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故障中

作者: 尚文産商堂

「なあ、聞いたか。あの噂」

俺は、同じクラスの友人から、その噂とやらを初めて聞いた。

高校のパソコンルームの中で、一番端っこに故障中という張り紙が貼りっぱなしになっているものが一台ある。

これにまつわる噂だ。


なんでも、先輩から後輩へ、何代にもわたって語り継がれている伝承らしい。

張り紙をはがし、お願い事を3度呟いてからパソコンの電源を利き手と逆の手で1回押すと、パソコンの画面にそのお願いがかなうかどうかがわかるという。

ただし、これができるのは1日に1回だけ、それも、人生に関わるような大切なものになれば、一生に1回だけということになるそうだ。

どうやってそれをパソコン側が判断しているのかが気になるところではあるが、俺はあえて突っ込まなかった。

「それ、今日してみないか」

俺は、できれば御免こうむりたかった。

だが、友人の手回しの速さは尋常ではない。

すでに俺の周りの女子2名を味方につけていたらしく、俺を3人で取り囲む形でじっと見つめられていた。

さすがに俺も男だ。

女子からの切実な願いともあれば、それを叶えるために必要なものは惜しまない。

ただし、財布が傷まなければの話ではあったが、今回は、精神的な傷こそ負えど、金銭的な負担はなさそうだった。

だから俺は、親には遅れるとだけ言って、そのパソコンのところへと向かったわけだ。


部活中のその部屋の部長と話をしてみると、好きなだけ使っていいと許可が出た。

俺たちはその張り紙をしているパソコンの張り紙をはがしてみたが、何の変哲もない、ただのデスクトップ型のパソコンだ。

「誰からする?」

そんなことを聞いてはいけない。

間違いなく友人が最初にするというにきまっている。

「俺からするさ」

ほら、友人が真っ先に手を挙げた。

すでにわかっていたことだから、俺は最後でいいと言い、女子二人が間に挟まる形となった。

友人がおもむろに電源を入れると、画面がつくかと期待した。

だが、真っ暗なままだ。

しかしながら、友人には何か見えているようで、うれしそうにしていた。

「俺の願いはきっと叶だってさ」

よかったじゃないかと俺は友人に話す。


それから女子2人が終わると、二人ともすこし沈んだ表情をしていた。

どうやらかなわないという結果が出てきたようだ。

俺は何も聞かずに、何も願わずに、ただ、漫然とした気持ちでパソコンのボタンを押した。

画面がパチパチと白く光り、それから声が聞こえる。

くぐもっているが、はっきりと脳で理解ができる声だ。

「…願い事は?」

ない、俺はその声に正直に答えた。

「…そうか、なら君に一つ大切なものを教えよう」

それはなんだと問うた。

「…友人は、大切にしなさい。その友人こそが、必要な時が必ず訪れる」

ご忠告、感謝しますと、その声に答えた。

「なあ、何を言っているんだ」

友人の声をきっかけに、画面は再び暗くなり、声は途絶えた。

「それで、結果は」

さあなとだけ答える。

それから俺が真っ先に部屋から出た。

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