第6話 「拡散」
テレビ局のスタジオは、混乱に包まれていた。
ディレクターがヘッドセットを外し、額の汗を拭いながら叫ぶ。
「中継を止めろ! 放送事故だ!」
「無理です! 視聴率が跳ね上がってます!」
モニターには、ショッピングモール内の惨状が生々しく映し出されていた。
悲鳴。血。逃げ惑う群衆。
一人、また一人と倒れ、画面の端で巨大な影が悠然と歩く。
キャスターの顔は青ざめている。
しかし口は笑顔を作ったまま、原稿を読み上げる。
「えー……現在、現場では警察が対応を――」
その背後で、モニターの中の女性が熊に捕らえられ、壁に叩きつけられた。
スタジオの空気が凍りつく。
生放送を観ていた全国の視聴者も、同時に息を呑んだ。
*
SNSは瞬く間に炎上した。
> 「映画の宣伝かと思ったらガチだった」
「これ、テロじゃないの?」
「銃が効かないってマジ? 誰か嘘って言ってくれ」
「うちの近所のモールだ! 家族が行ってるんだよ!」
書き込みは雪崩のように広がり、デマと真実が交錯した。
「熊は複数いる」「軍が出動した」「ウイルスに感染してる」
憶測と恐怖が混じり合い、人々は冷静さを失っていく。
*
行政は火消しに追われていた。
「被害は限定的です」「現場は封鎖済みです」
会見で繰り返されるその言葉は、逆に市民の不安を煽るだけだった。
テレビ局の生中継は、すでに“災害映像”から“戦場映像”へと変貌していた。
人々はリモコンを握り締め、逃げ場のない恐怖に釘付けになる。
*
その時、再び画面が揺れた。
カメラが生き残っていた。
血まみれのレンズ越しに、巨大な影が振り返る。
――熊の赤い目が、真っ直ぐにカメラを射抜いた。
視聴者は一斉に息を呑む。
それは獣の目ではなかった。
まるで「理解している」と告げる、人間じみた視線だった。
瞬間、SNSに新たな言葉が広がった。
> 「あいつ、笑ったぞ」
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