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進撃の熊  作者: 赤虎鉄馬
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第1話(続き)



本文:第1話(続き)


熊は、暗闇の中で鼻を震わせる。

血の匂い。肉の匂い。――人間の匂い。

かつては単純に獲物を探すだけだった本能が、いまや異様なほど鮮明な思考を伴って膨れ上がる。

「これは弱い。これは速い。これは……捕らえられる」

言葉にならない理解が脳を走り抜ける。



一方その頃、山裾の小さな集落では祭りの準備が進んでいた。

太鼓の音、屋台の明かり、子どもたちのはしゃぎ声。

「今年も無事に迎えられたな」

そう笑う老人の顔に、不安は微塵もなかった。


しかし、屋台の裏手にいた青年がふと耳を澄ませた瞬間、背筋を冷たいものが走った。

――何かがいる。

獣臭。土埃。腐敗した血の臭い。

それが、祭囃子の隙間を縫って忍び込んできたのだ。



熊の眼に、明かりが映る。

赤い提灯。人間の影。群れ。

腹が鳴る。

だがそれ以上に、頭の奥で疼く衝動があった。

「試せ」

「壊せ」

「奪え」


それは熊のものではない。

喰らった“何か”が、内側から命じている。



「――おい、熊だ!」

誰かの叫びが祭り会場を凍りつかせた。


振り返った群衆の目に映ったのは、闇を割って現れる巨影。

四つ足のはずの熊が、奇妙にゆらぎながら立ち上がり、まるで人を見下ろすかのように二足で進み出てくる。

口元には涎、だがその瞳には、異様な“理解”の光。


恐怖と混乱が弾けた。

「逃げろ!」

「子どもを連れて!」

「消防団を呼べ!」


阿鼻叫喚の中、熊は――静かに、一歩を踏み出した。





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