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第一章 5

 緩く力のこもった柏木の手にひかれて、コンビニの扉から店の脇へと移動する。

 「本当は、話かける前から若槻さんがあの学校に通ってるの知ってた。ほら、家も近所だし駅で何回か見かけた事があって」


 躊躇いがちに話されたのは、心のどこかでずっと美希が気にしていた何故に触れるもの。


 「ちょうど同じ時期に、予備校で今日話しかけてきたコ達が、転校生がきたとか言ってて」


 本当に話していた言葉は、柏木のそれよりいくらかはきついものだったろうけど、自ら突っ込む気もなく相槌だけを返した。


 「んでしばらくしたら、若槻さんが同じコマにいるの見つけて。でも制服違うし、あのコ達も距離置いてるみたいだし、何かあるんだろうとは思ってて」


 「可哀想だったから話しかけた」


 段々と小さくなる語尾に、美希が続きを繋げれば、まだ離れていない柏木の手に力がこもる。


 「そうじゃない。こういうと自意識過剰な奴みたいで嫌だけど、俺、若槻さんの同級生に、ファンです、なんて言われたこともあって。だから、俺が近づいたら余計に、若槻さんへの当たりが強くなるだろうから、傍観しようって決めてたんだ」


 「じゃあ……なんで」


 「どうしても、話してみたかったんだ。あっ、もちろん俺だけじゃなくて他の皆もそう。それに、せめて予備校の時だけでも楽しく過ごせたらって、上から目線で自分を正当化してるだけだけど」


 苦笑混じりに寄せられた眉根が、柏木も、いや柏木達も美希に対する接し方を、真摯に悩んでいてくれていたのだと教えてくれていた。


 「ありがとうって、ちゃんと言ってなかったよね。柏木君だけフライングになっちゃったけど、私は、皆が話しかけてくれて嬉しかった。もう東京に戻るまで、友達なんてできない、いらないって思い込んでたから」


 恥ずかしさ半分にはにかんだ美希に、柏木の表情も緩む。


 「卵、買うんでしょ。暑いから涼みがてらゆっくりしていこう」


 腕にあった温もりがいつの間にか手首まで下がっていた。しかし、それにはあえて気付かない振りをして、柏木と並んで涼しい店内へと入っていった。

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