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第一章 6

 夏休み前、最後の登校日。HRをさぼった美希は、学校の敷地内にある聖堂にいた。


 怖かったのだ。明らかに変わった教室の雰囲気が。


 今までなら、人を馬鹿にした視線に隠せる程だった嫉妬が、憎しみという形で全面に押し出されている。その理由は、美希が柏木と付き合うようになったからという明確なもの。

 夏目の忠告通りファミレスに寄らず柏木と帰った日、その週末にあった市内何校かが集まったバスケの練習試合を見に来て欲しいと誘われて、応援に行った。


 会場になっていたのは柏木達の高校で、美希の学校よりも体育館の設備も整い、人も多く活気に満ちている。公式戦ではないにしろ、緊張感のある試合は、観ているだけでも十分に楽しめた。


 柏木が出ていた午前中一番最後の試合が終わり、席を立った美希の元に柏木が駆け寄ると、柏木と同じ色のジャージを着た男達が柏木に向かって、羨ましいだの爆発しろだの叫びだし、広い範囲の視線を集めてしまう。

 その中には、同じ学校を応援するという名目で、柏木の応援をしに来ていた夏目達の姿もあった。この時はまだ付き合ってはいなかったものの、この日の帰りに柏木から告白をされて付き合う事になったので、夏目にとってはどっちにしろ行き着く感情は同じ。

 夏目と、彼女の友人達が他のクラスメイトに何を言ったのかは分からないが、まるで夏目のその気持ちが伝播したかのように、美希を囲う瞳は、悪意に満ちていた。


 「ここは、あなたの教えが異端とされた時に、迫害に耐えながらも受け入れた場所じゃないんですか」


 いつもは決して座らない最前列に腰を下ろして、答えの返ってはこない問いかけをする。


 「こんな田舎も学校も、大嫌いだって思う私と、私を嫌うあのコと、何が違うっていうの?どっちもアガペーなんて欠片もないじゃん」


 色味を抑えたステンドグラスの中心にある像。ただの像だと分かっていても、それを睨み上げて、どうにかなる訳ではないとも分かっていても、言わずにはいられなかった。


 「昔の人だけじゃない。結局誰も、アンタは救っちゃいないのよ」


 鼻で笑いながら、神に暴言を吐くなんて、教師がみたら卒倒するかもしれない。いっそ見つかって退学にしてくれればいいのにと思っても、美希が聖堂にいる間、美希以外の足音は一切なかった。


  解決の糸口はつかめないというよりも、どういう形を美希自身が望んでいるのかの答えも出せていないまま、夏休みが始まった。 今更同級生と仲良くなりたいとも、なれるとも到底思えないが、あの教室で残りの1年半を過ごせるのかと聞かれれば即答は難しい。


 ただ、去年の夏休みとは違い、遊びにバイトにと目まぐるしく動いてはいない、ゆったりとした休日を過ごしていても、以前のように東京との違いに苛立つ事はなかった。

 用事といえば、午前中に遥や藍と集まって勉強会という名目のおしゃべりをして、部活で午前中は大体忙しい柏木達を待って、午後は皆で遊ぶ。


 きちんと毎日の夕飯を家でかかさず食べられるような、健全で規則正しい毎日だった。


 8月の頭から10日ある講習には、せっかくの夏休みには会いたくなかった面々もいたものの、常に柏木が隣にいたため、あからさまな嫌がらせもなく済んでいた。

 講習5日目の金曜日、他のクラスの振替で参加している人数が多かった為に、いつもより教室にゆとりがない。


 そんな日に限って到着がギリギリになってしまった美希と柏木に与えられた選択肢は、夏目達がいる後ろの席しかなかった。あのダサい制服を脱いで私服になったからとはいえ、たいして変わり映えしない女も多いなか、夏目とプラス2人は綺麗に着飾っている。


 とはいえ、夏だからとネイルに気合を入れて、休み中だけだからと髪をさらに明るくしている美希と比べれば、やはりおとなしくマジメな女学生の域は抜けない。

 夏目達との近すぎる距離は落ち着かないものの、逆に距離が近すぎるのか、いつものひそひそ話もなく、睨まれもせず、心の平静は保ちやすい。


 休憩に入れば、わざわざ席まできてくれる藍達と、机の下で見えないように手を握ってくれる柏木と。包まれた安心の中、明日開かれるという夏祭りの話に興じていた為、美希は気付かなかった。


 交わされていた会話の一つ一つを、夏目が聞いていた事を。

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