第4話 「報道」
翌朝、集落の惨状は町全体に知れ渡った。
血で染まった祭り会場。
破壊された屋台と倒壊した提灯の列。
新聞には「凶暴熊、祭りを襲撃」と踊る大見出し。
「熊に襲われた? 今さらだろう」
「また騒いでるんじゃないのか」
市街地の人間たちは、画面越しの惨劇を他人事のように受け止めた。
テレビは明るいキャスターが笑顔を崩さぬまま言う。
『一部の住民が大きな声を上げていますが、警察と猟友会がすでに対応中とのことです』
実際には、猟友会は壊滅に近く、消防団は半数以上が負傷していた。
だが、行政は「正確な情報が確認できていない」と繰り返すばかり。
やがて会見で市の職員が、疲れた顔を隠しながら口を開いた。
「えー……現在、熊の被害は限定的であり……市民生活に大きな支障は――」
その瞬間、会見場のスクリーンに緊急映像が割り込んだ。
『速報です! 熊が再び出没しました!』
*
映し出されたのは市街地のショッピングモール。
休日で賑わう店内に、巨大な影が入り込んでいた。
人々が一斉に逃げ惑い、悲鳴が響き渡る。
カメラは揺れ、レポーターの叫びが生々しく響いた。
「うわっ、こっちに来るな! こっちに――!」
カメラが倒れ、映像がノイズに切り替わる。
次の瞬間、赤黒い何かがレンズに叩きつけられた。
……それが何であるか、誰も口にできなかった。
*
熊は理解していた。
明るい光、反響する声、人間が群れる場所。
――そこに潜り込めば、混乱は最大になる。
前夜に学んだ知識が、より精密な“狩り”へと変貌していた。
*
「これは……テロか?」「いや、獣害だろ?」
「まさか本当に知能が……?」
行政の会議室では、疲弊した顔が並んでいた。
だが彼らの議論は、現場の血よりも“責任の所在”に向いていく。
「国に報告するのはまだ早い。騒ぎを大きくすれば市の責任になる」
「まずはメディア対応を優先しよう。事実関係はそれからだ」
――その間にも、モールの中で悲鳴は続いていた。