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進撃の熊  作者: 赤虎鉄馬
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第3話 「抗う炎」



祭り会場から半刻ほど後。

集落にサイレンが響き渡った。

駆けつけたのは地元消防団、そして猟友会の面々だ。


「銃は持ったか!」

「子どもと女はもう避難させた! 残りは俺たちで抑えるぞ!」


ヘルメットと懐中電灯の光が揺れ、猟銃の金属音が夜気を裂いた。

逃げ惑う住民たちは安堵の声を上げる。

――だが、それは束の間の希望にすぎなかった。



熊は広場に残っていた。

血に濡れた毛並みを舐め、裂けた肉片を咀嚼しながら。

群れが逃げるのを追うこともなく、ただ静かに待っていた。

やがて近づく人間たちの足音を耳にし、熊の脳裏に新たな光が走る。


「強い者。武器を持つ者。……倒せば、群れは壊れる」


その理解は、もはや獣のものではなかった。



「いたぞ! 山側だ!」

懐中電灯の光が熊を捉えた瞬間、三発の銃声が轟いた。

鉛弾が毛を裂き、血が飛び散る――が、熊は怯まない。

呻き声すら上げず、視線だけを放った。


「お、おかしい……効いてねぇ!」

「もっと撃て!」


銃声が連続する。

だが熊は動かない。

ただ、狙撃のタイミングを“数えて”いた。

弾倉が空になる一瞬、足取りの乱れる一瞬――。


熊は闇を裂いて突進した。

咄嗟に盾代わりに構えた消防団の放水銃が、紙のようにひしゃげ飛んだ。

その背後の団員が宙を舞い、地面に叩きつけられる。


「た、助け……!」

呻く声を、熊の前足が容易く踏み潰す。



「退け! 退けぇッ!」

猟友会の男たちが必死に再装填するが、熊はすでに学んでいた。

――撃たれる前に遮蔽物に隠れろ。

――撃ち終える瞬間を待て。

――人間は、恐怖すると動きが鈍る。


まるで軍人のように動くその獣に、男たちは戦慄した。


「こいつ……考えてやがる……!」

震える声は、銃声よりも雄弁に恐怖を語っていた。



火の粉が舞い上がる。

倒れた屋台の炎が、熊の影を巨大に伸ばしていく。

その眼は赤く燃え、獲物を嘲るように光っていた。


人間たちの抵抗は、開始からわずか十分で崩壊した。


「退け! もう無理だ!」

「やめろ! 置いていくなぁッ!」


叫びと共に散り散りに逃げ出す男たちを、熊は追わなかった。

――“追い詰めれば、また戻ってくる”。

学んだ知恵が、そう囁いていたからだ。


熊は、静かに血のついた鼻を上げた。

次に狩るべき獲物を求めるように。



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