邪神、薬草採取をする
数時間後、ラテは目を覚ました。
気づけば時刻は日暮れ前。夜は魔物が活性化するため、C級冒険者以上で無ければ街の外には出ることが出来ない。
「しまった......!」
ラテはそれをすっかり失念していてハッとした。
薬草採取の期限は三日までなので大丈夫だが、今日のところは諦めるほかない。
「起きたんですね、ラテ様」
隣のベッドの上には、本を読んでいるアリシアの姿があった。人類の言語について学ぶため、宿屋に置いてあった幼児向けの本を借りて読んでいたようだ。
「その本は、一体どうしたんだ?」
「私はまだ人類圏の文字の読み書きに慣れていないので、宿屋の人に頼んで本を借りたんです。どうやら勇者一行の物語みたいで、アズに色々聞きながら読んでいました」
「おう。俺の話もあった。お前と違って俺は脅威的で恐ろしい邪神って描かれてたぜ、闇喰らい」
「ふん、最高神を除けば我が邪神最強だ!」
「見苦しいぞ、勇者に最初にやられた弱邪神!」
「なんだと......!」
ラテはアズの音声をミュートした。
夕飯時になり、下に降りると、宿屋の女主人が挨拶に来た。
「おや、あんたらがうちの看板娘を助けてくれたって冒険者ね!」
先ほど助けた宿屋の少女が女主人の後ろからひょっこり現れた。
「先ほどはありがとうございました!」
「あの程度、我にとっては造作もないことだ」
「お礼に、宿に滞在中はあんたらの飯代はタダにしとくよ」
「おお、そうか! 感謝する!」
ラテは夕飯を食べ終わり、ひとまず薬草採取の作戦会議を始めた。
出発は明日の早朝、アリシアが他の冒険者に訊ねたところ、近くの森に薬草の群生地帯があるとのことなので、ひとまずはそこに向かうことになる。
ただ、近くで狼の魔物が徘徊しているという話なので、多少の注意は必要だ。
そして、次の日の早朝。
二人は支度を整えて街の外にある森へ向かった。冒険者ギルドの発行したギルド証を使えば街の出入りは楽だった。
早速、冒険者の聞き込み情報にあった薬草の群生地帯に向かった。
小さな川を超え、茂みをかぎ分けて進んでいくと、案外簡単に薬草のある場所まで辿り着くことが出来た。
薬草の群生地帯には、青い花弁のついた薬草の花が咲き誇り、風に揺れて舞う青い花びらは非常に美しい景色を描いていた。
「きれいですね......私の元いた森にもこんな花畑がありました」
アリシアは懐かしむような表情をしていた。
「そうか.......いつか、お前のかつての故郷にも行ってみたいな」
「......多分、もう枯れてしまっていると思いますよ。生まれ故郷の森は、瘴気の侵食を受けていたみたいなので」
瘴気とは、この世界に古くから存在する未解明の現象のことだ。瘴気はある日突然発生し、生命を枯れさせ、魔物を生み出す。
一説によれば、邪神の誕生は瘴気が原因だとか......
「ならば、その瘴気、我が食ってやろうか」
「え、食べられるんですか!?」
「昔、一度だけ食ったことがある。かなり苦いがな......まあ、滅多に食わないものではあったな。我のかつての支配領域では瘴気が発生したことが無いのだ」
ラテのかつての支配領域は今いる大陸北西側から大陸を横断した北東側にあり、今は帝国と呼ばれる人類国家が統治している。
「さて、薬草採取も終わったし帰るとするか」
二人は街へ帰ることにした。
その時「きゃー!」と甲高い叫び声が聞こえた。
アリシアは「何かあったのかも!」と言って駆け出した。
ラテもアリシアの後を追って走り出した。
身体能力的にはラテの方が上のため、すぐさま追いつき、アリシアを抱えて一気に走り出した。
「行くぞ。しっかり掴まれ」
「はい......!」
ラテは一気に自身に強化魔法をかけて速度を上げて疾風の如き速さで森を疾走した。
森の木々が少なくなり、開けた場所に出ると、そこには薬草を持った一人の少女が狼の魔物の群れに襲われている姿があった。
ラテとアリシアはすぐに戦闘態勢に切り替わり、少女と狼の魔物の間に割って入った。
少女は驚いて「わっ!」と声を上げた。
アリシアが少女に声をかけた。
「助けに来たよ。すぐに終わるから、じっとしていて」
「わかりました!」
少女は身を小さくして震えている。
「さて、やるか」
ラテは闇で剣を作り出し、襲いかかってきた狼の魔物の頭を一刀両断した。
アリシアは指先に小さな魔法陣をつくり、小さな蒼炎の光線を放った。
その光線は容易く狼の魔物の頭部を貫き、突然仲間がやられた狼の魔物は逃げ出そうとした。
その時、一体の巨大な狼の魔物が現れた。
灰色の毛並みをしていて、背中だけが黒く、片目に剣で付けられたような跡があった。
巨大な隻眼の狼。
冒険者の間でも噂になっていた。
B級モンスター
隻眼の巨狼が現れた。
怯えていた配下の狼たちはボスの登場により落ち着きを取り戻し、再びラテ達に牙を剥いた。
「なるほど、お前が群れ長か。狼の群れは頭を叩けば統率を失う。我の前に現れたこと、後悔するがいい」




