ピュアな下心の話
僕は鈴木さんの右手の部屋に住んでいる。
鈴木さんの足下の階に住んでいるのは胡麻ちゃん。
彼女とは話したことはない。
いや、これからも話せるかどうか……。
なにせ見る機会も少ないのだから。
夕方、鈴木さんは部活で汗を流していた。
テニス部だ。
1球1球一生懸命に打っていることが分かる。
僕の体にもそれが伝わり、汗がどっと流れ出る。
そんな中
「おっ、甘い球が来た」
そう思った矢先、彼女のスマッシュが炸裂した。
スマッシュは僕にも炸裂した。
それは血飛沫となって顔中に広がる。
彼女がスマッシュを決めた瞬間チラリと見えるスカートの中を見て。
彼女のケツを見て。
正確には、ケツについている黒胡麻を見て。
僕が惚れている胡麻ちゃんを見て。
ホクロの黒胡麻ちゃんを見て。
夜、鈴木さんは自宅で、右手のホクロの部分にばんそうこうを貼っていた。
不思議そうに呟く。
「どこかでケガしたっけなぁ? 痛くもないし、何で血が出てるんだろう?」
右手ホクロの僕は目の前が塞がったことで嘆いていた。
「あぁ、僕の飼い主の鈴木さん、何てことをしてくれるのです。これじゃぁ何も見えないじゃないか。こんなこと……。でも僕諦めるしかないのかな。同じ体に住んでる家族に恋してしまうなんて……」
毎日のお風呂の時間、オケツに住んでいる胡麻ちゃんと唯一触れることの出来る時間。
それがなくなってしまった僕は、その日ついに消えていった……。