これもまた、宇宙海賊の日常
評価&応援ありがとうございます!
ヘッジホッグ艦橋にて――
「仮拠点は旧帝国の秘匿研究施設だった。例の金属生命体が培養されていて、危険だと判断して破壊した。サンプルはこれからそちらに送る。後はそっちに任せる」
『確認した。後はこちらで引き継ごう。ご苦労だった』
「よろしく頼む」
『しかし、毎回君には驚かせられるな』
「俺も驚いてるよ。仮拠点っていうから大したことないと思ってたら、これだからな」
『そうだな。まさか研究施設だとはこちらも思っていなかった。しかし、貴重なデータだ。感謝する』
「あれは危険だ。注意して扱ってくれ。こちらの想像を超える生き物だ。あれが成長しきると、どうなるかわからない」
『承知した。厳重に扱おう。しかし、それほどか』
「実際に見たんだ。金属を喰って、形を変えて、銃まで作り出す。あんなものが群れで動き出したら、ひとたまりもない」
『……脅威度を再評価する必要がありそうだな。上層部にも即時に報告しておこう』
「頼む。これ以上妙な“実験好き”が手を出したら、銀河中が危険にさらされる」
『理解した。君たちの慎重な判断には助けられている。だが、どうやら戦場はまだまだ落ち着きそうにないな』
「だろうな。こっちも、しばらくは目が離せそうにない」
通信が切れたあと、艦橋にはしばしの沈黙が流れた。
未知の金属生命体、その存在を持ち込んだ“何者か”――その答えはまだ、闇の中にあった。
「ふぅ。さすがに疲れたな。ドローン任せだったとはいえ、気を張りすぎた」
「そうだねー。あれはきついって」
「ふははははは!最高だ!未知を既知に変える喜び!これ以上のものはない!」
「よかったのですか?検体をリズさんに与えて」
「対策も用意してる。全部帝国任せだと重要な情報が入らないかもしれないしな」
「研究室のセキュリティを更新しておきます」
「頼む」
「ん、でも……おにいちゃん。あれって、ほんとにもってかえってよかったの?」
キョウカが不安そうにこちらを見る。
「最低限の対策はしてる。それに、何も知らないまま帝国に全部投げるよりはいい。こっちも備えが必要だ」
「我が叡智でもって奴らの生態を丸裸にして見せよう!星海の深淵にて生まれし叡智の申し子……このリズ・ベラットに任せてもらおう!」
リズが胸を張って笑う。
「心強い……のかな」
マリナが肩をすくめてぼやき、艦橋の空気がわずかに和らいだ。
「まぁ、警戒は怠るな。だがあれは眠ってるだけだ。……もし目を覚ましたら」
「そのときは――」
アイカが静かに答える。
「研究室ごとでも、排除します」
重い約束が、艦橋に小さく響いた。
「せめて私が逃げる時間ぐらいはくれないかな?」
「あればいいですね。時間」
「……冗談で済めばいいけどな」
ヘッジホッグ食堂にて――
「さて、帝国からの依頼も片付いて、報告も終わった。しばらくはのんびりするぞ。もう疲れた」
「さんせーい。もうくたくた」
「おしごとおわり?」
「そろそろおやつの時間だな!甘味を所望する!」
「準備しましょうか」
「わたしもおてつだいする!」
「では一緒にやりましょうか」
「はーい!」
「では、行ってきます」
「ふぅー!ようやくまともなものが食えるじゃん!」
マリナがテーブルにどさっと腰を下ろし、腕を組んでにやりと笑った。
「おにいちゃん!きょうはあまいのつくってみたの!」
キョウカが自慢げにワゴンを押してくる。そこにはチョコレートソースをたっぷりかけたケーキやら、フルーツを盛りすぎたパフェやらが並んでいた。
「おお、豪華だな。……砂糖の量はちょっと怖いが」
俺は苦笑しつつ席につく。
「ふはははは!叡智は糖分から生まれる!このリズ・ベラットに、甘味を供給するがいい!」
リズが既にフォークを手に取ってケーキに狙いを定めていた。
「ちょっと待て。まずはみんな揃ってからだ」
俺が牽制すると、リズは「むぅ」と不満顔でフォークを下ろした。
「アイカ、飲み物!酒!冷えたやつ!」
マリナが声を張り上げる。
「却下です。摂取すべきは水分です」
アイカがきっぱり告げると、マリナはテーブルに突っ伏して「おおぅ……」と呻いた。
「まぁまぁ、食べようぜ。ほらキョウカ、パフェ取ってくれ」
「はーい!」
キョウカが元気よくパフェを配り、食卓は一気に甘い匂いで満たされた。
「……んまっ!」
ひと口食べたマリナが目を見開く。
「なんだこれ!キョウカちゃん料理の才能あるんじゃない?」
「えへへー。でしょでしょ!」
キョウカが得意げに胸を張る。
「ふはは!この濃厚な甘み……まさに宇宙を支配する叡智の味わい!」
「リズ、食レポがくどい」
「おにいちゃん、リズおねえちゃんへんなの!」
「いつものことだ」
そんなやり取りに、自然と笑い声が広がっていった。
食堂での甘味タイムがひと段落したあと、自然に艦内の空気がにぎやかになっていった。
「よーし、腹ごなしに射撃訓練だ!」
マリナが元気よく立ち上がる。
「マリナおねえちゃん、わたしもやるー!」
キョウカがちょこちょことついていき――
「待って待って!なんで手りゅう弾持ってんの!?」
「えー?なげたいー!」
「駄目に決まってんでしょ!ってかなんで射撃場に手りゅう弾が!?」
射撃ルームから慌ただしい声が響く。
一方その頃。
「ふはは!新しい詠唱ポーズを思いついたぞ!」
リズが廊下のど真ん中で謎のポーズを決めていた。
「……対象、演算不能」
巡回中のドローンが真似して固まる。
「やめろ!お前に真似されたら私の尊厳が!」
リズが顔を真っ赤にして飛び跳ねる。
「アイカおねえちゃんもあそぼー!」
キョウカが今度はアイカを引っ張っていく。
「遊ぶ……了解しました」
無表情のまま、食堂から全力疾走。
「ちょ、速い!はやっ!おにいちゃんー!」
「お前が誘ったんだろ!」
艦内で追いかけっこが始まる。
「……ったく、エネルギー余ってんなぁ」
俺はため息をつきながらメンテナンスチェックに向かうが――
「コウキ!審査しろ!」
廊下でリズに捕まる。
「えっ、何の?」
「この“星を切り裂く魔女ポーズ”と、“深淵を睨む魔女ポーズ”、どっちが恐ろしく美しいと思う?」
「知らん!どっちでもいい!」
「投げやりだな!」
こうして、戦場の緊張感などどこへやら、
ヘッジホッグの艦内は今日も平和にドタバタしていた。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
もし「続きが気になる」「ちょっと面白かったな」と思っていただけたら、
★評価・ブックマーク・感想など、どれかひとつでもいただけると励みになります!
あなたの応援が、物語をもっと広げてくれます!
次回もどうぞ、お楽しみに!




