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第18話 急進派にとっての白仮面

 平日の昼下がり。


 その日の授業は午前中で終わり、光輝は自宅のリビングで、珍しくテレビの電源を入れていた。

 ワイドショーでも、アニメの再放送でもない。画面に映っているのは、いかにも固い雰囲気の、国会中継だった。


 議場に、野党議員の鋭い声が響き渡る。


 彼は、先の選挙で『有能・優秀な冒険者は国家がきちんと管理し、その能力を国益に繋げるべきだ』という公約を掲げて当選した、急進派の論客だ。


 質問の相手は、ダンジョンの出現によって設立した『迷宮省』のトップである『迷宮大臣』。


「大臣にお伺いします! 先日、我が国のダンジョン攻略史を根底から覆す大発見が、一介の冒険者を名乗る『白仮面』なる人物によってなされました。この人物の存在は、今や国家安全保障上の最重要課題と言っても過言ではありません。単刀直入にお伺いします。政府は、この『白仮面』の身元を把握しているのですか、いないのですか!」


 議場がざわめく。


 光輝は、ソファに寝転がり、ポテトチップスをかじりながら、まるで他人事のようにその光景を眺めていた。


 大臣は、額に浮かんだ汗をハンカチで拭いながら、用意された答弁書を読み上げる。


「えー、ただいまのご質問でございますが、『白仮面』と称される人物の活動につきましては、政府としましても最大限の関心を持って注視しております。現在、関係各省庁が連携し、総力を挙げてその正体の特定に努めているところでございます」 「調査中、ですか! 大臣、ふざけないでいただきたい! あれだけの戦略的価値を持つ人物が、野放しになっている。これは、我が国の危機管理能力の欠如を、全世界に露呈しているのと同じではありませんか!」

「……当該人物は、現時点において、不適切な行動を示しておりません。政府としましては、慎重かつ丁寧な対応を……」


 その、のらりくらりとした答弁に、野党議員は、待ってましたとばかりに決定的な「爆弾」を投下した。


「では、大臣。もう一点お伺いします。資料によれば、政府は『ダンジョン系配信者』に対し、再生数や投稿本数に応じた助成金を支給していますね。問題の『ダンジョンCGチャンネル』も、開設以来、この助成金を受け取っているはずです」


 その言葉に、議場が先ほどとは比較にならないどよめきに包まれる。


 テレビの前で見ていた光輝も、思わずポテトチップスを食べる手を止め、画面を凝視した。


(……)


 野党議員は、勝ち誇ったように、大臣に最後通告を突きつけた。


「大臣、お答えください。その助成金は、一体、誰の名義の口座に振り込まれているのですか!」


 大臣は、顔面蒼白になりながら、官僚が用意した最後の逃げ道へと滑り込む。


「……個別の助成金支給案件につきましては、個人情報保護の観点から、この場での答弁は差し控えさせていただきます」

「個人情報だと!? 国家の安全保障と、一個人のプライバシー、どちらが優先されるというのですか!」


 ヤジが飛び交い、議長が「静粛に!」と叫ぶ。


 その混沌とした光景を最後まで見届けると、光輝はリモコンでテレビの電源を消し、静かに息を吐いた。


「……なるほどな」


 政府が高ランク、および有益な冒険者を徹底管理するべきだ。という急進的な公約を掲げ、今の地位を保っている政党からすると、『冒険者が何かを起こすたびに』この手の話題は上がるものだ。


 ただし、『研修を受けて、その時に習った法律を守るなら、それ以上の制約を課すことはない』というのが現状。


 どちらが正しいのかを16歳の光輝が判断できるはずもなく、こればかりは『大人の冷静な議論と判断』によるものであれば、答えに対して反論するつもりはない。


「……まだ、高みの見物はできそうだな」


 何か、策があるのか、思惑があるのか。


 少なくとも、チャンネル登録者が多い配信者と言う、『意思表明を手軽にできる』立場なのが白仮面だ。


 言いたいことは言わせてもらう。


 それだけのことである。

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