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進撃の熊  作者: 赤虎鉄馬
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第2話 「血祭り」



熊が吼えた。

地を割るような咆哮が、夜の祭囃子をかき消す。

太鼓の音が途切れ、提灯の灯りが震え、群衆の目が一斉に闇の奥を凝視した。


次の瞬間――。

一頭の熊が突っ込んできた。


屋台が木っ端みじんに吹き飛び、焼きそばの鉄板が宙を舞う。

火花が散り、油がはじけ、熱せられた鉄片が観客の腕を焼いた。

悲鳴。怒号。

「熊だ! 逃げろ!!」



熊の視界に、赤い影が走る。

小さな人間――子供。

腹の底から涎があふれる。

かつてはただの「食料」でしかなかった存在が、今は“もっと大きな意味”を帯びて見える。

弱い。捕らえられる。群れを乱せる。


狩りの理屈を、熊は理解してしまっていた。



「こっちに来るな!」

青年が子どもを抱えて逃げ出す。

だが、熊は屋台を薙ぎ払いながら一直線に迫ってくる。

その眼は、獲物を追う動物のそれではなかった。

“追い詰め、反応を楽しむ”――そんな冷たい光を放っていた。


老婆が転んだ。

「助けて! 誰か!」

伸ばされた手を、誰も取らない。

群衆は四散し、互いを突き飛ばし、ただ自分だけが助かろうと走る。


「やめろ! 押すな、押すなぁッ!」

足を踏まれ、子供を突き飛ばされた母親が絶叫する。



熊の爪が振り下ろされた。

鉄骨の柱が容易く裂け、火花が散る。

その光に照らされた熊の口元は――笑っているように見えた。


「化け物だ……!」

誰かがそう呟いた瞬間、群衆の恐怖は臨界点を越える。


逃げ惑う人間たち。

血に濡れた熊。

そして、夜空に残る祭囃子の残響だけが、異様に楽しげに響いていた。





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