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第七話「独占欲、爆発。」

「……陛下。……廊下に不審な影が。……下級悪魔たちが、陛下のお気に入りを覗き見しようと、群がっております。」


ノクスが、監視モニター(魔導水晶)を指さしながら報告してきた。 地下の「VIPルーム(魔王の監獄)」の周囲には、噂を聞きつけた魔物たちが集まっていた。彼らは純粋に「あの魔王様が勇者たちをどう料理するのか」という下世話な好奇心で集まっていたのだ。


「覗き見? やめさせろ! クラリスたちは今、ひどい寝不足と疲れでボロボロなんだぞ。静かに寝かせてやってくれ!」


俺は慌てて立ち上がった。 ただでさえ心身ともに限界の仲間たちを、これ以上気味の悪い魔物たちの目に晒したくない。それは純粋な、元リーダーとしての「静養させてやりたい」という配慮だった。


「エルゼ! 今すぐ地下への立ち入りを禁止してくれ。俺の許可なく、あいつらに指一本触れるな。……いや、視界に入れるのも禁止だ! 誰にも邪魔させたくないんだ」


俺の声は、隣にいたエルゼの耳には「過保護すぎる飼い主の独占欲」として届く。


「……承知いたしました。陛下以外の者が彼らに触れること、見ることも許さぬ『完全なる隔離』……。まさに深淵なる執着ですね。すぐさま全軍に布告します」


「いや、プライバシーを守りたいだけなんだけど……」


俺の修正案は、外に向けて放たれた瞬間に、魔界全土を凍りつかせる『拒絶の咆哮』へと変換された。


『……我が獲物を汚す不届き者は、一匹残らず塵に帰してやる。あの三人は我だけのものだ。……覗こうとする者の眼球を抉り、触れようとする者の指を噛み砕け……!!』


「ヒッ、陛下が本気だ……!」

「勇者たちを自分だけの愛玩物にするために、魔界全土を敵に回すおつもりか!?」


城内の魔物たちは恐怖に震え、蜘蛛の子を散らすように逃げていった。 これで静かになる――そう安心したのも束の間、俺はさらに「良かれと思って」追い打ちをかけてしまった。


「あ、そうだ。ノクス。地下室の扉、もっと頑丈なやつに替えてくれ。あと、外から中が見えないように魔法障壁も二重に。あいつらが外の喧騒を忘れて、安心して引きこもれるようにしてやりたいんだ」


「……了解。……外界との接触を完全に遮断するために、私が開発した『絶望の繭』を構築します。……陛下の閉じ込めるセンスは天才的ですね」


「だから閉じ込めるんじゃなくて、安眠環境を整えてるだけだってば!」


数時間後。 俺は差し入れの温かいココアを持って、地下室へ向かった。 しかし、そこには俺が想像していた「安息の地」はなく、物理的にも精神的にも外界から完全に切り離された、漆黒の要塞のような「個室」が完成していた。


「クラリス、入るよ……。少しは落ち着いた……?」


俺が扉を開けると、そこには重厚な魔法障壁の中で、震えながら身を寄せ合う三人の姿があった。 クラリスは虚ろな目で、俺が差し出したココアを見て、絶望に満ちた声を絞り出した。


「……こ、来ないで! 私たちを誰にも見せず、自分だけでゆっくり壊していくつもりなんでしょ!? そんな……そんなの、殺されるより残酷だわ……!」


その絶叫に、俺の胸がズキリと痛む。 違うんだ、俺はただ君を守りたかっただけなんだ。 謝りたい。本当のことを伝えたい。


「クラリス……信じてくれ。俺は君の味方だ。君が望むなら、ここから逃がしてあげたいくらいなんだ……。でも今は、外は危ないからここにいてほしいんだ」


だが、俺の切実な願いは、またしてもバグによって「支配者の傲慢」へと昇華される。


『……逃げられると思うな。貴様らの視界に映るのは我が姿のみ。貴様らの耳に届くのは我が声のみだ。……さあ、これを飲み干し、永遠に我が檻の中で生き永らえよ……!!』


「…………っ!!」


クラリスは恐怖で硬直したまま、差し出されたココアを受け取った。 その震える手を見て、俺は自分の無力さに涙が出そうになった。 俺が彼らを思えば思うほど、彼らの世界は狭く、暗く、逃げ場のない檻に変わっていく。


「……陛下、お見事です。彼女の心は完全に折れ、外の世界を諦めました。……陛下だけを見つめる、最高の『私物』の完成、ですね」


背後からノクスが満足そうに囁く。


実家に帰りたいとも思ったが、今のこの状況の中、俺が帰還したらエルゼたちもついてきたりしないよな…?

さすがに魔王軍全軍が現代日本に来たりしたらまずいほどのことじゃ済まされない。


玉座に座る俺の肌は、今朝もノクスの特製スープ(魔導美肌成分配合)のおかげで、恐ろしいほどツヤツヤに輝いていた。 だが、その内面はボロボロだ。


「……まずは、今の俺がこの世界で『何をしたことになっているか』を整理しよう」


俺は震える手で、これまでの「魔王としての歩み」を脳内でリストアップした。 客観的に見れば見るほど、元の世界に帰って「勇者ユウヤです!」と名乗るのが不可能な実績が積み上がっている。


【魔王ユウヤ・これまでの主要実績】

勇者一行の「永久完全隔離」: 慈悲を乞う仲間に「死すら許さない執着」を見せつけ、地下の要塞へ閉じ込めた。


精神汚染による「私物化」: 高級スープやココアをとして飲ませ、仲間たちの心を(恐怖で)へし折った。


「……終わってる。帰れるわけがない」


もし今、日本の警察や自衛隊の前に俺が現れたらどうなる? 俺が「ただいま!」と言った瞬間に、翻訳バグが作動して『……この星の全生命を、我が軍の歯車として再構築してやる……』と日本中に放送される。 そして俺の背後から、エルゼたちが「陛下のために日本をホワイト化(焦土化)します。」と叫んで突撃するだろう。


「俺が日本に帰ることは、現代社会への『魔王軍の輸出』だ……。そんなこと、元日本人として絶対に許されない」


俺は、ツヤツヤの顔を両手で覆った。 今やるべきは、帰還の方法を探すことじゃない。 この、放っておけば勝手に世界を滅ぼしそうな「魔王軍」という巨大な化け物を、せめて日本に持って帰っても恥ずかしくない、本当の意味での「優良企業」に作り替えることだ。


「……よし。やるぞ。まずは、このブラックすぎる軍団の実態を暴いてやる」


俺は覚悟を決め、目の前に積み上げられた、各部門の長――バルガス、エルゼ、リィナ、ノクスからの「誇らしげな」報告書を手に取った。 それが、世界をさらなる混乱に陥れる「経営改革」の幕開けになるとも知らずに。

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