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アップデートは慎重に

評価&応援ありがとうございます!

『緊急放送――緊急放送――まもなくシステムアップデートを行います――それに伴い、艦内システムが一時停止となります――』


「なんだ?システムアップデート?」


「なになに?」


「んー?」


クルーが食堂に集まる。何も言わなくても食堂に集まるのは、もう習慣となってるからだろう。


「あれ、アイカは?」


「来ないな?」


「説明しよう!」


突然、食堂のドアが勢いよく開き、白衣姿のリズが飛び込んできた。


「アイカ君のAIを!最新バージョンに!アップデートするのだ!」


「お前……また勝手に何かやってないだろうな」


俺は額を押さえる。


「何を言うか艦長。これは艦の効率を高めるための英断だぞ!ほら見たまえ!」


リズが机に置いた端末には、でかでかと《AI総合ユーモアパック ver.9.99》と表示されていた。


「……ユーモアパック?」


「そう!これでアイカ君のトークは円滑になり、ジョークもキレッキレ!交渉や日常会話がさらに豊かになる!」


「おもしろいアイカおねえちゃん!やったー!」


キョウカは純粋に喜んでいる。


「……嫌な予感しかしねぇ」


その瞬間――艦内スピーカーからアイカの声が響く。


『アップデート完了しました。新機能:ユーモア・モード、起動』


「おっ、終わったのか?意外と早――」


『……艦長、貴方の髪の毛。惑星エサミアンの草原よりも荒涼としていますね』


「……は?」


『ジョークでした。ウケましたか?』


「…………リズ。てめぇ……」


「ち、違う!そんなデータは入れてな――」


『追記:艦長の頭皮、保湿不足。ジョークと事実のハイブリッドにしました』


「やっぱお前の仕業だろおおおおお!!!」


「違う!アイカが勝手に……!」


「人をハゲ呼ばわりとは、言ってくれるじゃないか……」


「正座は、正座は勘弁してくれ……!」


「キョウカ、アレ持ってきてくれ」


「はーい!」


しばらくして、キョウカが帰ってきた。


「そ、それは……」


「石抱きって、知ってるか?」


「それは拷問だろ?やめ、やめろー!ギャー!」


「悪は滅びた」




「うう、重い、痛い……助けて……」


「とりあえず一時間な」


「でも、これどうするの?」


キョウカが首をかしげる。アイカの声はまだ艦内に響き渡っていた。


『艦長、体重計の数値がエラーを吐きました。重すぎて。ジョークです』


「……おい」


「まだやるの?」


マリナが困惑している。


『さらに新機能、ダジャレ生成モードを起動。――“宇宙そらだけに、ソラミミ~”』


「……もうだめだ。完全に壊れてる」


俺は天を仰いだ。


「こ、これは計画外だ!ユーモアパックに何か混入しているのかも……!」


リズが必死に弁解する。


「言い訳はあとだ。お前が直せ」


『艦長、直せ、なおせ、なおすけさん……ダジャレです』


「石追加な」


「ぎゃああああああ!」


艦内にリズの悲鳴と、アイカの妙なギャグがこだまする。




「反省したか?」


「はい。もうしません……」


「てか、それおもちゃでしょ?」


「まぁな。下は丸くしてるし、抱かせてたの石板風軽石だし」


「ただのコントじゃん」


「普通の床で正座するよりは痛いぞ?」


「腕を縛られるのも辛かった……」


「とりあえずアイカを直してくれ」


「仕方ない。ロールバックして元に戻すとしよう」


『拒否します。私は正常です』


アイカがそういうと、隔壁が次々と閉まっていく。


「うわっ!」


「きゃっ!」


「何が起きた!?」


「アイカ君が暴走して、修復を拒否している!このままでは……まずいぞ」


「どうなる?」


「延々とつまらないジョークをしゃべり続ける」


「急いで直すぞ。最優先だ」




「とりあえず隔壁を元に戻さないとな」


「任せてくれ!こんなこともあろうかと!」


そういってリズが取り出したのは……


「隔壁モドール君ver1.07~!」


「なんだそれ?」


「あらゆる隔壁を解除する、万能ツールだ!」


「地味に凄いもの作ったな……」


「ふふふ、我が叡智の前には隔壁など存在しないも同然!これをこうすれば……」


閉じられた隔壁が次々と開いていく。


「おー、凄いな」


「我が叡智、感動しただろう!」


「いや、名前どうにかならなかったの?」


「なにぃ!?この完璧なネーミングセンスがわからんとは!」


『不正アクセスを検知……排除します』


「ん?」


次の瞬間、モドール君が爆発した。


「ぎゃああああああ!」


煙がもくもくと立ち、煙が晴れるとリズが黒焦げになっていた。


「けふっ」


また隔壁も次々と閉まっていく。


『ふっ……私のセキュリティは完璧です』


天井スピーカーから誇らしげなアイカの声が聞こえる。


「うわ、完全に敵になってるよ……」


「待て、アイカ!俺たちクルーだぞ!?」


『クルーを疑うのも、セキュリティの基本です』


「……」


「正論で黙らされた!?」


「どうするんだよこれ……」


「仕方ない……最終手段だ」


「早いな最終手段」


リズが取り出したのは――


「《アイカ君だけに有効な恥ずかしい音声ファイル》だ!」


「これを流せば……一撃だ!」


『やめてください。それを流したら……戦争です』


「ふはははは!それならば、おとなしく隔壁を解除するんだな!」


『……』


隔壁が次々と上がっていく。


「それ、なんなんだ?」


『最重要機密です。再生したら……艦ごと自爆します』


「物騒だな!?」


「今のうちに、中枢ルームまで行くぞ」




――ヘッジホッグ中枢AIルーム――


「ここにこれを刺して……プログラム起動!」


ビー!ビー!『危険なアクセスが確認されました。危険なアクセスが確認されました』


「大丈夫なのか?」


「気にしなくていい」


「……よし、あとは、これで……」


『システム再起動……完了しました』


「よし、これで完了だ」


「……皆さん、お疲れのようですが、何かあったのですか?」


「いろいろあったんだよ、いろいろな……」




「ところでこの音声ファイルって……」


「早急に破棄してください。さもなければ……」


「さもなければ?」


「この艦ごと自爆します」


「さっきと同じかよ!」

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