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進撃の熊  作者: 赤虎鉄馬
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第4話 「報道」



翌朝、集落の惨状は町全体に知れ渡った。

血で染まった祭り会場。

破壊された屋台と倒壊した提灯の列。

新聞には「凶暴熊、祭りを襲撃」と踊る大見出し。


「熊に襲われた? 今さらだろう」

「また騒いでるんじゃないのか」


市街地の人間たちは、画面越しの惨劇を他人事のように受け止めた。

テレビは明るいキャスターが笑顔を崩さぬまま言う。

『一部の住民が大きな声を上げていますが、警察と猟友会がすでに対応中とのことです』


実際には、猟友会は壊滅に近く、消防団は半数以上が負傷していた。

だが、行政は「正確な情報が確認できていない」と繰り返すばかり。

やがて会見で市の職員が、疲れた顔を隠しながら口を開いた。


「えー……現在、熊の被害は限定的であり……市民生活に大きな支障は――」


その瞬間、会見場のスクリーンに緊急映像が割り込んだ。

『速報です! 熊が再び出没しました!』



映し出されたのは市街地のショッピングモール。

休日で賑わう店内に、巨大な影が入り込んでいた。

人々が一斉に逃げ惑い、悲鳴が響き渡る。

カメラは揺れ、レポーターの叫びが生々しく響いた。


「うわっ、こっちに来るな! こっちに――!」


カメラが倒れ、映像がノイズに切り替わる。

次の瞬間、赤黒い何かがレンズに叩きつけられた。

……それが何であるか、誰も口にできなかった。



熊は理解していた。

明るい光、反響する声、人間が群れる場所。

――そこに潜り込めば、混乱は最大になる。

前夜に学んだ知識が、より精密な“狩り”へと変貌していた。



「これは……テロか?」「いや、獣害だろ?」

「まさか本当に知能が……?」


行政の会議室では、疲弊した顔が並んでいた。

だが彼らの議論は、現場の血よりも“責任の所在”に向いていく。


「国に報告するのはまだ早い。騒ぎを大きくすれば市の責任になる」

「まずはメディア対応を優先しよう。事実関係はそれからだ」


――その間にも、モールの中で悲鳴は続いていた。





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