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最弱の邪神は悪役令嬢に転生しても世界を支配したいようです  作者: 米西 ことる
第一章 冤罪なので脱獄したいようです
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闇喰らい


炎は全てを焼き尽くす。

森も、人も、心も、自分自身さえも──



アリシアは灰色の炎の中で、今までの日々に思いを巡らせていた。



◇◇◆◆◆◇◇



 あの日、全てを焼き尽くして私は復讐を遂げた。だと言うのに、心は一向に晴れなかった。


焼き尽くせば、救われるなんて、結局は願望に過ぎなかったのだ。

死んだ家族達は戻って来ないし、復讐を遂げても快感なんて感じない。ただ、辛いだけ。


世界は色あせて灰色になり、味も、匂いも、次第に無くなっていった。処刑を決行されても、いつも、墨染の炎が邪魔をして死ねない。

このまま暗い牢獄で一人、ずっと......



「もう、うんざりだ」




そんな時、彼女が現れた。

灰色の世界でも目立つ、闇をも呑み込む黒色をした彼女が。


彼女が世界を支配したいと言った時、初めはアホの子だと思った。けれど、なぜだか楽しそうだと思った。


自分のことを邪神だと言っていたけれど、私には邪神でも何でも良かった。ただ......




◇◇◆◆◆◇◇



「アリシア!」


エルフの少女は自身の名を聞いて目を覚ました。灰色の炎の奥で、一人の邪神がこちらに呼びかけている。


炎に耐性のあるアリシアですら、体が焼かれていくこの灰色の炎は、少女を焼き尽くすまで消えることはない。


次第に感覚が鈍くなっていき、邪神の声すら聞こえなくなっていく。意識が再び落ちかけた時、誰かがアリシアの手を握った。


アリシアが顔を上げると、そこには炎に焼かれ続ける邪神がいた。


アリシアは叫んだ。

「離れて! 貴方まで、焼かれてしまう!」


邪神の肌が焼けていき、体の各所に火傷が出来ている。


「どうして......貴方も、死んでしまう......もう、誰も大切な人に死んで欲しく無いの! 私の炎で殺したく無いの! 早く離れて! 大罪人の私は、ここで死ぬことが償いなの!」


アリシアは叫んだ。あの日、全てを焼き尽くした炎のように全てを失わせるこの炎から、邪神を遠ざけるため。


しかし、邪神はその手を握るのをやめない。

「お前は、もう我の従者だ。お前の恐れも、後悔も、罪も、その闇は全て我のものだ。決して我はこの手を離さない。我は邪神、やりたいようにやる!」


アリシアは震える声をしていた。

「でも、体が、焼けて......」


その声を掻き消すように、邪神は声を出した。


「アリシア、我を信じろ」


その声に、アリシアはどこが胸が熱くなるような感覚を覚えた。




邪神はアリシアの胸に手を当て、そこから少女の持つ闇を引き抜こうとした。


闇は生物そのものと直結しているため、闇を切り離すことで残り火もろとも引き剥がすことが出来ると邪神は考えた。


しかし、巨大な闇を引き抜くことは消耗した邪神にとって困難なことだった。


ゆえに、邪神は......


「アリシア、貴様の闇、(われ)が喰らうぞ!」


「............はい!」


邪神は、闇を強引に喰いちぎることにした。

アリシアの腰に手を回し、顔を近づけ、そして彼女の口に接吻(せっぷん)した。


闇を抽出するにはこれが最も楽なのだ。


アリシアは赤面し、モゴモゴと声を発しようとするが、次第に抵抗をやめ、顔を直視できないため目を瞑った。



刹那、邪神の頭の中にアリシアの悲惨な記憶が流れ込んだ。それと同時に、灰色の炎を纏った巨大な闇が邪神に高波のように襲い、邪神は炎に包まれた。


邪神は焼かれる痛みを堪えながらも笑った。


アリシアの闇を薪に燃え上がるその炎は、まるで蠢く怪物の如くうねり、邪神もろとも周囲全てを灰へと帰していく。


憎悪、後悔、恐怖、絶望、罪、巨大な闇は邪神の肉体を蝕み、体が内側からひび割れ、炎が吹き出す。


アリシアは炎に包まれる邪神を抱擁した。

彼女の体もまた焼けていく。


アリシアは覚悟のある瞳で邪神に青い瞳を向けた。

「あなたを、信じます」



「......そうだ。それでいい」


邪神はさらに笑い、手を空に掲げた。

「我は、闇喰らいの邪神、グリード・ラテップ! あらゆる闇の支配者だ!」


そう宣言すると共に、巨大な闇が邪神の中へと取り込まれていき、そして、その全てを喰らった。


灰色の炎が消え去り、力が抜けて倒れかけたアリシアを邪神は抱き抱えた。

「大丈夫か、アリシア?」


「はい、大丈夫です......」


邪神の顔を見たアリシアは、彼女の瞳が赤色であることに気づいた。


「綺麗な、赤い瞳をしていたんですね」



灰の雨は止み、空は少女の瞳のように青く輝いていた。



少女の瞳から涙が一筋、頬を伝う。


「なぜ、お前は泣いている?」

邪神にはまだこの感情が理解できなかった。


「違います。ただ、嬉しいんです......涙が出るほどに......」


アリシアはひまわりが咲いたような可愛らしい笑顔を見せた──



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