邪神、邪神と話す
邪神二柱の決戦が完全に終わり、しばらく経った頃、邪神とアリシアは再び地下牢獄の最深部へやってきた。もっとも、現在は大穴が開いて地下とは呼べないが......
「ぬう......」
邪神はかなり疲労しており、やつれている印象だった。
「大丈夫ですか......? 無理しなくても......」
「いや、これだけは確認せねば......」
灰炎の神との戦いで取り戻した前世の力は、大技を繰り出したことによってほとんど消耗してしまい、今残っているのは灰炎が地上で暴れる前と同じくらいの力だ。
疲弊し切った邪神だが、灰炎の封印の状況を確認するためにここまでやって来た。
邪神が地下を見渡していると、灰に埋もれた大きな結晶が見えた。二人はそれに近づき、確認してみると、それは灰炎の神イアズァールの封印結界であった。
「やはりか......」
「あれ、封印結界は破壊されてないんですか?」
「封印結界はその対象に対しては無類の高度を誇るからな、奴ですら破壊が困難だったのだろう。だから、アリシアという器を使って結界から裏口脱獄したのだ」
その時、二人の頭の中で怒りで震える声がした。
「闇喰らい! よくも俺の脱獄を邪魔してくれたな!」
その声はイアズァールだった。
小さな火の玉の姿となったイアズァールは、訝しげに邪神達を睨んでいる。
そもそも、勇者の持っていた聖剣以外に神を殺す術は無い。邪神同士で殺し合ったとしても、殺し切ることは不可能。
そして、イアズァールは黒い太陽と月の一対で一柱の神であり、どちらか片方が消滅しても、残りの片方が復活させる。
挙げ句の果てに、黒い月は常に裏世界にいるため攻撃すらできない。ゆえにイアズァールを討伐することができなかった勇者一行は、灰炎を封印したのだろう。
アリシアから分離され、大部分の力を失った黒い太陽は、今にも消えそうな弱々しい炎のようだった。
「やっと封印から抜け出したら、すぐにボコボコにされた気持ちはどうだ、イアズァールよ!」
闇喰らいはイアズァールを嘲笑した。
「くそ、ここで消えたら、封印結界内にリスポーンしちまう.......」
「............そうだな、貴様、我と取引しないか?」
「あぁ?」
闇喰らいは提案した。
「貴様をある程度は自由な身にしてやる。その代わり、封印中に起こったことを教えろ。アリシアは、それでも良いか? こいつにはかなり苦しめられたようだが」
アリシアはしばらくの間考えて、覚悟を決めた様子で口を開いた。
「............確かに、イアズァールさんにはたくさん迷惑をかけられました。でも、この方がいなかったら、私はすでに死んでいます.......だから、取引して良いですよ」
イアズァールは少し沈黙していた。
「......お前の提案に乗るのは癪だが、まあ、いい。取引に応じる。まあ、俺も精神体を外にほんの少しだけ飛ばすくらいしか出来てないから詳しいことはわからないがな」
イアズァールは封印中に起きた出来事を語り始めた。
闇喰らいの邪神討伐後、勇者一行は快進撃を見せ、遂には最北の地に住む邪神の最高神を討ち滅ぼし、長きに渡る邪神と善神の戦争は終結を迎えた。
その後、人間であった戦士、大賢者、聖女の三人は死去、勇者一行に同行していた黒滅龍ヴィジェーラは現在も生存している。
そして、勇者は邪神討伐後すぐに人類の歴史から姿を消し、現在も消息不明だ。
そもそもが前代未聞の半人半神の存在であるため、詳しい寿命がわからない。ゆえに現在も生きているのか死んでいるのかはわからないが、生存していれば、世界を支配するための最大の障壁であるだろう。
また、五十年ほど前から邪神に変わり、魔王と呼ばれる存在が台頭するようになっており、魔族やかつての邪神の眷属達を仲間に引き入れ、人類国家と戦争中だ。
「魔王か、我らに取って代わってそんな存在が台頭し始めるとはな」
「ああ、俺としても魔王なんて邪神のパチモンは灰にしないといけねえと思っている」
闇喰らいは高笑いした。
「ふふ、まあいい。世界の支配者は我のみで十分なのだからな!」
イアズァールとの取引を守るため、闇喰らいは一つの提案をした。
それは、イアズァールをもう一度結界内に閉じ込めるというものだった。
当然、イアズァールはそれに激昂するが、邪神は詳しく説明した。
封印結界内では身体的な時間が止まるため、消えかけているイアズァールの炎の体を繋ぎ止めることが出来る。
そして、結界の条件をイアズァールの神性を封じることにだけ特化させる代わりに、精神体を自由に外に出すことが出来る。
精神体は近場の炎に乗り移って体として操ることが出来るため、ある程度は自由に動ける。ただし、アリシアが許可した場合のみだ。
イアズァールは決戦に敗北したため、三百年は封印の外に出ようとしないという条件を嫌々ながら呑んだ。
結界を改良すること数時間後──
「出来た!」
邪神は試行錯誤の末に結界をアクセサリーサイズまで小さくして、耳飾りのようにして身につけた。
イアズァールが抵抗しなければ結界をかなり小さくできるようだ。
イアズァールを太陽と月で分け、太陽の方を邪神が所持し、月の方をアリシアが持つ。
また、この耳飾り(封印結界)によって耳飾りを持った者同士で念話が可能になり、ついでにイアズァールとも話せるようになる(イアズァールの声はミュート出来る)。
こうして、灰炎の邪神イアズァールを旅のお供に加えた一行は地上へ戻った──




