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第十一話「魔王軍の平和的再編」

「……今日から、この軍の主目的を変更する。解散はしない。だが、やり方を変えてもらう」


俺は、玉座の間で高らかに宣言した。 目の前には、三年ほど前から「人類殲滅」を掲げて狂奔していた魔王軍の軍団長たちが並んでいる。

特に軍事統括のバルガスは、自慢の巨大斧を磨きながら「次はどこの国を消しますか?」と言いたげな、殺気全開の顔をしていた。

俺は、ツヤツヤの顔に、精一杯の「善人スマイル」を浮かべた。 手元には、昨晩寝ずに書き上げた**『魔王軍・防犯ボランティア公社化構想』**の資料がある。


「バルガス。軍は解体しない。だが、今日から名前を変える。『魔王城・広域治安維持公社』だ」


俺の言葉は、バルガスの耳には「死よりも残酷な完全支配」の合図として響いた。


「ガハハ! なるほど。抵抗者に『死』という解放すら与えず、秩序の檻に閉じ込めるわけですな!」

「違うんだ、バルガス。ただ、血生臭いのが嫌なだけなんだよ……。ほら、これを見てくれ」


俺は、蛍光イエローの反射ベストと緑色の腕章を取り出した。


「これを鎧の上から巻いて村を歩け。近所のおじさん感覚でパトロールするんだ」

バルガスは、その腕章を神聖な儀式のごとく押し戴いた。


「……陛下。……あの腕章。……『防犯』という名の、選別。……一度目をつけられた者は、一生、陛下の監視網から逃げられないという宣告。……リィナ、了解。……監視魔法陣を全村に配備。……顔認証システム、起動。……二十四時間、瞬き一つ許さない」


リィナがいつの間にか俺の足元で、異世界版「全方位監視ネットワーク」の術式を床に刻み始めていた。


「待て、リィナ。監視じゃなくて『見守り』だ。あとバルガス、その先端がU字になった巨大な武器は何だ」

「これこそ陛下の仰った新兵器! 挟み込んだ瞬間に相手を恐怖で笑顔にする、特製の『さすまた』にございます!」

「……もう、それでいいよ。とりあえず、侵略は禁止だ。いいな?」


俺は深く溜息をついた。 俺が「軍の維持」と「平和」を同時に追求した結果、魔王軍の武装はより陰湿で回避不可能な方向へと進化してしまった。




その日の午後。俺はクラリスを連れて、新しく組織された「パトロール隊」の訓練を視察に行った。 演習場では、身長三メートルを超えるオークたちが、不慣れな手つきで「交通整理」の練習をしていた。軍としての規律は残っているため、動きだけは無駄にキレがいい。


「止まってください!」


オークが巨大な手を挙げた瞬間、風圧で訓練用の案山子が吹き飛んだ。


「……閣下。あれ、どう見ても通行人を脅迫しているようにしか見えませんわ。むしろ、あいつら自体が最大の治安不安要素です」 秘書官のクラリスが、頭を押さえながら言った。


「そうだよな……。やっぱり、外見から変えないとダメか。バルガス! 隊員全員に『笑顔の練習』をさせろ! あと、威圧感を消すために語尾に『~だモン』とか可愛い言葉をつけさせろ! 命令だ!」

「……承知いたしました! 恐怖を可愛い皮で包み込み、油断したところを搦め捕る……。陛下、まさに外道ですな!」


数日後、周辺の村々には「笑顔で語尾が可愛い、だが逆らうと物理的に地面に埋められる巨大な重武装集団」という、人類史上最も不気味な治安維持部隊が出没することになった。

村人たちは恐怖のあまり、ゴミ一つ捨てなくなり、犯罪率は0.001%まで低下した。 俺の望んだ平和は、こうして「軍事力を背景にした完璧な恐怖による秩序」として完成してしまったのである。


承知いたしました。第十一話の後半部分に、具体的な訓練風景や、近隣住民の困惑、そしてバルガスの異常な適応能力をさらに掘り下げて加筆します。


「……いいか。笑顔っていうのは、相手を安心させるためにあるんだ。殺す寸前の悦びに満ちた笑いじゃない」


俺は演習場の壇上から、整列した一万の魔王軍将兵を見下ろした。 そこには、蛍光イエローの反射ベストを鎧の上から無理やり着込み、巨大な「さすまた」を杖のように突いた凶悪な集団がいた。


「いいか、まずは口角を上げるんだ。鏡を見て練習しろ」


俺の号令と共に、一万のオークやトロールたちが一斉に懐から手鏡を取り出した。


「……ガハハ! 陛下、見てください! 我が部下どものこの表情! 獲物の喉笛を裂く直前のような、素晴らしい『威圧の笑み』ですな!」


バルガスが誇らしげに胸を叩くが、俺の目には地獄の光景にしか見えなかった。 数千の牙がむき出しになり、目は血走り、顔面が引きつっている。


「違う! 全然違う! それじゃ村人が心臓麻痺で死ぬだろ! クラリス、見本を見せてやってくれ!」

「……ええっ、私が!? ……はぁ、仕方ないわね。みんな、見てなさい。聖女の基本中の基本、『慈愛のスマイル』よ」


秘書官の制服を着たクラリスが、一歩前に出て、完璧な笑顔を作った。 その瞬間、演習場に後光が差し、殺伐とした空気が一変した。


「……お、おおぉぉぉ……」


魔物たちが一斉にどよめく。あまりの神々しさに、何匹かのゴブリンは浄化されそうになって天を仰いでいた。


「よし、今のを真似しろ!」

「承知いたしました! 全員、唱和しろ!」

バルガスの野太い声が響き渡る。


一万の重低音が空気を震わせ、城の窓ガラスが数枚割れた。


「……陛下。……あの唱和。……超音波による、精神破壊魔法に酷似。……周辺の鳥たち、気絶して落下中。……リィナ、了解。……気絶した鳥、今夜の焼き鳥にする。……資源、有効活用。」


リィナが淡々と、落ちてきた小鳥を拾い集め始めた。


数日後。俺はパトロール隊の初出動に立ち会った。 場所は、魔王領に隣接する人間の小さな村「ハルナ村」だ。村の入り口では、農作業をしていた村人が、地響きを立てて迫りくる「蛍光色の集団」を見て腰を抜かしていた。


「ひ、ひぃぃっ! 魔王軍だ! 逃げろ、殺されるぞ!」


そこに、バルガスが三メートルの巨体を揺らして歩み寄る。 彼は俺の教え通り、顔を真っ赤にして口角を上げ、不気味なほど見開いた目で叫んだ。


「こんにちは! 困ったことはないか!? 俺たちが全力で見守ってやるぞ!!」


バルガスはそう言いながら、村の入り口に転がっていた巨大な落石を、片手でひょいと持ち上げて粉砕した。


「ゴミは、こうしてクリーンにするのがマナーだ!」


「…………あ、ああぁ…………」


村人は恐怖のあまり失禁し、その場に膝をついた。 だが、バルガスたちは気にせず、そのまま村の通りを「整理整頓」し始めた。 傾いた屋根を拳で叩いて直し、道端の雑草を爪で刈り取り、泣き叫ぶ子供に「飴」を無理やり握らせる。


「……閣下。見てください。村人たちが、恐怖と混乱で誰も喋らなくなりました。これが、あなたの目指した『安心』ですか?」クラリスが冷たい目で俺を見てくる。


「……いや、ほら、見てくれよ。道が綺麗になったろ? 治安も完璧だ」

俺の視線の先では、村に潜んでいたこそ泥が、パトロール隊の「さすまた」に挟まれ、地上十メートルの高さまで持ち上げられていた。


「マナー違反は、空の旅へご招待だ!」


こそ泥の悲鳴が空に消える。 村人たちは震えながら、バルガスたちが通り過ぎるたびに深々と頭を下げた。 それは敬意ではなく、逆らえば「笑顔で粉砕される」ことを理解した生物としての本能的な防衛反応だった。


「……陛下。……治安維持成功。……犯罪率、マイナス。……誰も、息を殺して、動かない。……究極の、静寂。……リィナ、満足。」


俺のツヤツヤの顔に、一筋の冷や汗が流れた。 俺が「優しさ」を軍に教えた結果、魔王軍は「誰一人として逆らえない、絶対的な善意の暴力装置」へと進化してしまったのだ。


「……バルガス。とりあえず、お疲れ様。……次は、もうちょっと、声のボリュームを落としてくれ……」

「ガハハ! 承知いたしました! 次はもっと『静かに』、魂を掴む笑顔をマスターします!」


俺は、崩壊した村の門を見つめながら、日本に残してきた平和な交番のお巡りさんを思い出して、そっと涙を拭った。

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