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浸食の記録

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デブリ帯宙域――

先ほどの培養槽跡を後にし、ドローンは旧帝国軍の仮拠点内部をさらに奥へ進んでいた。


「静かすぎるな……」

俺は短く呟き、ブリッジのモニターを睨む。暗い廊下、切れかけの照明、焦げ跡の残る壁面。戦闘の跡も感じられるが、今は死んだように静まり返っていた。


「ドローンを再展開します。残留している休眠体には十分注意してください」

アイカの声が冷静に響く。


「わかってる。無理はさせるな」

俺は呟き、手元の操作パネルを叩いた。


小型探査ドローンが静かに廊下へ送り込まれる。アームを軽く振り、壁面や端末に触れるたび、モニターには旧帝国の痕跡が徐々に映し出されていく。


「……なんだ、この端末群は」

リズが目を輝かせ、画面を食い入るように見つめる。


「古いデータ端末ね。記録が残っているかもしれない」

マリナは眉をひそめ、背後の薄暗さに目を配る。


「回収対象は旧帝国の実験記録及び関連資料。破損していなければ解析可能です」

アイカは淡々と指示を続ける。


沈黙が支配する廊下に、ドローンの微かな作動音だけが響いた。

誰もがわかっていた――ここに眠るものの全容が、決して安全ではないことを。




「壊れているな」


「一部はデータがとれそうです」


「よし。解析を開始しろ」


「了解。解析開始します」


「これは……実験データか」


「そのようです。浸食速度の実験のようですね」


映し出された映像には、金属生命体が機械を侵食する姿が映っている。あっという間に機械を覆いつくし、黒く染まっていく。


「……増殖過程の記録か。材料さえあれば、いくらでも大きくなるようだな」

リズが画面を凝視し、瞳をぎらりと光らせる。


「危険すぎる……」

マリナが渋い顔をする。


「制御下に置かれていなければ、群れで暴れたら手が付けられないじゃん」


「しかし、こうしてデータが残っている以上、特性の解析は可能です」

アイカが冷静に指摘する。


「休眠中の個体と併せて、侵食速度や成長条件の予測ができるでしょう」


「……でも、この記録を残した者がいたってことか」

俺は低く呟く。


「少なくとも、誰かが捕獲して、ここで育てた。旧帝国の誰かだろう」


「残念ながら、実験者の足取りは消されていますね」

アイカが画面を切り替えながら報告する。


「端末に残っているのは生体実験の結果と手法だけです」


「それでも十分だ」

俺は拳を握りしめる。

「少なくとも奴らの特性と危険性は把握できる。サンプルと合わせて、安全策を立てる材料になる」


リズは唇を尖らせつつも、目の奥で興奮を隠せない。

「面白いじゃないか……ただ、扱いは慎重にする必要がある」


ブリッジに、静かだが確実な緊張感が漂う。

旧帝国の痕跡――そして眠れる脅威。

俺たちはそれを慎重に、しかし確実に回収していくのだった。




ドローンは別の部屋へと向かう。


「ここにも端末があるな」


「ここでもデータがとれそうです」


ドローンが端末に近づく。


「っ!ドローンを下げろ!」


端末から金属生命体が染み出し、ドローンへ飛びついた。あっという間に黒く染まり、制御不能になる。


ドローンの映像が激しく乱れ、ブリッジに緊張が走る。


「通信が途絶えた!」

マリナが声を張り上げる。


「冷静に……状況を分析します」

アイカが迅速にコマンドを打ち込み、別のドローンの映像に切り替える。

黒光りする塊がドローンを覆い尽くす様子が映し出された。


「……まずい。今はデータ回収より安全確保が優先だ」

俺は即座に判断する。


「戦闘用ドローンで奴を排除しろ」


「了解。戦闘用ドローン、攻撃開始」

レーザーが飛び、黒い塊は床に沈む。


「……停止、確認」

アイカが報告する。

「熱源反応消失。活動停止しました」


「ふぅ……危なかった」

マリナが肩をすくめる。


「回収は無理だな。浸食されている」

俺は決断する。

「データは別の端末から取れる。破壊しろ」


ドローンが火炎放射器で端末を焼き尽くす。赤い光が室内を包んだ。


ブリッジに再び静けさが戻る。

だが、誰もが薄く背筋に寒気を覚えていた――この施設には、まだ眠れる脅威が潜んでいる。


「これで最後か?」


「ここが最後の部屋です。……待ってください。内部に熱源反応を確認。大きな熱源反応です」


「どうする?部屋ごと破壊するか?」


「ドローンで調査しましょう。一機程度でしたら、浸食されても誤差の範囲です」


「わかった。ドローンを突入させろ」


「了解。ドローン突入させます」


ドローンが部屋に入る。そこには、大きな黒い球体が静かに浮かんでいた。


「これは……」


「成長した金属生命体のようです。動きはありません」


「……休眠中か?」


アイカが分析を開始する。


「はい。熱源反応はありますが、運動パターンはほぼゼロです。活動は停止していると見てよいでしょう」


「でも、あれだけ大きいとなると……一度目覚めたら手に負えないぞ」

マリナが拳を握り、眉をひそめる。


「少なくとも今は危険ありません。サンプルとして回収できるチャンスです」


「回収できそうか?」


「可能です。回収しますか?」


「やってくれ」

俺は冷静に指示する。


ドローンが慎重に球体に接近する。光を反射する黒い表面は滑らかで、液体と金属の中間の質感を持っている。


「アームにセンサー装着。化学組成と構造を分析します」

アイカの声がブリッジに響く。


「異常なし。侵食の痕跡もありません。完全な休眠状態です」


「よし、回収しろ」

俺は短く命じる。


ドローンが球体を慎重に掴み、耐熱・耐圧仕様の収容容器へと移す。赤い警告灯が点滅し、三重ロックがかかる。


「……回収完了」

アイカの報告に、ブリッジにわずかな安堵が広がる。


「これで旧帝国の実験記録も、サンプルも揃ったな」

リズが画面を見つめながら呟く。


「だが、安心はできない。あの施設に眠るものはまだ多い」

俺は拳を軽く握り直した。


「これで今回の任務は完了だ。撤収する」

俺の言葉に、ブリッジのクルー全員が頷く。


ドローンたちは静かに撤収を開始し、仮拠点の奥に眠る脅威を後にした。

だが、心のどこかで、誰もが知っていた――この宇宙には、まだ眠れる脅威が確かに存在するのだと。

そして、我々が回収したものが、次の戦いの鍵となるかもしれない――

ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


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次回もどうぞ、お楽しみに!

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