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序章~小娘のお守りが重荷な神~

いきなり神界で活動というか、どんくさい行動をしている人間の娘、クリスです。

序章が終わると、本編はヘルメス神と人間の娘クリスの出会いを書きます。

    1


 この俺がどうしてあの人間の小娘に、わずかな時間といえども、手を焼かないといけないんだ。


「あーあ。あいつまた……」


 自分の神殿の水鏡から見える様子は、間抜けとしか言いようがないものだ。それでも、行くしかないようだ。面倒だ。

 ヘルメスは一息ついて、空間をを移動した。


   ◇


「お前なぁ、なんで前みて普通に歩けないんだ」

「あ……。ヘルメス……痛い……」


 声も絶え絶えなクリスが訴えてきた。

少し隆起した丘にある祭壇から下りようとしたのだろう。十段ほどしかない階段を、踏み外して倒れていた。

 ヘルメスが与えた、薄緑の旅装束の足首が破れている。どうやら、右足を強く打っているようだ。くるぶしがひどく腫れている。ひねったのではなく、折れているのかも知れない。右手の甲も出血している。

 長い黒髪にも土がついているが、それはクリスが自分で払ってとっていた。

 俺には痛みなんてものはないから、これをみてもどんな苦しみなのか想像もつかないが、普段からうるさいかん高い声もでず、荒い呼吸を繰り返す辺り、相当痛くてひどいのだろう。左肩もすりむいて少し出血している。

 俺は医術の神ではないが、このくらいなら治せる。足の患部にそっと触れると、クリスは痛そうな声をあげた。


「すぐ終わるから、ちょっと我慢しろ」

「……わかった……」


 触れてすぐに、腫れは引いた。

 全く。俺はこいつのお守りなのか。 


「……ありがとう、ヘルメス……」


 しおらしく謝っているが、どうせすぐにうるさい声で騒がしくなるに違いない。


「お前な……。階段降りる時は、下を見るもんだろ。何で空見上げて降りてるんだよ。そんなこと、三つの子でもやらないだろ」

「え。だって、珍しい鳥の声がしたから、ちょっと見ようと思って……。ってヘルメス、どこから見てたの?」

「俺の神殿から」

「暇だったの?」

「……助けてもらってそれか。他の事やってても、その杖が呼ぶから中断させられるんだ。見てみれば、間抜けなことしてるし」


 ヘルメスは、今更ながら自分の杖を貸したことを後悔した。倒れながらもその杖を折らないようにかばっていたからひどい怪我になったようだが、そこはあえて黙っておく。


「悪かったわね。一応普通に歩いてたのよ」

「赤ん坊でさえ、前みてはいずるってのに、一七歳のお前はそれ以下だな」

「なによ、それ。ひどいっ」

「俺はまともなこと言ってるはずだが」


 クリスは、言い返す言葉がおもいつかないようだ。悔しそうな顔をして唇をとがらせている。商売の加護をしている俺に、口で勝てるわけがないだろうが。


「だったら、前もってここにいて、危ないって言ってくれればいいのに……」


 話をすりかえたな。まあいいが。


「俺は予知の神じゃないし、お前が歩いて移動してるだけなのにいちいち付き合ってられるか! 今だってその杖が、お前に何か起こったから俺に知らせてきたんだ」

「起こってからしか知らせてくれないのね」


 クリスが見ている杖は、ケリューケイオンという名がついていて、全体が白く、もち手に蛇の装飾がついている。クリスが手にもち、欲しいものを想像すれば、具体化して目の前に現れる。だから、食べ物の心配や、移動の荷物の煩雑さはない。それに、クリスの身に何か起これば、神殿にいるヘルメスの髪を揺らして知らせ、どこでもいいから水鏡をのぞけば、何が起こったのか少し前の出来事を再生する。

そうやってさっき見た映像は、肩が落ちるほの出来事だった。

 余りにもあほらしいので放っておいてもよかったが、人間のあの傷はすぐには歩けなさそうだった。だから仕方なく移動した。


「頼むから、歩くくらいまともにやってくれ。俺は忙しいっていってんだろ。今みたいにすぐに行けることだってそうないんだぞ。神だからって、身体二つあるわけじゃないんだからな」

「……そうなのね」

「あぁ。だからこんな馬鹿なことで俺を呼ぶな」

「呼んでないわよ!」

「その杖が呼んだんだ。親切にな。放っておいてやろうと思ったけど、その足だったらすぐに治らないだろうから来たんだぞ。だったら、この先もっとひどい怪我しても、放っておくぞ」

「あ……。ごめんなさい……。その、怪我しないように、ちゃんと歩くから……」

「それが普通だろ」

「そ、そうだけど……。あの……」

「なんだよ」

「ごめんなさい。何でもないの。気をつけるわ」

「あぁ、その杖があるだけでもかなり便利なはずだからな、俺の手は極力煩わせるなよ」

「……わかった」

 何か言いたげなクリスの目を無視するようにして、ヘルメスはその場から消えた。



   ◇

ヘルメスは自身の神殿の座に収まると、ぼそっとつぶやいた。


「……だから、あいつを連れてくるのは嫌だったのに……」


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