邪神、ベットで寝る
ラテとアリシアは薬草採取に行く前に、宿を取ることにした。
近くに宿屋が少なく、冒険者ギルドに一番近い宿屋に入った時、従業員らしき少女が男に胸ぐらを掴まれていた。どうやら少女が手からコップをを滑らせて、男に水をかけてしまったようだ。
少女は怯えた様子で男に謝罪しているが、激昂した男は謝罪など耳に入らず、拳を固めて振りかぶった。
そこで、アリシアが止めに入った。
「ダメですよ! そんなことしたら!」
男は怒鳴りつけるように大声を出した。
「うるせえ! 俺は今むしゃくしゃしてんだ。邪魔すんならお前からだ!」
男は狙いを変えてアリシアに対して拳を振るおうとした。
しかし、突然体の動きが止まった。体が強張ってゆうことを聞かないのだ。
「我が従者に手を出せば、貴様の命は無いぞ」
ラテは低く圧のある声で男を静かに睨んだ。
「あ、ああ.......」
男は少女の胸ぐらを離した。
ラテは男に近づき、顎に指を当てて何かを見ていた。
「なるほど、貴様の相棒だった冒険者が狼の魔物によって殺されて気が立っていたのか。まあ、少しは冷静になれ」
ラテが男の肩をポンと叩くと、男は先ほどまで感じていた憤りが鎮まり、冷静になった。
「嬢ちゃんたち、悪かった」
「いえ、元はと言えば、私が水をかけてしまったのが原因ですから」
少女は笑って許した。
アリシアも許した。
「怪我はしてないからいいよ」
男はぺこぺこしながらその場を去った。
「貴方冒険者さんですよね! 今のどおやったんですか?」
宿屋の少女はラテに食い気味に訊ねた。
「なに、我は人の心を読むのが得意なだけだ」
少女はさらに目を輝かせた。
「すごいすごい!」
アリシアが念話で訊ねた。
『それで、本当はどうやったんですか?』
『力が戻ったお陰で心の闇をイメージとして視認出来るようになったのだ。今の我の力なら、闇の原因がわかれば、心の闇も喰らえる』
『流石です、ラテ様!』
ラテは少し誇らしげな顔をした。
「そうだ、この宿屋に泊めてくれないか?」
「もちろんです!」
ラテとアリシアはベットの二つある大きめの部屋に宿泊することになった。
朝・夕食付きで、快適だ。
ラテは人間になって初めてベッドを見て、感動を覚えた。
部屋について早々にベッドにダイブして寝転がった。フカフカのベッドは地下牢の硬い床より遥かに柔らかく、暖かい。
「ベッドとは、こんなに素晴らしいものなのだな」
人間になって睡眠が必要になった邪神は眠気を鬱陶しく思っていたが、この吸い込まれそうなふかふかのベッドに寝転がると、そんなことがどうでも良くなった。
「アリシア、少し眠る......」
薬草採取があると言うのに、ベッドのふかふかの誘惑に負け、邪神は眠りに落ちた。
その寝顔は普段の少し恐ろしさのある雰囲気を感じさせず、まるで普通の人間の少女のようだった。
アリシアはラテの寝顔をじっと見つめ、微笑んだ──




