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最弱の邪神は悪役令嬢に転生しても世界を支配したいようです  作者: 米西 ことる
第一章 冤罪なので脱獄したいようです
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エルフは炎の夢をみる

[十五年前 北方の地 ソルの森林]


白髪に青色の瞳をした白い肌のエルフの少女が森の中を駆けていた。

背丈は人間の子供程度で、人間の寿命換算でも幼い。


そんな彼女はいま、必死に逃げている。

今は友達と鬼ごっこをしているのだ。


しばらく走り、振り切ったと思った少女は木の下でホッと一息をついた。

「危なかった......」


その時、木の上から突然何かが現れた。

それは彼女の友達であるエルフの少年で、木の上から現れて驚かせようと待ち構えていたのだ。


少年はそんな少女をタッチすると逃げろーと言って走り去っていった。


「もおっ!」

少女は頬を膨らませて怒った表情を見せた。


すると別の方向から背丈の近いエルフの少女が現れた。鬼ごっこをしている友達の一人である。青い目のエルフの少女はしめたとばかりに笑うとその少女を追いかけ始めた。





 しばらくして遊び疲れたエルフの子供達は里に帰った。彼らの家は木の上に作られたツリーハウスで、彼らは隠れ里と呼ばれる森の中の里で暮らしていた。


食事は菜食が中心で、稀に魔獣などが現れた時は里の狩人達が仕留め、その肉を食べることがあるくらいだ。


彼らは、かつてその地を支配していた邪神達から救ってくれた勇者一行と善神達への感謝を忘れず、その信仰を続けていた。


長寿であるエルフ族には実際に勇者一行と会ったものや、邪神達の支配時代について知る者も多く、彼らはこの平和な日常を何よりも大事にしていた。


そして少女自身も、この平和がいつまでも続くと思っていた。



しかし、その平和は徐々に崩れ始めていた。

始めの異変は森の木の実の収穫量が減り始めていたことだ。

少女の住んでいた地は善神の一人である豊穣の女神ガイラによって守護され、生態系は常に守られていた。


森の異変は、善神の加護を越える何かが起こっているということを表していた。


しかし、原因はわからず、日に日に森の力は衰え、弱っていった。やがて里の者達は食べ物に困るようになり、遂には里の外へ出ることを決意した。



長い間里の外へ出ていなかったエルフ達は慎重に移動していき、やがて離れた地に新たな里となる場所を発見した。


彼らは歓喜し、そこを新たな故郷にするべく探索を始めた。そして、そこはどうやら人間の国の近くであることがわかった。


人間達とは長らく交流が無かった彼らは始めは警戒していたが、ある時、国の使者と名乗る者が森にやって来て、エルフ族が森に住むことを了承した旨を伝えた。



そして、幾らかの年月が過ぎ、少女の背丈が人間の少女と同じくらいになった頃、突然、森に火がついた。


エルフ達は家族全員を連れて、代々伝わる秘宝のオーブを抱えて里を逃げ出した。火の侵攻方向を避けながら進んでいくと、やがて人間の国家がある方から森を抜けた。


そんな彼らが見たのはその土地の領主の紋章をつけた、武装した人間の兵士だった。

およそ三百人はいる兵士に対し、エルフは五十人。


人間達はエルフ族を見るや否や、叫んだ。

「皆殺しにしろ」


その言葉と共に、大勢の兵士たちがエルフ族を襲った。


「待て、話し合おう」

と言いかけたエルフが一番初めに殺された。


エルフ達は逃走を試みようとしたが、背後に迫る炎で逃げ場が無かった。

人間は逃げるエルフを槍で串刺しにし、剣で裂き、魔法で体を貫いた。


反撃したエルフの魔法は人間の持つ奇妙な魔導具の前によって防がれ、痛めつけられながら殺されていく。



長い間、戦をしてこなかったエルフは戦いを続けて来た人間には勝てず、大勢のエルフ(家族)があっという間に殺されて草原は血の赤で染まった。


人間は獣のような方向で武器を振るい、狂気じみた笑いを浮かべている。


青い瞳のエルフの少女はその光景を目の前にして、恐怖で足がすくんで動けなくなった。

その時、彼女の母親が少女に言った。


「森の方へ逃げて。貴方なら炎にも耐性がある。さあ、早く!」


その直後、彼女の母は一人の兵士に刺され、血飛沫が彼女の顔にかかった。少女は体が震えて口を開けて何か言葉を発しようとしたが、声は出なかった。


しかし、容赦のない兵士は動きを止めず、少女に無慈悲な剣を振り下ろした。


その時、少女を守るために彼女の父がその間に割って入り、剣撃を背中に浴びて地に倒れ伏した。


「逃げ、ろ......」

その言葉を最後に彼女の父も生き絶えた。


しかし、少女は腰が抜けて逃げることが出来ず、その場で膝をついて両親の亡骸を見つめた。


死んでいることを確認するためか、兵士は倒れた父の心臓を一突きした。



その時にはすでに、その少女しか残っていなかった。


「......ねえ、どうして、私たちを殺すの? 私たちは、何もしてない。平和に、暮らしていた、だけなのに......」

少女は震える声を発し、涙を流してうずくまった。


少女の両親を殺した兵士は言った。

「領主様が、お前らの持ってる秘宝が欲しいんだとよ。だから、ついでにエルフも狩り尽くすことにしたんだよ。だって危険だろ? 長寿で魔法に長けた、人よりも優れた種族なんてさ」


兵士は再び凶刃を振り下ろした。



振り下ろされる刃が少女の首を斬る刹那、少女は走馬灯のようなものを見た。


体感時間が延長され、時間が止まったような感覚に陥ったのだ。


少女の頭の中には幸せだった里の家族との日々が巡っていた。緑色の木々に囲まれて里の家族達と過ごした、ただそれだけの日々......


突如としてその光景は炎の海へと変わった。しかし、荒々しい赤い炎ではない。それは静かに燃える青い炎だった。


背後を振り返ると、そこには里の家族達が立っていた。彼らは次第に炎に呑まれ、白い灰と化していく。


彼女は燃えゆく家族たちに手を伸ばすが、そこには灰しか残っていなかった。




 気がつけば、そこは全てが焼き尽くされた灰色の世界。天に浮かぶのは"黒い太陽と月"、少女は声を聞いた。どこか神々しさを感じる頭に響くような声だ。



「憎くはないか?」


少女は答えた。


「憎い」


「ならば、全てを焼き尽くし、灰にせ。その果て、滅びこそが救済である」




止まった時間が動き出す。少女に振り下ろされた凶刃は制止することなく間近まで迫っていた。


その時、少女の瞳から溢れていた涙が蒸発し、彼女の周囲が極高温(きょくこうおん)の蒼い炎に包まれた。


刹那、蒼い炎は悲鳴をあげる間もなく兵士の肉体を鎧ごと灰燼(かいじん)と化した。


兵士達はその光景に唖然とし、蒼炎に包まれた少女の姿を見た。


哀しげな顔をしたエルフの少女の青い瞳を塗りつぶすように、黒い陽炎が瞳の中で揺れていた。


憎い、憎い、何もかも燃やしたい。

抗えない昏く渦巻く衝動に突き動かされ、少女は蒼い炎で人間達を焼き尽くした。


少女の炎は溢れ続け、人間も、エルフの骸も、草木も、何もかもが燃えていった。

燃やして、燃やして、燃やして、気がつけば、夜が明けていた。





早朝、領主邸に一報が入った。エルフの討伐隊は誰一人帰らず、エルフ族の少女に焼き尽くされたという連絡だった。


領主は、そんな訳が無いとその報告を嘘だと言うが、それは真実であった。


「貴方が、領主さん?」



領主が声のした方を振り向くと、そこには青色の瞳をしたエルフの少女がいた。


「どうやって、ここは城壁の中のはず.....!」



「全て、燃やした。貴方で、最後」



後に、この事件はこう記録された。


エルフ族の族長の娘、アリシア・グーラデルファは森付近で魔物の討伐を行っていた兵士達を大量虐殺し、領主を殺害した罪で処刑が決定した。


エルフ族狩りのことは伏せられ、少女は善良な兵士達を一方的に殺した大罪人とされた。


しかし、なぜかその処刑は見送られ続けている──


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