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16話

SCの屋敷.アキュリスとカトラスが靴を履いて外に出る準備をする.

「じゃ,行って来るね」

「いってらー」

 フォチャードは2人を見送って扉に鍵をかける.

「(アキュリスはヴィンセントが絡まなければまともだから大丈夫だろう.カトラスはどうも危なっかしいが)」

 フォチャードは部屋に戻って魔銃のパーツの資料(作者はマンゴーシュ)を読みながら観察する.


 アキュリスとカトラスは公園でダガーに会う.

「お待たせダガー,この公園はどう?」

「いいね.清潔だし悠々としている.大きな木が多いからパワフルに感じるし,密集しないから見晴らしがいい.なのに緑陰があっていいこと尽くめだ.フフフ…憎らしいほどに素敵だよ,あれと天と地の差だ.ぐすっ…どうして…できなかったんだ…」

「そう,気に入ったようで何より」

「(2人の副長の片割れである)アキュリスの特命か.何の仕事があるんだ?」

「失意の鐘塔,栄辱の尖塔,幻影に身を委ね,己が刃を伏せよ」

 カトラスはぶつぶつ呟いて手を振る.

「カトラスはどうしたんだ?」

「おまじないらしいよ」

「へえー」

「そろそろ行こう.ああ,仕事じゃないから.いや,仕事にできなくもないけど」

「え,そうなの」


 ガーディアンズの拠点では設備の準備が整い終わった.

「ねえジュード,パーツ取りに行かないの?」

 エルサはゴミの袋を縛りつつ尋ねる.

「そうしたい所だけど,今まで集めた候補地にまだ残っているか分からない」

 ジュードは通信機を調整しながら答える.

「ガーディアンズにばれないようにあえて取っていなかったのなら,もう取りに行かない理由は無い」

「この近く探してみたら」

「手当たり次第に?」

「そう,この辺を敵にうろうろされると嫌だから,探して見つけて遮蔽箱に入れておくべき」

「SCの拠点探しの方に力を注ぐべきだと思うけど…いや,でも不慣れな地になれるために歩き回るのは悪くない」


 そして,ガーディアンズの4人で探す.コバルトが飛び回る.コバルトは狭い範囲限定だが,魔銃のパーツから出る特殊な波動をキャッチできる.

「見つからないね」

「おっ,エゴノキだ」

 ジュードは右前に見えた家の庭にある木を指差して言う.

「どうかしたの?」

「どうって訳じゃないけど,樹形やこの白い実がきれいだな.いいなあ,って思っただけ,花もきれいなんだよ」

「ふーん」

「ほんとだ.きれい」

「……」

 ジュードとジェシカは木を眺めて反応するが,エルサとヴィヴィの反応は薄い.2人はもう少し派手な方が好きである.

 ジュードたちは再び探索に戻る.丘の向こう側に行くと,川が流れており,見知った顔がその近くで遊んでいる.

「お前たちはガーディアンズ!なぜここに!?」

 ヴァランの反応でグンナー,ジュール,ヴィンセントがジュードたちの方を向く.

「こっちの台詞だ.戦う気はない.バイバイ」

「待て!逃がしはしない,出て来いシラーウィッチ!」

 グンナーの合図を皮切りに皆使い魔を出す.

「(コバルトのことを知られるわけにはいかない)コバルトを引っ込めてくる.エルサ,ヴィヴィ,ジェシカ,ちょっと待っていてくれ」

 ジュードは木の茂みに逃げ込んだ.コバルトは迂回して木々の隙間からジュードの元へ向かう.コバルトをバッジに戻してジュードは外に出て,シェイドを呼び出してさっきの場所へ戻る.

「ヴァラン,聞こえるか?」

「何だ?」

「戦っても疲れるだけで得られるものはない.戦いをやめないか?俺たちは今パーツを持っていないし,仮にそれが嘘でお前達が勝って手に入れたとしても,研究設備や保管庫はもう無いはずだ」

「その原因を作ったお前が言うのは気に食わないが,それも事実…」

「待てヴァラン」

 ヴィンセントが横槍を入れる.

「彼らはまるで魔銃のパーツにこそ唯一価値があるように言っているが,そうとも限らないだろう?」

「というと?」

「倒せば捕まえて情報を得られるし,彼らがこの地域には拠点も隠れ家も何もないと思わせたくて穏便に済ませようとしているのか確かめられる」

「(チィ…使い魔は弱いが冷静だな)」

「そうだな.戦いを続けるぞ!」

「当たり前だ.復讐のためにもな」

「……」

 シェイドたちはヴィンセントの使い魔のディヴィを中心的に狙い,援護に回ったファントムやスイキョウを横から攻撃する.

 抵抗空しくディヴィは力尽きバッジに戻る.

「エルサ,ヴァランの相手を頼む.俺はグンナーの相手する.ヴィヴィとジェシカはあいつの相手を」

「了解」

 シェイドはシラーとスイキョウの間に炎の壁を作って切り離す.

 シラーは杖から雷撃をシェイドに向けて放つ.シェイドは右手で持った杖の先から電磁波を出して雷撃を歪め,左手の人差し指を立て指先から空気砲を飛ばす.シラーの鎖骨に当たって,シラーは後ろによろめき,雷撃を解いて左回転しつつ,シェイドの追撃の空気砲をかわし,振り向いて杖から細かな氷塊を出してシェイドに浴びせる.シェイドは前に倒れて左手を地に着け,両足で地面を強く蹴り,シラーに向かって飛び込む.杖の先には炎を纏わせて肘を曲げ,シラーの懐に入った後,杖を突きつける.シラーは杖を両手で持ち,シェイドの突きを防ぐが,力で押され,自らの杖とシェイドの杖で胸を強打する.シェイドは後ろに飛ぶシラーを杖から出した闇の手で引き戻す.シラーは杖を起こしてシェイドに向けて先に光る球体を作り出す.シェイドは左手で球ごとシラーの杖を押し込み,シラーは自分の杖に貫かれて傷を負い,バッジに戻った.

「さて,残りは…」

 ジュードは遠くから飛んでくる卵のような姿をした羽に包まれた使い魔を見つける.

「あれはアキュリスのガイデ….ガーディアンズ,こっちへ集まれ!」

 シェイドは3人を近くに集める.

「やった,見つけたよヴィンス」

 丘の向こうから来たアキュリスがヴィンセントの下へ歩み寄る.

「(アキュリスの狙いはあいつか?)」

「CG撤退だ.早く!」

 ヴィンセントは指示を出して走り出す.シェイドはヴィンセントの周りに氷の壁を作って足止めする.ガイデがそれを取り囲むように羽を何層も広げて覆う.

「よし,この隙に逃げるぞ」

 ガーディアンズは使い魔をバッジに戻して逃げ出した.

「ゴールド,あの探偵を足すけるんだ!」

 ゴールドは枝を伸ばして羽を押し開けて退路を作る.

「パラドクス,出番だ」

 パラドクスはゴールドの幹を切りつける.ゴールドはバッジに戻るが,ヴィンセントは脱出に成功した.

「ダガー,カトラス,CG残党を黙らせて来て」

「了解」

 2人は使い魔を使ってヴァランたちを捕まえようとする.ヴァランたちとヴィンセントは遠く離れてしまった.

 ガイデが12枚の羽を開いてドーム状に覆い,ヴィンセントを中に閉じ込める.

「ねえヴィンス,逃げなくてもいいじゃない?」

「……」

「…?どうかしたの?」

 アキュリスはガイデに命じて羽を開かせる.アキュリスが内部を覗き込むとヴィンセントはアキュリスを引っ張って押し倒し,外へ逃げ出そうとする.アキュリスは両腕でヴィンセントの足を掴み,ヴィンセントはこける.アキュリスはヴィンセントの蹴りを手を離して避ける.ヴィンセントは走り出す.

「どうして…やっと会えたのに….あれ…」

 アキュリスの頬を涙が伝う.

「何で?また追えばいいだけなのに…,失敗すればやり直せばいいだけなのに…(どうして…?)」

 アキュリスは下を向いてワッと泣き出した.ヴィンセントは足を止めて後ろを振り返って立ち尽くす.

 ヴィンセントは口を開いて動かすが,声にならず,音もしない.歯をかみ締め,目を強く閉じて開き,踵を返してアキュリスに走り寄る.右膝を地に着け,アキュリスを優しく抱擁する.

「泣かないでライラ,俺はもう君から逃げない」

「ヴィンス…?」

「お互いに相手への気持ちの理解が足りなかったんだ.君が俺に会いたいという気持ちは本当に理解できていなかった.俺にとって,昔仲が良かった子との久しぶりの再開,嬉しい,ただそれだけのものだった.しかし,違った.いや違うはずだ,それとは比べ物にならないものだ.それを受け取って俺は逃げることなどできない」

「……」

 アキュリスはヴィンセントの胸の中で惚ける.一見は無のようでその実は満たされた気分で,少しずつ覚めて外の音が気になり始める.

「(今分かった.今までのは愛ではなかった.今まではヴィンスを追い求めていた,それは恋に過ぎなかったんだ.2人の境界が溶けて消え,1つになるこの感じ…幸福感に包まれる,これが本当の愛….クリスが言っていたのはこれのことなのね)」

「……」

「ありがとうヴィンス.目が覚めたよ」

 ライラは顔を上げて涙を右手首の上当たりで涙を拭う.ヴィンセントの顔を見上げて,目が合った後,左下を向いて目を反らす.

「ヴィンスに好かれていると信じて,ヴィンスの求愛行動だと思っていた.だけどそれは違った.本当に求めていたのは私の方.私はこの恋慕を直視することはできなかった.それには罪深く汚れすぎていたから.だからヴィンスに好かれていると考えて,それなら好意を持つことも許されると誤魔化していたんだ」

 ライラは起き上がって後ろを向く.

「でも気付いてしまった以上,もう誤魔化すことはできない.私はあなたに相応しくない.…さようなら私の愛しい人」

 ヴィンセントは立ち上がって,手を引いて引き止める.

「待てライラ.人は20年も生きれば人には言えないことが幾つかできる.でもそれで押し潰されてはいけないんだ.一緒に来てくれ」

「私はヴィンスに酷いことをした」

「もういいんだ」

「ヴィンスの仲間にも…」

「償って貰う.大丈夫だ出来る,俺がついている」

「どうして,そこまで…?あなたは私に罪悪感があるの?そんなこと考える必要ない」

「変なこと言うなよ.いいから来るんだ」

「本当に…いいの…?」

 ライラは振り返って顔を下に向けたまま,目でヴィンセントの表情を読み取る.ヴィンセントはライラを抱きしめて答えを態度で語る.

「何度も言わせるなよ,ライラの癖に生意気だぞ」

「ありがとう.ありがとうヴィンス」


 ヴィンセントの家,探偵事務所の上の階の一室でヴィンセントとライラは寄り添って話をする.

「苦しみの中でヴィンスに助けを求めていた.でもヴィンスに届くはずがない,今となっては当たり前だと分かるけど,当時はいっぱいいっぱいで分からなかった.同時に,この苦しみはヴィンスが自分の方へ向かせるためにやっているに違いない,それが求愛行動だと,そう思っていた.逆に楽しい時はヴィンスと私を繋いでいた唯一のものが切れてしまいそうな気がして,急に不安が襲い掛かって震えていた.苦しみを望んで結局逃げなかった.正常じゃなかったね,ハハ…」

「…….君は誤魔化してでも生きる術を用いたまで.しかしもう誤魔化さなくていいし誤魔化しかと疑う必要もない.素直になっていい.苦難は俺と一緒に乗り越えよう」

「…うん」

「(何か忘れている気がするけど,大したことじゃないだろう)」


「あの探偵が見つからない!連絡もつかない!」

「副長,あっちです.多分」

「うわあああ,蛇だああああ!」

 逃げ切ったヴァラン達は森の中を探していた.

 ダガーとカトラスはアキュリスなら帰るだろうと思って帰宅した.マンゴーシュに帰りが遅いと怒られた.カトラスはムカついたのでCG遭遇の報告はしなかった.

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