?」

「βの力を持つ者としてそれしかできないことを…」

「ふわふわしてるな」

「伯爵の命令に従うこと.伯爵はこの世界の幸福を願って,私利私欲に走ることなく,強気をくじき弱きを助け…」

 エルサはカトラスに手を伸ばす.カトラスは目を瞑る.カトラスは頭を撫でる優しい手に気付き,目を開ける.

「何だよ」

「立派だな,と思ってつい….あなたはそれに憧れて付き従っているんでしょう?なおさら死ぬべきじゃない」

「おい小僧,いいことを教えてやろう.リーダー,いやカリスマがある者は,手下に弱みを見せない.弱点があったり,努力が伺えると,俺でも追いつけるんじゃないか,とかなぜ俺はあいつの下につかないといけないんだ?とか思い始める.それでは組織をまとめるのは困難になる.だから綺麗な面以外見せたがらない.お前がもし完璧超人になろうとして,それができないから伯爵に任せようとしているのだとしたら,それは止めた方がいい.お前にはまだ可能性はあるのだから」

「ジュード,年寄りみたいなこと言わないでよ,あなたも若いんだから」

「……」

「たとえ上手くいかなくても私は努力を認める.あなたが嫌になりそうなときは,SCをやめてガーディアンズに来てもいいのよ.あなた自身に価値があるのだから手土産も要らない」

「(おい,俺は逃がす気はないぞ)」

「…….俺は,伯爵を裏切るようなことは…,伯爵…?伯爵って誰だ?そうだ,SRを動かすための装置にすぎない.俺は,今まで何を…」

「やっぱり空想だったね」

「俺のことを本当に考えて,夢から覚めさせてくれた.SCの仲間は,夢から覚めたら裏切るかもと思って醒まさなかったんだね.君たち…優しいお兄さんとお姉さんだ」

「(うーん,チョロいボーヤだ)」

「ねえカトラス,ここがどこか分かる?」

「俺たちの作った空間の1つ.文明の破壊者に対抗するためのもの.多重攻撃を仕掛けるために作った空間だ」

「作る?どうやって?」

「魔銃のパーツを使って作ったんだ.イメージとしては穴を掘ったようなもの.正面以外からの攻撃のためだ」

「仕組みはさておき,文明の破壊者とは何だ?」

「そのままの意味だよ.地上を蹂躙して文明を滅ぼす巨大な生物.奴らにとっては眠りから覚めて活動しているにすぎない.人間,いや生態系は奴らにとっては,ただ,時間が経ったらエネルギーを集めてくれた,という存在に過ぎない」

「本当にいるのか?どこで得た情報だ?」

「居るよ.情報源は訳あって言えない」

「どこに行けば会える?」

「どうする気だ?」

「見てくる」

「…駄目だ.ファルシオンの計算を狂わせてはならない」

「そこを何とか…ん?」

 目の前に渦が開く.通信機にヴィヴィからの連絡が入る.

「ジュード,エルサ,こっちから開いた.カトラスを連れて戻ってきて」

「了解.(人質になっているのか?)」

 3人は渦に飛び込み,元の世界に戻った.


「ジュード,エルサ,良かった!」

「よし,奴らを倒して強行突破だ.エルサ,あの鳥は任せた」

「了解」

 シェイドは杖の両端からオーラを出して半月状に繋げる.左手の先から火球をナイトに向けて飛ばす.ナイトは剣で突いて火球の核を破壊し,風圧で炎を裂く.突きの勢いに乗せて走り出す.シェイドは杖の先で突くが,ナイトは霧になってシェイドの背後に回って実体化して両手で剣を振り下ろす.シェイドは杖の先を下に向け,後ろを上に挙げて右回転しつつオーラでナイトの剣を防ぎ,左足をナイトの方向へ出して杖を押し付ける.ナイトは後ろに押されつつ下がって,足を実体化して着地し,剣を強く振って杖を縦に回させる.オーラの刃は下に向く.すかさずナイトは前に重心を移しつつ下から上へ切り上げる.シェイドは杖を右に振ってナイトの左足を外側に払いつつ,左腕を勢い良く後ろに振って後ろに下がって剣をかわす.ナイトはバランスを崩して右足を前に出して軸にして左回転しつつ,左足を後ろに下げて剣を体の前に構える.シェイドはオーラを消して杖でナイトの足元目掛けて突くが,霧になって姿を消す.シェイドは杖を突き出して炎の渦を作り出し,霧の塊にぶつける.渦の中心から剣が出現して杖に向けて突きを仕掛ける.シェイドは影から巨大な手を呼び出してナイトの剣が届く前に握りつぶす.ナイトはバッジに戻った.

 隣ではホーリーとフェニーがまだ戦っている.

 シェイドは杖をくるくる回し始める.

「エルサ,時間を稼いでくれ」

「不味い…」

 フェニーは炎の衣に包まれて防御を固める.

「撤退だ」

 シェイドは回転を止めて,ジュードたちは逃げ出した.

「チッ,フェイクか.まあいい,邪魔者は居なくなったから良しとしよう」

「……」

「さて,パーツを取り出して,と.無くなっている!」

 カトラスは自爆ボタンと言った装置を開けて中を見て叫ぶ.

「最後のシェイドの術で取られたみたいだ.杖を回してたのは演技だった」

 マンゴーシュは淡々と説明する.

「探せば追いつくか?」

「無理だと思う」

「だろうな.マンゴーシュがそういうなら無理だろう」

「仕方ない,一旦帰るか」

 3人はヴィヴィによって修復された装置を使って別空間を通って屋敷に戻った.


 ガーディアンズの臨時基地.

「ヴィヴィ,あの装置作れるか?」

「無理.覚えきれなかった.でも異空間の地図ならこのカードに入れた」

 ヴィヴィは小さなカードを見せる.

「よし,後で見よう.カトラスが変なこと言っていたな.奴らは何をしようとしているんだ?」

「本部に戻って探そうよ」

「そうしよう」


 SCの拠点.マンゴーシュは深夜目が覚めてベッドから足を下ろして座る.左手で右の二の腕を掴む.左手を離して手の平をじっと見つめる.満月の光で手はしっかりと見える.手の平の十字の血管に偽装した使い魔を封じた印は何ら変わることなく,そこにある.手の力を抜き,指が曲がる.人差し指,中指,親指をぼーっと眺める.

「(違う,この手は私のもの.指も….エルサの代わりに何かならない.エルサの手はもっと柔らかくて温かくて丸みがあってすべすべしている)」

 マンゴーシュはシャツの下から左手を入れて右の二の腕を掴む.

「(違う………)」

 マンゴーシュは右手で右腿を掴んで力を込めて手前に引っ張り怒りを発散する.

「(もうエルサとは仲間のように戻れない.私の選んだ道,いやそれがどうであろうと,もう元の関係には戻れない….いや,これはエルサの手,エルサはここにいる…)」

 マンゴーシュは力を抜いて後ろに倒れる.

 翌朝,マンゴーシュは元気に目覚めた.疲れ果てて深い眠りに就けたためだ.皮肉にも別れは彼女を熟睡へと誘った.

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