だイ いチ ワ
この物語ノ主人公、少年にハ名前ガありマせン。
読者ノあナた自身ガ、
少年に名前ヲつけテあげテクだサい。
物語ノ進行に影響しナいノデ、
名前をつけヅに読み進メても構いマセン。
夏の心地よい風が頬に当たり、少年は目を覚ます。
「 うっ・・・う~ん 」
今までボクは何をしていたんだろう?
少年は眠りから覚めたばかりのように体が重かった。
目を擦りながら、あたりを見わたす。
そこは少年の見覚えのある場所。
街を一望できる丘の上にある大きな木陰だった。
丘の上にある大きな木は特徴的で少年の記憶にしっかりと残っている。
少年の記憶がしだいに蘇る。
以前に父と母とピクニックに来たときのこと・・・。
楽しい一日、晴れていて穏やかな日。
木に父がブランコをかけたことを思い出す。
母のおいしい手料理・・・。
つい最近のことのような、ずいぶん昔のことのような・・・。
少年は、そんな不思議な感覚を味わう。
ふと少年は、あたりに父と母がいないことに気がつく。
いつも近くにいた父と母・・・。
その姿がどこにも見えない。
澄んだ空気を吸うと少年は大声で叫んだ。
「 お父さーん!! お母さーん!! 」
しかし、聞こえてくるのは小鳥のさえずりと風が木々を揺らす音だけだ。
少年は一瞬にして不安に呑み込まれた・・・。
ついに耐えられなくなった少年は、
その場から駆け出し、必死に父と母を呼び続ける。
太陽が照らし、カラリと乾いた小道を少年が駆け抜ける。
川のせせらぎが心地よいが、今の少年にとってはどうでもいいことだ・・・。
名前を呼べばすぐに来てくれた父と母。その姿がどこにも見えないのだ。
しだいに涙が溢れ出す。
「 お父さーん!! お母さーん、どこ!!! 」
少年は気づかぬうちに涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしていた。
嗚咽をしばらくの間繰り返す、再び少年は父と母を探すため、歩き出した。
丘からはすでに遠く離れ、街に出た。
もしかしたら、ボクを置いて家に帰っちゃったのかな?
何となく少年はそう思った。
そう思うことによって、少年は少しでも自分に暗示をかけたかったのだ。
父と母はいる、この街にしっかりと今も住んでいるのだと・・・。
少年はそうして、すっかり泣き止んでしまった。
自分ひとりで家に帰るのは初めての少年。
しかし、しっかりと家までの道は覚えていた・・・。
よく母と歩いて街に買い物に出かけていたため、道順は分かっていた。
家の外壁が見えてくる。
いつもの外壁はそこに存在していたのだ。
少年の顔がいっきに晴れ、思わずその場から駆け出した。
「 お父さん、お母さん!!
ボクを置いていくなんてひどいよ!! 」
そう言いながら、外壁から飛び出した。
しかし・・・
そこにいつもあるはずの家は・・・姿を消していた。
訳が分からず絶句する少年。
今まで家のあった場所は、さらちになっていたのだ・・・。
「 えっ・・・? 」
少年は何もない空き地と化してしまった自分の家の庭を歩き回った。
母がいつも世話をしていた、キレイな植物がすべてない。
父のお気に入りだったロッキングチェアーもない。
少年が大好きだった、砂場も何もかも姿を消していた・・・。
「 何で・・・? 」
はっとした少年はあたりを見わたす。
「 お父さん? お母さん?
どこ、どこに行ったの!!
お家はどこ? 」
再び少年の小さな瞳から涙が零れ落ちた。
そのまま少年はそこにうずくまり、泣き崩れてしまった。