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進撃の熊  作者: 赤虎鉄馬
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第5話 「閉ざされた箱」



ショッピングモールの自動ドアが、破壊音と共に吹き飛んだ。

ガラス片が宙に散り、照明の光を反射してキラキラと舞う。

その破片を踏みしめながら、巨体がゆっくりと進入してきた。


「ク、クマ……?」

誰かが呟いた声を皮切りに、モールは地獄と化した。


叫び声。泣き声。

ベビーカーを押す母親が必死に走り、子どもが泣き喚く。

フードコートの椅子が倒れ、トレーの上のパスタが床にぶちまけられる。

エスカレーターに群衆が殺到し、押し合いへし合いで人が転げ落ちる。


「やめろ! 押すな、押すなぁ!」

「子どもが! 子どもが下敷きに――!」


モール全体が巨大な罠のように機能し始めた。

出口は限られ、非常口は人波に塞がれ、逃げ場は次第に消えていく。



熊は進む。

鼻をひくつかせ、獲物の群れを見回す。

人間は面白いほどにパターンを繰り返す。

恐怖で群れ、恐怖で衝突し、恐怖で自らを傷つける。


「弱い……」

理解は言葉にならずとも、脳裏に確かな像を結ぶ。


その目が、一人の少年に留まった。

母親とはぐれ、泣きながら床に座り込んでいる。


熊は一歩、二歩と近づく。

足音に合わせて床が震え、天井の照明が揺れる。


「いやああああああッ!」

母親の悲鳴がフードコートの奥から響く。

しかし、人波が壁となり、彼女は子どもに辿り着けない。



「撃て! 撃てぇッ!」

警備員が拳銃を抜き、震える手で発砲した。

乾いた銃声。

弾丸は熊の肩をかすめ、血が散る。

――だが熊は怯まない。

むしろ、視線が鋭さを増していく。


理解していた。

「これは痛み。だが死には至らない。ならば――無視できる」


熊の爪が振り下ろされ、警備員が壁に叩きつけられた。

背骨が砕ける鈍い音と共に、彼の体は床に崩れ落ちる。


悲鳴がさらに膨れ上がる。

群衆はパニックの極致に達し、我先にと逃げ惑った。

モールの広場は、血と食べ物と倒れた人間で溢れ返る。



熊は立ち止まった。

涎に濡れた口元を舐め、血に濡れた爪を見下ろす。

――人間は、恐怖に支配されれば自滅する。

それを熊は“学んだ”。


次は、どこを壊せばよいのか。

どこを襲えば、この群れがさらに壊れるのか。


獣ではない。

もはや、計算する“捕食者”だった。




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