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ファンタジーか恋愛か迷ったけど、コメディーになりました。短いです。

「樹。今年の誕生日はとびっきりのプレゼントをもってきたぞ。」



それは、ざぁざぁ五月蝿い雨の日のこと。

こんな天気の夜はいつもと違って妙に静かで、私はぼんやりTVをみながら煎餅を齧っていた。

私の家は結構広い。昔ながらの日本家屋で、縁側も庭もしっかりしている。住んでいるのは、学生の私一人なので、掃除は使うとこしかしていないから少々ほこりっぽい家だが。

普段は学業やら家事やらで忙しくてあまり気にならないけど、こんな日はふと一人がつらくなる。


―あぁ、誰かこないかな―


生身じゃなくてもいい。電話とかメールとか、ラインでもいい。誰かから何かしらのたよりがあれば、こんな気持ちはなくなるのに。

そう、考えていた時だった。

がらりと、勝手に玄関の戸が引かれる音がして、「いつき~」と私の名を呼ぶ声がした。

脳裏を過る懐かしい姿に、まさかと思いつつ玄関に駆け寄る。


そして、冒頭の台詞だ。

二年ぶりに再会した父は、ただいまも言わず仁王立ちでドヤ顔した。


「どやっ」

というか、自分でそう言った。


「いらない。つーか、私あんたに会うこと自体ひさしぶりなんだけど。」


ちなみに、私の誕生日は三カ月前である。

他にいうことあるんじゃないだろうか?大体そういうこと言う前にちゃんと体ふくべきだ。かっぱ脱げよ。おっさんのかっぱ姿ピンクとか誰特なんだ。

今までどこにいってたの?って、ちょっと待て、日本じゃ土足はだめなんだつーの、お茶でも飲んでまず温まってから話そうよ、そーいうことはさぁ。


まるで母親のように甲斐甲斐しく世話をやいてやりながら、父の背中を追う。

住所不定職業不明の父が帰ってくるなんて珍しい。ぶつぶつ文句をいいつつも、上気する頬をそっとおさえた。こんなことなら、晩御飯豪華なものにしたのに。

自然にゆるむ口元を引き結ぶ。

そして、改めて父の背中を目で追い――…そっと目をそらした。


ないない。あれはない。今は何月だ?三月である。クリスマス限定のイカれた爺の出番は終わった。

あんながばかでかい袋に何を入れるというのだ。白い袋からあきらかに肌色ナマモノがはみでてるとか、気のせい。ないない。あれはない。うごめいてみえたのも、気のせい。



「じゃぁあれだ。これは土産だ。」


にかっと笑い、居間に腰を据えた父が袋を差し出した。

いやだ、やめてくれ。


「いらない。断固拒否する。」

「そんなこと言わずにさぁ~いっちゃん、お父さんのお土産好きだろ?大事に飾ってるの知ってるんだぞっ」

「いっちゃん呼ぶな、ダメオヤジ。あれは他に置き場がなかったからっ」

「嘘だぁ~お父さんのお土産、大人気だもん。いらないなら他の人にあげちゃえばいいだろ?」


人気ってどこ人気だ。亜人の住む未開の地か?ジャングルの山奥か?

はっきりいって父がいう「お土産」のセンスは大いに問題がある。海にいけば珊瑚とか、貝殻とかそんなかわいらしくて無害なものを選ぶだろう、普通。父の場合はそれがまぐろとかサメとかなのである。

「俺がとった!」と誇らしげに自慢されても魚をさばけない上に両親が常に不在で実質一人暮らしの私はどうしたらいいんだ。ご近所さんに分けろってか。仕方がないからネットを頼りに捌けるところまでさばいたけど。


山にいったらいったで、熊とか生け捕りにしてくるし、海外いったらいったで血の着いた槍とか土産話つきでもってくる。おかげで常に私は涙目状態。野性動物の捌き方やら食えるモノ、食えないモノの見分け方、悪霊の払い方など、平穏な日々にはまったく無駄な知識ばかり身についてしまった。

え?それで何故飾ってるかって?それはもしもの時のための証拠物件である。他意はない。嬉しかったとかもない。全く、ぜんぜん、少しも。


そんなこんなで最近は対処法も身にいた私だが、今度という今度は断固拒否させてもらう。

だって…ねぇ?どうみても、袋の中身はアレである。哺乳類霊長目ヒ(以下略)だ。さすがにまだ犯罪は犯したくない。

父自身はなんとかなるだろう。だって、父だし。もうヒトの枠を超えて自然災害に分類してもいい。逃げ切れるさ、きっと。



そう思って口を開こうとしたものの、


「まぁ見てみろ。せっかくお前の為にとってきたんだから。」


と、輝くような笑顔で言われてつい口をつぐんでしまった。それが間違いだった。


親父は背後に放置していた袋をずりずりひきずってきて、ゆるく口を縛っていたリボンをほどいた。

何気に赤いリボンだったことが、なんとも言えない。



「……………。」


「な?どうだ。」



………どうだ、といわれても。





「元の場所にかえしてきなさい。」



袋の中に入ってたのは思ったとおりナマモノだった。というか人間(?)だった。


墨をぶちまけたような真っ黒な髪と同色のピクピクと震える人間にしては伸びた耳。

くるんと丸まった細長い尾は、ばしんばしんと畳の上ではじけている。これが猫なら超不機嫌ってところだろうか。

荒い息と体中の傷からして喧嘩後みたいだが、そこまで弱っていない。

顔の造形は目が二つに鼻が一つで口が一つ。瞳孔が極端に大きかったり、肌が緑色だったりはしない。つまり異形ではない。どちらかというと美形といえる人間より。


なんていうか、まぁ一言でいうとなんていうか……猫耳男。


唯一の救いはそいつがモンゴロイドっぽい雰囲気をかもし出していたことだ。

もしかしたら日本語通じるかも。だったら自力で帰ってくれないかな。無理かな。


「なんてこというんだ。せっかくお前の為にとってきたのに。それ高かったんだからすぐに捨てないで使ってみろ」

「ちょ、高かったって何ソレ!危ない橋わたるなって前もいったよね、私?ってか使うって何!何に使うの!!」

「大丈夫だ、知り合いの紹介だから。お上も黙認してるから安心だ。」

「いやぁぁっ聞かせないでよ、そんなダークな話!なにが黙認だ!どっこも安心できないよ!」


耳をふさいでうずくまると、親父はむぅっと腕を組んで悩み始めた。

何その困った子だなぁみたいな目。

アンタのほうがよほど困ったおっさんだよ!歳考えろ!年頃の娘を放って危ない方向に足つっこんでるんじゃないっ

この際だから今まで言いたかったことをいってしまおう。立ちあがり、父をにらみつける。


「あのねぇっ」

「……わかった。」

「え?」


ちょっとまて。まだ何もいってないのだが。


しかし、何か納得してしまったらしい父は、立ちあがると、白い袋の口をつかんで男ごとずるずる引っ張り始めた。

おいおい。その扱いはかわいそうすぎるだろう。捨てて来いとはいったものの、この雨の中あんな状態な奴を捨てたらどうなるかなんて目に見えている。


「お父さん…っ!」


まって、雨があがるまでソレ預かるよ。そういいかけた時。



風呂場から、ざっぱーんと大きな音がした。



「ちょ、おおおおお父さん!何やってんの――!」


こんな時間に近所迷惑でしょ、って、違う。

何でソレ風呂につけてんのっ!


「お前、これが汚いから気に食わなかったんだろう?」


だから洗おうとしたのか?風呂につけて?

……ま、まちがってる!いや、風呂は間違ってないけどなんかズレてる!


混乱状態で風呂場にたちつくす私に、う、うぅ、っと苦しそうな第三者のうめき声が飛び込んできた。

風呂場には私、父、袋しかいない。そして袋は今現在ぶくぶくと気泡をだしていて……


「ね、猫耳ぃぃ」


慌てて父から袋をうばいとり、口を大きく開くと中からげほげほと咳き込む男前が飛び出してきた。

そうだよね、苦しかったよね。せっかくの美形がよだれと鼻水で台無しだもんね。

ぜぇぜぇと荒い息を繰り返す猫耳男の背中を撫ぜながら私は父をにらみつける。


「お父さん!駄目でしょう、こんな扱いしちゃ!わかってるの?もうすぐで犯罪おこすとこだったんだよ!」

「それは『モノ』だから別に犯罪じゃ」


「だとしても!」


犯罪になろうがなるまいが、私の目の前で父にヒトを殺してほしくない。

もうすでにアマゾンの奥地で何人かは殺していたとしても、ここは私の家だ。否、私たちの家だ。

正直なところこの猫耳男がのたれ死のうがなんだろうがあまり心は痛まないが、父がもってきたなら話は別だ。父が関わった時点でそれはもう私の問題なのだ。


「……わかった、それが樹の望みなら。」


納得したような、してないような、いつも通りのにこにこ笑顔で父はこくりと頷いた。

仕方ないなと私も反省する。今日はちょっと父に多くを求めすぎた。とりあえず猫耳男を袋から引っ張り出させて、及第点にする。父の扱いは難しい。



「よし、じゃぁこの子乾かすから、そしたらご飯たべよう?お父さんもお腹減ったでしょ。」

「おぅ」


父が頷いたのを確認して、私は猫耳男を連れて行こうとした、ら、男はもう浴槽にはいなかった。

いつの間にか風呂場を抜け出して、脱衣所の片隅でがたがたと震えていた。


「く、来るなっ…!」


歯をむきだして、毛を逆立てて、精一杯威嚇される。まるで手負いの獣みたいな様相。

あ、よかった。日本語通じるのか。しかし、随分怯えられてしまった。

はっきりいってこういう相手は私より父の方が得意分野だ……あぁ、かわいそうに。



それから数十分。私は夕飯の用意にかかりきりで、父は猫耳男の「しつけ」にかかりきりとなった。





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