ピエロと女王様と幼女
初めて会ったとき、彼女はピエロでした。
派手な化粧をして、色とりどりの衣装を身にまとい、とても楽しそうに飛び跳ねていました。
どこか、冷めた瞳で、こちらを見つめながら。
よく見ると、楽しそうに見えていたのは、口元に描かれた真っ赤な曲線のせいで。
彼女自身は少しも笑みを浮かべてはいませんでした。
「君もおいでよ」
ぶっきらぼうな口調で彼女が誘います。
「楽しくなさそうだからいかないよ」
僕が答えます。
「楽しいから笑ってるんじゃないか」
彼女はそう吐き捨てて何処かへ飛んで行きました。
「―――…笑ってないじゃないか」
僕の言葉は届きませんでした。
次に会ったとき、彼女は女王様でした。
腕を組み、僕を見下ろして、口の端を釣り上げていました。
しかし、周りには誰もいなくて。なんだかとても淋しげなところで彼女は独り座っていました。
ただ、枯れた草木が彼女の周りを埋めていました。
「ねぇ、誰もいないの?」
僕が尋ねれば、
「一人でも大丈夫だから」
彼女が応えました。
よく見れば彼女の周りにも人はいるのです。
枯れた草木の陰にひっそりと。
ただ、彼女はそれを解ろうとしません。
上からただ独り、裸の冠を被っていました。
「大丈夫」
そういって彼女は何処かへ飛んで行きました。
次に会ったとき、彼女は幼い少女でした。
無邪気に笑いながら、こちらを向いていました。
「何か楽しいことでもあったの?」
僕が聞けば、
「ううん」
彼女は首を横に振りました。
「何故、笑っているの?」
僕が尋ねると
「全部無くしてしまったからよ」
コロコロと喉を鳴らして彼女は言います。
「偽りの笑顔も、孤独の冠も。全部全部無くしてしまったから、笑えるの」
彼女の頬には涙の跡がありました。
僕はそれを見ないふりをして。笑う彼女に手を振りました。
彼女はもう、大丈夫です。