表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/45

25章

ホルクスは黒い髪に目をやった。


「いい色じゃな。お前さんによう似合っておる」

「そう? ありがとう……」


 クリスはにわかにほめられても、まだうれしさを味わうまでではない。


「あの。これでもう誰も嘘なんか語る人がいないんだから、また下で語りを続けてもいいんじゃない?」


クリスが明るい声で提案した。

実際、デロスには数年間語りが不在なのだ。


「いや。わしはもう語る力が残っておらん。きっとこの命も長くないはずじゃ」

「そ、そんなことないでしょ?」


 驚いて、思わずホルクスの手をとった。


「いや。自分のことは自分がよくわかる。わしの後を継ぐ語り部が、もう現れてもよいころじゃ」

「え?」

 クリスは、目でヘルメスに答えを求めた。


視線を向けられたヘルメスは……一度受けた視線を、大きく外した。


「……」


 クリスはわずかに戸惑った。


「ヘルメス様。すぐ先のことになるでしょうが、どうかこの老いぼれの案内をお頼み申せませんでしょうかな?」


それは、聞いているクリスがつらくなる言葉だった。

 ヘルメスは軽くうなずいた。


「頼まれなくても、案内するつもりさ」

「おお、ありがたいことじゃ」


 ホルクスはまたも額がこすりとれるくらいに床に頭をつけた。

 そして、気が済んだのか、やっと頭をあげた。


「ときに、ヘルメス様。嫁に、お迎えなさるのかの?」 


ホルクスは顔中しわだらけにして、目の前の男女を見比べた。

 あまりにも唐突な質問、詮索に、しばらく沈黙が走った。


「なに? どうしてよ! 私は強引に呼ばれて、ちょっと用を済ませるだけなの! それだけよっ」


涙などどこかに飛ばして、その間違いを大きく訂正した。

 ヘルメスはというと、お腹を抱えて笑いを抑えようとしている。


「じいさん……。口は達者だが、頭はもうろくしているようだな」

「おぉ、申し訳ありませぬ」


 ホルクスは謝りながらも、しわで隠れている目を更に糸のように細め、うなずいている。


「では、気をつけていきなされ」

「えぇ、ありがとう……」


 クリスは立ち上がった。

 ヘルメスも柱から身体を離した。


「では、後々お願いします」

「あぁ……」


互いに短い挨拶だった。

 クリスは、ヘルメスに引っ張られるように足を踏み出したが、ちょっと止まった。


「あの、ここを綺麗にしているのは、おじいさんなの?」

「クリスや。綺麗にするのではない。ここはわしの在る所。わしは神殿の守番じゃ。誰がいつ来ても、気持ちよく拝殿まで歩けるようにしておるだけじゃ」

「そうなのね。ありがとう」

「お前さんこそ、綺麗な姿を見せてくれて、心が若返るようじゃ」

「まぁ……。じゃぁ、行ってきます」


お互い微笑み合い、クリスは、先をゆくヘルメスを追った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ