表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/22

14話

 谷にあるCGの臨時基地,この時間は基地の半分が日陰に入っており,また強い風が吹いている.

 基地内で地下道の蓋を開けてジュードが上って出てくる.

「出て来いシェイド,通信塔を破壊するんだ」

 シェイドの杖の先から電撃が放たれ,塔の天辺のアンテナが破壊される.その間にガーディアンズが続々と地下から出てくる.

「エルサとヴィヴィは正門を,マイとジェシカは裏の門を破壊して来るんだ.その後俺の通信を受けてからA2地点に向かえ.それ以外の場合は先に話した通りだ」

 ガーディアンズは3方に分かれて走り出した.

 シェイドが壁を壊して倉庫内部に入る.ジュードはゴーグルをつけてパーツを探す.パーツのある場所が光り,ジュードはゴーグルを外して引き出しを引いてパーツを手に取る.T字状の板のI部分に穴が4箇所等間隔に空いている.

「見つけた.ガーディアンズ,聞こえるか?目的のものは見つけた.これより帰還する」

 ジュードは部屋を出て外に出る.地下道に入り,CG兵をシェイドの催眠術で眠らせる.地下道の合流地点で待ち伏せしてCG兵を眠らせ,ガーディアンズの4人が通ったのを確認して地下道を抜ける.ジュードは裏山の岩の近くに出る.4人は車に乗って待っている.ジュードは車に乗り,ガーディアンスの基地に帰還した.


 通信が復旧し,送れて本部へ連絡が伝わる.

「そうか,ガーディアンズが….しかしなぜ逃した?出口は塞がっていたのだろう?」

「地下道から逃げられました」

「ということは地図が流出したのか?それは後で調べておくとして,跡は分からないか?」

「現在調査中です」

「そうか.何か分かったら連絡せよ.痕跡が無かったら無かったで連絡しろ.以上だ」

「了解.以上」

 ギルベルトは通信を切る.

「長官,会議の時間です」

 ヴァランが資料の入った鞄を持って待っている.ギルベルトは立ち上がり,2人は会議室へ行く.


 会議中


「ガーディアンズは最初は軽んじていたことを認めます.しかし,我々はその機になれば奴らを潰すことは可能です.時間を下さい」

「時間はどれくらい必要ですか?」

「相手の粘り次第ですが,3ヶ月以内には必ず潰して見せます」

 会場がざわつき始める.

「…いいでしょう.私はそれまで待ちます」


 会議終了


 2人は司令室に戻る.

「ガーディアンズを潰すとは初耳ですが」

「ああ,さっき決めた.そこでお前には作戦を練って欲しい」

「急ですね.引き受けましょう.その前に,ガーディアンズと交渉してみませんか?彼らの要求が我々の受ける損失よりも小さければ問題ないわけです」

「随分と弱気だな.とはいえ,今まで現実を見ずに欲張っていた.交渉してみろ」

「では」

 ヴァランは通信機を操作してガーディアンズの連絡先に繋げる.

「ガーディアンズ,聞こえるか?」

「…お前はヴァラン,お前にその番号を教えておいたな.それしか教えていないが」

「交渉をしよう.内容次第ではこれまでのことを水に流して共に歩もう」

「水に流してともに歩む…?まるでお前達が水に流せば全ての恨みが消えると言わんばかりだな.そうではないことを忘れるな.…話を聞こう」

「CGにお前たちのポストを用意する.それでどうだ?」

「具体的には?」

「我々はβの力の所持者という幹部に相当する地位がある.βの力を持たない部下を指揮することができる」

「細かい説明は後だ.要するにギルベルトとヴァランの下ということか?」

「さすがにトップの座は渡せない.それでもペギーやジロラモと同格だ」

「話にならないな.お前達がガーディアンズの下につくなら考えないことはない.どうしてもと言うのならCGの改革が必要だ.今の幹部全員外せ.俺たちが就いた後は知識の断絶を避けるために配慮はしてやる」

「それは無理な相談だ」

「やはり俺たちは戦う運命にある.どちらかが相手を取り込むか滅ぼすかしかない」

「…….ジュード,君はなぜ魔銃を完成させようとする.君の意思に関係なく,博士への恩義か?」

「お前たちの考えを聞いてからだ.まあ,大体は知っているが,確認のため」

「…….CGの目的は魔銃の管理と有効活用だ.簡潔に言うとスポンサーの求めるものを実行に移す.しかし,魔銃は大きな力を持ち,世界を壊しかねない.自由に動かせるようにあってはならない.だから暴力的な力は我々が持ち,スポンサーたちは紙とインクによる力を持つように分ける.立場はスポンサーの方が上だ.我々はそのバランスを守りつつ有効活用していく」

「なるほど,志は分かった.スポンサーの求めるものとは何だ?」

「金を稼ぐ手伝い」

「魔銃を使って金を稼いで,その金で魔銃を研究して,できた収入で生活するということという理解であっているか?」

「そういうことだ」

「それならあえて魔銃を使う価値は無い.寧ろ金にならないから後回しにされていることをするべきだ」

「何をすべきだと言うんだ?」

「人間というのはか弱い生き物だとは思わないか?巨大な隕石が落ちたら人間は生き残れるのか?時間が遡行すれば?太陽が消滅すれば?火山から毒が際限無く噴出せば?そんなことを警戒して準備をする国はない.滅多に起きえないことまで防災を用意する余裕はない.あえて魔銃を扱うのであれば我々がすべきことはそういった金にならない対策ではないか?お前の言う通り魔銃は大きな力を持ち,世界を壊しかねない.大きな力を持って大きな災厄に立ち向かう.それこそが相応しい.ガーディアンズの求める先にあるものはそれだ.そして俺はそれに賛同しているからここにいる」

「稼ぎもなしにできるわけが無い」

「できているさ」

「それはお前達が私達から取っていくからだ.そうでなければ生き残れない」

「安心して活動できるようになれば真っ当に稼ぐさ」

「どうかな?相容れないということが良く分かった」

「そうだな.惜しいけど,いい線いってたと思うんだがな」

「通信は終わりだ,さようなら」

 ヴァランは通信を切った.

「戦いになります」

「そうだな.作戦を考えてくれ.幹部を招集する」


 ヴァランとその部下たちは資料を見たり,書いたりして作戦を考え,完成したものをヴァランは幹部たちの前に持って行く.

「ガーディアンズを潰すための作戦を発表する.まずは準備の説明を.ガーディアンズは少人数組織,βの力を持つ者は5人しかおらず,そのうちジュード,エルサ,マイの使い魔は強いが,ヴィヴィとジェシカの使い魔は戦闘向きではない.対してこちらはβの力を持つものは7人.私の使い魔はあまり戦闘向きではないが,それなりに強い.それに加えて戦闘員600人ほど居る.このアドバンテージを有効活用する.そしてガーディアンズは撤退の上手さがある.一度逃げるともう見つけ出すことができない.少人数のため,隠れるのも容易だ.この特性も利用する」

「それで?」

「端的に言うと持久戦を仕掛ける.持久戦に相手が耐えられなくなり,決戦を仕掛けたところをこちらも全力で叩き潰す.まずは,戦闘員を広く配備して,彼らがいつ出てきても追跡できるようにする.発見後即座にβの力を持つ者たちを向かわせて戦う.たとえ負けたとしても後続と入れ替わり,繰り返し行うことで彼らに囲まれているというストレスを与える.彼らは我々の基地を襲って物資を補給しようとするだろう.そこで,主要な基地以外は完全に一時撤退して,残りの基地に集結する.1人が1つの基地を担当する.彼らが攻めてきたら即座に増援を送って追い出す.これまでは逃してしまったが,それは構えていなかったから.事前に準備をしていれば侵入に手間取らせることも,増援が間に合い,追い出すことも可能」

「本当かな?」

「参考データを見るか?」

「後にしよう.続けてくれ」

「最終的に彼らにどう思わせればよいかというと,本部を潰さなければ終わらない,と思わせること.それしか選択できないように追い込む.そして本部で最終決戦だ」

「ベルトランが言っていたように間に合うのか,というのも不安だけど.それよりも調査中の地域の臨時基地は全て引き上げさせるということ?」

「そうなる.ただガーディアンズを倒せば,元通りだ」

「基地の選択は?」

「この本部を中心にA02,A10,B14,D21,E01の予定だ.地図はこの通り.特にA02付近にガーディアンズの本部がある可能性が高い」

「湖に面した大きな町….ありえないこともない」

「なぜ近くにあると思うんだ?」

「襲撃時の彼等の移動手段は場合によって異なる.最もハイテクなものを使っていたのがA02基地とその近くの基地への襲撃時.整備しやすい本部の近くにあるのではないかと考えた」

「本部と整備場が別にあるかもしれないが?」

「その可能性は無いわけではない.しかし,他に考えられるものがない」

「今から追跡してみては?いや,それを兼ねての本作戦か」

「そうだ.では次に,具体的に人員配置と通信の手順を伝える.その紙を見てくれ…」

 ヴァランは全員に説明をし,作戦を開始する.臨時基地からCGの構成員が撤退し始める.CGの存亡を賭けた戦いが始まる.


 ガーディアンズの研究所.外から戻って来たジュードとジェシカをエルサが出迎える.

「お帰り,どうしたの?そんなに汚れて」

「私服のCG兵に見つかって撒いてきたところだ」

「この辺りはどこにでも居そう」

「ヴァランの変な通信があったと思ったが,もしや最終通告だったんじゃないか?まあ,とにかく着替えてくる.他の人たちには外出を控えるように言ってくれ」

「分かった」

 その後,コバルトを上空に飛ばしながら,ジュードは町に出て様子を伺う.CG兵によって通路を阻まれる.ジュードは隠し通路や屋根の上を走って抜け,研究所に戻る.コバルトはその場に残して屋根の上から様子を伺わせ,遅れてから地下通路を使って帰還する.

 ジュードの部屋.コバルトの目が光り,壁に映像を映写する.

 やっぱり様子が違うな.ベルトランがすぐに来た.ジロラモもその後で来た,ガーディアンズを潰す気かもしれない.協力者たちにも危険がないように動かないでいてもらうように伝えなければ.しらみつぶしに探されてはこちらは不利.対して相手は補充と交代が容易.早期決戦を….

 ジュードはコバルトをバッジに戻して研究室に行き,博士達に話をし,ガーディアンズを集めて説明する.

「…ということで,明日の夜明け前から作戦を行う,今日の業務は全て終えて休息に入る」

「了解」

「俺たちもサポートしよう」

 ヴィヴィの兄,シャルルが提案する.

「そうだな….しかし,あまり前に出ないように気をつけて」

「では中央からの通信は俺たちが行う.そうすればジュードの動ける範囲が広がるだろう.タイミングの指示も任せてもらってもいいか?」

「元の作戦通りの状況については指示を出すことを頼む.それ以外の場合は俺が状況に応じて指示する.あいつらとの戦いに慣れている者の方がいい」

「そうだな.それと運転もできるぞ.脱出時に役立てると思う」

 エリオットも提案する.

「よし,これから作戦を細かくする」

 ジュードたちは作戦を詳細に組み上げ,早めの夕食を取り,眠りについた.


 夜明け前のCG本部に通信が次々と入る.

「ヴァラン,こちらはA02ガーディアンズの襲撃を受けている」

「こちらはE01,ガーディアンズの襲撃を受けている.増援を」

「こちれはB14,ガーディアンズの攻撃だ」

 ギルベルトとヴァランは部下によって仮眠から覚めて眠そうに起きる.

「3つに分かれたか…,ということはジュード,マイ,エルサをそれぞれ中核としたチーム…」

「ジロラモ,お前はA02へ向かえ.ジュール,お前はE01へ向かえ.長官,B14へお願いします」

「了解した」

 5分後,

「あれ?分かれて攻撃ということは,こちらの攻撃の意図がばれていたということか?随分と早い.まあいい,相手に圧力をかけることが狙いなのだから」

「副長,昨日ジュードとジェシカを発見した様子とジュードを発見した様子の記したページがありますが,見ますか?」

「昨日見ても特におかしいところはなかった.それに今は目の前のことに集中すべきだ.後にしよう」

「了解」

 だらに5分後.

「こちらはD21,ガーディアンズの攻撃を受けてます」

「こちらはA10,ガーディアンズの攻撃を受けてます」

「先の3箇所は囮か.しかし…」

「こちらはB14,ガーディアンズは撤退しました」

「よし,D21に向かえ,襲撃を受けた」

 私がここを動くと不味いか?それとも私が動けないことを見越して相手は作戦を立てているのか?

「こちらA02,ガーディアンズは撤退しました」

「よし,A10に向かえ,そっちが襲撃を受けた」

 その後,全ての基地からガーディアンズは引いて長官が本部に戻る.ヴァランは各基地から報告を通信で聞く.

「全部退けたが,少し破壊された」

「そのようですね.相手は目的を達成できずに危険だから引いたと見てもよさそうですね」

「それぞれ1人ずつしか居なかった.1人が囮になっている間にもう1人が破壊工作というわけではない」

「それを知ったのはさっきの報告後でした.ガーディアンズと報告されたのでどこに誰が行ったか分かりませんでした.次からは名前で呼ぶようにしましょう」

「そうだな.それにしても今回の攻撃は何の目的があるんだ?」

「失敗して退いたのか,次への布石ですかね?」

「相手の拠点が分からない以上,いつ攻撃を仕掛けるのか分からない.場所が分かれば,早めに多くの食事をしているから,明日攻勢を仕掛けるのだな,と分かるが…」

「そうですね.それが分からない以上,こちらの守備範囲を広げるしかない.こちらのβの力の使い手を疲労させるのが目的かもしれません.ただ,あの防御を突破するのは大変な労力を要するため,諸刃の剣といえる.何にしても我々が体力で負けるわけにはいきません」

「そうだな,あいつらをしっかりと休ませよう」


 4日後,ガーディアンズの研究所.

「コバルトの透視とナインの催眠術でCGを調べたが,あいつらはまだまだ戦える.読みが甘かった…」

「なら作戦を修正するしかない.オーギュストや探偵と手を組むのは?」

「しかし,どこにいるんだあいつらは?」

「見つけ出すのは難しそう」

「奴は危険だから反対」

「く…,一番確実なのは本部を強襲して潰すことだが…」

「しかし戦力が足りない.集結したCGが相手だと分が悪い」

「…….気分転換してくる.食料だって1か月は持つように準備してある」

 ジュードは休憩室の窓から湖の中を覗く.水面が揺れ,光がゆらゆらと差し込む.

 できることは多い,ただし時間制限がある.今すぐやれば間に合うこと,今から徐々にやれば効果があること,色々ありすぎて居に穴が空きそうになったことがあった.それは今やできることが少なすぎて悩まされるとは皮肉なものだ.振り回されるのは好きじゃないのに.SCが力を貸してくれないかな.借りを返すって言ってたはず.まあ,ありえないか.

「ジュード,こっちへ来て!」

 マイがジュードを呼びに来る.

「どうした?」

「侵入者が!」


 ジュードが走ってエレベーター前に行くと見覚えのある3人が立っていた.

「何の用だ?」

「何の用だはないだろう.俺たちSRがお前達を助けに来たというのに」

「知っているのかジュード?」

 博士がジュードに尋ねる.

「ソードロックの3人,パルチザン,パタ,バリスタです.ソードロックはソードクロスの手下のようなもの」

「クレイモアがいないようね」

 ヴィヴィがぼそりと呟く.

「クレイモア…?誰だそいつは?」

 パルチザンは仲間に知っているか?と顔を見るが,2人は首を振る.

「ヴィヴィ,誰だそいつは?」

 ジュードはヴィヴィに尋ねる.

「いや,なんでもない.ちょっと探りを入れただけ」

「歓迎する気はないようですね」

「(当たり前だろ…敵か味方か分からないし)助けに来てくれたとは…?」

「伯爵がそうしろと,理由は教えてくれない」

「そういうことだ.伯爵の命令は背けないからな」

「伯爵?ファルシオンか?」

「違う.伯爵は我々の主」

「(そんなことを俺たちに喋っていいのか?)」

「ほら準備はいいか?俺たち全員でCG本部強襲する」

「裏切るんじゃない?」

「いや,裏切らないね」

「どうしてマイ?」

「SCとSRにとって得だから.ガーディアンズが無くなると,CGを押さえ込むものが無くなる.目的遂行の邪魔.それにファルシオンは元CG,今のCGを良く思っていない」

「都合よく考えすぎじゃない?それにSCにとって都合がいいなら,どうしてSCは一人もいないの?」

「それは私が説明しましょう.彼らはちょっと変わった人たちの集団で,自分達以外の集団への協調性が著しく低いのです.私達でなければ君たちと協力できないからです」

「うーん,ありうる」

 パルチザンの通信機が受信する.

「ファルシオンからだ」

「パルチザン,そこにガーディアンズはいるか?」

「居ますよ」

「よし,音を大きくしろ.聞こえるかガーディアンズ」

「ああ」

「君たちに協力をしよう.その3人を戦力に計上していい.君たちと戦ったことはあるが,CGが敵であることに変わりは無い.君たちが負けてしまえが,私達は単身でCGと渡り合わなければならなくなる.それは避けたい」

「…信じていいのか?」

「信じろ.第一,君たちを裏切って潰すことになるなら,君たちの基地に侵入できるのにしない理由はなんだ?」

「(CGへの手土産が考えられないこともないが…)分かった.信じよう」

「ではよろしく」


 ガーディアンズとSRはCG本部へ移動する.それを察知したCGは幹部全員を本部に集めて迎え撃つ.

 幹部は1階の広間に集まる.

「奴らに増援がいる.SCの手下の奴らが3人」

「そうか.グンナー,ペギー,ベルトラン,その3人の相手をしてこい」

「ヴァラン,ジロラモ,ジュールは私と共にガーディアンズを潰す」

 CGは散ったガーディアンズとSRを追いかける.


「何のつもりだ?お前達はガーディアンズの敵ではなかったのか?」

「交渉のつもりですか?」

「そんな時間は無い.出て来いサンダー」

 ペギーたち3人はそれぞれ使い魔を出す.ファントムとダークネスを呼び出す.バリスタたちも使い魔を呼び出す.スラッシャー,アマヅキ,フロストが出てくる.

 スラッシャーは姿を消し,ダークネスの背後から姿を現し,鎌を構える.ダークネスは体を回してヒレをスラッシャーに当てて遠くへ吹き飛ばす.

「ペギー,グンナー,巻き込まないように離れてくれ」

「言うまでもない」

 サンダーは雷の檻を作り,アマヅキと自身の周囲を覆う.ファントムはフロストに向けて竜巻を起こして奥へ吹き飛ばす.

 スラッシャーは鎌を掲げて姿を消す.ダークネスはヒレを開いて震わして音を出す.ダークネスは体を乙の字型に曲げ,頭をゆらゆらと動かす.急に止まったかと思うと,体をバネにして虚空に向かって噛み付く.スラッシャーは胴体を噛み付かれ,鎌を振ってダークネスに斬りつける.力が入らないのとダークネスの皮がつるつるしているため,深く切り込めずに噛みつけが強くなる.ダークネスがゴリゴリと歯を動かすとスラッシャーは千切れてバッジに戻る.

 サンダーは雷撃をアマヅキに放ち,アマヅキは触手を伸ばして檻の間から電撃を地面に逃す.体液で覆われた表面はある程度の電撃に耐えるが,ダメージは蓄積する.アマヅキはサンダーに触手を伸ばすが,サンダーは飛び回って届かない.サンダーは爪で触手を掴みつつ裂いて投げ捨てる.海月の傘を突いて攻撃する.触手で応戦するも翼で切り裂かれ,傘の傷口に雷撃を打ち込まれ,感電してバッジに戻る.

 ファントムは炎の波を起こしてフロストにぶつける.フロストは体のパーツを外して氷塊をばら撒く.ファントムは水の渦を作って氷を吸い込み,凍った渦が氷像のように佇む.ファントムは光の短槍を作って右手で持ち,地面に着地して姿勢を低くして前傾でフロストに狙いを定める.走りだそうとすると,足元が凍っており,前に倒れる,頭を防ごうとして前に出した左腕も凍って地面にくっつく.魔女帽が外れて地面を少し転がった後,凍りつく.フロストは渦の氷像を壊してファントムの上に降らせる.ファントムは氷に閉じ込められた.

「やったか…?あいつら負けてる…」

 サンダーの口が開き雷撃がフロストを襲う.電撃は氷の壁を砕いてフロストを映す氷に当たって氷が砕ける.ダークネスは本物のフロストに向かって衝撃波を起こす.フロストの周囲の氷が砕け散り,フロスト本体は壁に叩きつけられる.サンダーはフロストに近づき,ちょうどアマヅキの毒が回って動きが鈍くなり凍りついた.ダークネスは距離を取りつつ,光線をフロストに放つ.温度差により視界が歪んでおり,光線はフロストに当たらない.ダークネスは位置を修正してもう一度構える.しかし,その視線の先に注意するあまり,真下の地面から伸びる氷の棘に気付かず,棘に体が触れて尻尾から凍りつき,構えを解いて氷を振り払う.フロストの周囲の氷が復活し始める.しかし個数は最初よりもずっと小さい.フロストは寒波を起こしてダークネスに襲い掛かる.スラッシャーのつけた傷から氷が発生し,反射的に暴れまわって地面に体が着き,そこから凍り始めて全身が凍る.

 フロストの力が維持できるのは残り少ないが,3体の使い魔は封じたことになる.


 基地の奥,ギルベルトたちが中々見つからない.

「我々をお探しかな?」

 廊下を走るガーディアンズにヴァラン,ジロラモ,ジュールが扉を開けて出てくる.

「いや,ギルベルトに用がある」

「長官の下へ行きたくば私達を倒すこと」

「ジュード,ここは私達が抑えるから先に行って」

「分かった」

「……」

 ヴァランたちはジュードの通るのを黙って眺める.広いところで一騎打ちならギルベルトに分がある.


 基地内部の練習場.練習場の外壁は何層もの輪でできており,つる植物で覆われている.練習場の端には煙突があり,煙突効果で換気を行う.外からは窓が目立たないが,室内には外壁の輪の間にある多くの窓から光を取り込んでおり,とても明るい.外壁と窓の間には人が2人ほど通れる広さと十分な足場があり,手入れが容易な構造となっている.

 奥の壁にギルベルトがもたれて立っている.ドラコを従え,腕を組み開いた扉の向こうのジュードを見る.

「意外だな,お前が逃げずに戦いを挑むとは.これまで私とできるだけ戦わずに済むように作戦を立てていたようだが?」

 ギルベルトは腕を後ろに動かし前に起き上がった.

「確かに今までは避けていた.それは,今まで俺達ではお前に勝てないと考えていたからだ」

「では今は違うと?」

「そうだ,違う.自分の与えられた役目への責任感ではなく純粋に彼らの未来を守りたい.もう負ける気はしない」

「詭弁だ.お前はただ狭苦しい思いが嫌になって飛び出してきただけに過ぎない.その自分の行動が間違いだったと認めたくないがために,だ.それらしいことを思いついて口にしているに過ぎない」

「どうしたギルベルト,随分おしゃべりじゃないか.決着が着くのが怖くて先延ばしにしたいのか?」

「言いたいことは済んだか?お前達の最後に相応しいように好きに喋らせてやったというのに」

「余計なお世話だ.ここで終わらせる!やれシェイド!」

 2人はバッジから使い魔を呼び出す.2体の力が激しくぶつかり合う.

「お前はよく頑張ったよ,ギルベルト.だが,向いてない人が必死に頑張ろうと頂点の戦いのステージにおいては足りないんだ.もう辞めたっていいんだ,お前のこれまでの努力を笑うものはいない」

「自らを頂点と言うのか.傲慢な奴め」

「ククッ….お前は自分の方が今の長官よりまだマシだからと長官の座を手に入れた.あの男の横暴についていくことができなかった.許せなかったんだ.だが,長官には向いてなかった.下っ端のリーダーとしては適正があったかもしれないが,組織のリーダーには向いてなかった」

「黙れ」

「命令を聞かない部下,襲撃を許す体制,君に変われば戻ってくると思ったら戻ってこない仲間,全てがその証明じゃないか」

「喋っている暇があるというのか?」

「俺のシェイドは負けないから」

「……」

 ギルベルトはジュードを無視し始める.

「フフ,すぐに分かるよ.お前は向いていなかったということに」

 ジュードは全力で揺さぶりをかけてギルベルトの判断を鈍らせる.戦いにおいてはジュードの判断力よりギルベルトの方が優れており,使い魔の戦闘力もドラコの方がシェイドよりも高い.ジュードが勝つには召喚士と使い魔の同調を崩す必要がある.

 ドラコは翼を勢い良く広げて突風を起こし,シェイドは体の重心を下げ,両腕を交差させて巻き上がる瓦礫を防ぐ.両腕を振りつつ右手に持つ杖から竜巻を出して突風の勢いを消す.ドラコは右手の爪でシェイドに切りかかる.シェイドは杖で受け,ドラコが横に薙いだのに合わせて横に吹っ飛ぶ.シェイドは膝を曲げつつ壁に吸い付き,杖の先から光の鎖を出してドラコの右腕に絡めて引き寄せる.ドラコは傾きつつ横に2歩動いて,重心を安定させ,今度は逆にシェイドを鎖で引き寄せる.シェイドは鎖を消して地面に降りて,雷を纏った雲をドラコの左右に向けて飛ばす.ドラコは空気を吸い込み,胸が膨らみ始める.シェイドは杖を前に突き出して左手で右腕を支え,重力球をドラコに向けて飛ばす.ドラコは口から炎を吐き出し,シェイドに浴びせる.炎は重力球に吸い込まれてシェイドへの攻撃を防ぐ.が,直後に吸収限界を超えて大爆発が起きる.

 ドラコは傷を受けつつもなお立っている.その前の地面は黒く染まり,M45が描かれ,煌々と輝く星も薄い星雲も闇に消え,周囲が闇に覆われてシェイドが闇の中から姿を表す.シェイドは杖で体を支えて立つ.

「何だまだ技があるのか.ドラコに傷をつけられないのにご苦労なことだ.どんな投法があろうと壁を越えなければ意味がない」

「……」

 ドラコは翼を広げて地面を強く蹴って跳びあがり,シェイドの上に落下する.飛び上がった後には空気が吸い寄せられて突風が発生する.シェイドはフラフラしている演技を止め,自分の周囲に氷の棘を発生させる.ドラコに無数の棘が刺さり,シェイドは杖の先から前方にバリアを張ってドラコの攻撃を受ける.

「(何!?私が負けたら駄目だ….私は優秀な指揮能力があるわけではない.だから力で皆の心の支えとなるんだ.力でさえ負ければ,何も残らないのだから)」

 シェイドはバリアを解いて杖から巨大な闇の拳を出して,ドラコの顎に当てて打ち上げる.ドラコは仰け反って舞い上がり,頭から地面に落ちる.シェイドは左手で杖を逆手持ちして右手を離し,杖の先から氷の槍を作ってドラコの頭に刺す.ドラコはバッジに戻った.

「俺たちの勝ちだ」

 以前のギルベルトであれば,シェイドの演技やジュードの企みに気づいて対応できたはず.できないほど追い詰められていた.その様子を相手に悟られることなく,支えとなるリーダーとして振舞っていた.

「これ以上負け続けはしない」

 基地内にサイレンが鳴る.自爆装置が起動された.

「(ギルベルトが守れなかった以上,もう破壊して守るしかないということか…)」

 ジュードは来た道を戻って仲間と合流する.大急ぎで基地を脱出した.基地が爆発して地面が揺れる.爆発して崩れることはないが,揺れからして内部はもう何も残っていないだろう.

 帰りの空飛ぶ船の中.

「SRの連中は脱出できたのか?」

「いるよ」

「いたのか」

「これでCGは当分大人しくなるね」

「どうだろう.今回は本気だったのは最後のチャンスだったのかもしれない」

「もう表に出てもよさそうだな」

「地上か…」

 SRの3人を途中の道に降ろす.

「さようなら」

「さようなら」

 3人は少し離れてから「今度会うときは敵同士だ」と言って走り去って行った.


 SCの拠点ではマンゴーシュからメールを受け取り,状況報告を受けたファルシオンは安堵の息を漏らして椅子に深く座る.

「しかしCGを倒してしまってよかったのか?ガーディアンズを抑えてくれていたし,奴らの作る資材を強奪する方が作るより楽だったけど」

 フォチャードは自身の青いタブレットで報告を読みつつリーダーに尋ねる.

「構わない.次の段階に進む準備は整っている.それに,許せないんだ」

「許せない?何が?」

「今のCGは私の居た頃のものじゃない.すっかり変わってしまった.たとえあの先代長官の屑が消えようと,今の組織はギルベルトの一派のものだ.私が敬愛していた組織ではない.今のCGが評価され,認められるなど許せない.憎まれるならいい,だがそれができないのなら滅ぼしても構わない.私の考えと理想的な状況の一致は幸運だった」


 ギルベルトたちは基地の外で壊れた基地を見上げる.

「終わりか.期待してくれた皆に申し訳ない」

「何を言っているのです!情けなくともすがり付いて再建するんのです!」

 ヴァランはギルベルトの諦めた物言いに反発する.

「もう誰も力を貸してくれまい.俺たちに投資して浪費するより,ガーディアンズに取り入ろうとするだろう」

「たとえ敗北者だと蔑まれようと,厚かましいと言われても援助を求めて,我々は復活しなければなりません」

「そうだな,お前の言う通りだ.頭を下げるのが嫌でこれで終わりにしてしまおうとしていた.それでは駄目なんだ.生きているのなら悪いところを直して次に生かし続けなければならない」

「しかし,本当に協力者は得られるでしょうか?」

 ベルトランは教団幹部らしい大金の投資者の目から見て不安を覚える.自分の立場ならもう手を引くだろうと考える.

「得てみせる.もし疑問におもうならこの羽バッジを見るといい.その羽バッジには多くのものが詰まっている.初めは量産されたものの1つだったが,多くの苦難や成功,喜びや悲しみを乗り越えてそれらが染み付いている.その積み重ねられた思いは誇りであり絆.私達に勇気を与えてくれる.例え満足な協力を得られなくとも,全てが駄目になるわけじゃない.少なくとも今まで積み上げてきた物は本物なんだ,これからも全てが駄目になることはない」

「…そうですね」


 基地に帰還後,車に乗ってジュードとエルサはある場所へ向かう.エルサはエリオットも誘ったが,忙しいので後にすると言って断られる.

 車から降りてエルサは門の鍵を開けて家に踏み入った.

「敵は居ない.もう入っても大丈夫.自分の家なのに,入れなかったなんて変な話」

 庭の草は伸び,地面に分解しきれなかった枯葉が積もり,壁の出っ張りの上に鳥の巣ができている.

「ただいま」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ