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眠れる脅威

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「映像、出ます」


そこに映されたのは、驚くべきものだった。

偵察用ドローンを覆っていた金属生命体が、ゆっくりと溶けていく。ドロリと床に垂れていき、シミのように広がり、床に吸い込まれるように消えて行った。


「……なんだ?これ」


「興味深い……まるでナノ単位で結合していたかのようだな。結合が解け、消えて行ったのかもしれない。面白い生態をしている」


「わかるように説明してくれ」


「仕方ない。あの金属生命体は他の金属を取り込みながら成長する。ドローンの表面が溶けているだろう?侵食して取り込んだ跡だ。欠けている部分は銃弾を生成したからだろう。浸食速度は速くない。だから数分で艦を乗っ取られることはないはずだ」

リズは床をとんとん叩きながら、あっけらかんとした口調で言う。


「それでも十分な脅威だ。万が一でも乗っ取られたら終わりだぞ」


「そうだな。侵食された金属は奴らの体そのものになる。材料さえあれば、いくらでも“増える”可能性がある」

リズは瞳をぎらりと光らせ、口角を上げる。


「……最悪ね」

マリナが渋い顔で呟く。


「死んでも死体が残らないのも厄介。証拠が何も残らない」


「だが、ゴーストリンク機体に取り付いていた奴は消えていなかった。ある程度成長すれば個体として独立するのか、検証が必要だ」


「証拠はなくても、脅威は消えません」

アイカが淡々と付け加える。


「吸収された金属がすべて奴らの“糧”なら、資源が多い場所ほど危険だ」


「資源……デブリ帯は金属の塊だらけだぞ」

俺は無意識に拳を握りしめる。背筋に冷たい感覚が走る。


「もし群れで潜んでいたら……」

ブリッジに沈黙が落ちる。誰もが息を呑み、コンソールの表示音だけが響く。

目に見えない恐怖が、じわじわと艦を覆っていくようだった。


「ドローンを進めますか?」


「ああ。慎重にな。取り込まれるとまずい」


「了解。進めます」


研究施設は静かで、不気味だった。ところどころ照明が切れて薄暗い。


「映像、前方に切り替えます」

モニターに映し出されたのは長い廊下。壁面のパネルはところどころ溶け、黒い焦げ跡が残っている。まるで何かが舐めるように金属を侵食した痕だ。


「……まるで跡形もないな」


「いや、一部は残っている」

リズが映像を指差す。


「壁の継ぎ目。あそこだけ綺麗に削られている。意図的に“収穫”した痕跡だな」


「収穫?」


「奴らを“育てていた”ってことさ」

リズはあっけらかんと答えた。


……沈黙が広がる。


「ここにも培養槽がありました」

アイカが報告する。ドローンの映像が切り替わり、大型の水槽のようなものが並ぶ部屋が映し出される。ガラスはひび割れ、内部は空。だが、槽の内壁には銀色の薄い膜のような残滓がこびりついている。


「……結構な数を培養、してたってことか」


「どこかで捕獲して、ここで飼っていた。自然な推測です」


「じゃあつまり……こいつらを持ち込んだ奴がいるってこと?」

マリナの言葉でブリッジの空気はさらに重くなる。


「このステーション自体、実験場だった可能性が高い」

リズは瞳を細める。


「だが残念ながら、実験者はもういない。痕跡を消したのか、あるいは……」


「……自分で作ったモノに喰われたか」

俺は低く呟く。


そのとき、ドローンのセンサーが反応する。


「動体反応――微弱ですが、まだ“休眠中”の個体が残っているようです」

アイカの声が緊張を帯びる。


「……一部は回収する。残りは徹底的に破壊」

俺は決断を下した。


「サンプル回収チームをドローンに割り当てます」

アイカが指示を入力する。非金属アーム付きの小型ドローンが培養槽に接近し、慎重にガラス破片をかき分ける。


槽の奥に、薄い金属の欠片が残っていた。ドロリと光を反射し、液体と固体の中間のような質感。


「……本当に、こんなもの持ち帰って大丈夫?」


「強化ガラス製の安全封印容器に入れる。三重ロックだ。開けろと言っても開ける奴はいない」

俺は自分を納得させるように言う。


ドローンのアームが欠片をつまみ、ガラス容器に収める。即座にロックがかかり、赤い警告灯が消える。


「……回収完了」

アイカの声に、少し安堵が広がる。


「残りは?」


「破壊する」

俺は短く答える。


別のドローンがプラズマ火炎放射器を展開し、培養槽の内壁を焼き尽くす。銀色の膜がジジジと音を立て、煙のように消えていく。続けざまに小型爆薬を仕掛け、数秒後には爆炎が部屋を埋め尽くした。


「……終了ね」

マリナが肩をすくめる。


だがリズは不満げに唇を尖らせた。

「もったいないなぁ……もっと解析できれば面白いのに」


「命を賭けてまで面白さを追求する趣味はない」

俺は冷たく言い放つ。


「解析するにしても、まずは確実に“死んだ”と確認しなければ意味がありません」

アイカが淡々と補足する。


「だが、死体は溶けて消えてしまう。生きた検体が必要だぞ」


「俺たちじゃ手に余る。帝国に任せよう」


ブリッジに沈黙が落ちる。

モニターには焼けただれた培養室の残骸だけが映っていた。


「……全部消せたと思うか?」

俺の問いに、誰もすぐには答えなかった。


「保証はできませんね」

アイカがようやく答える。


「床に染み込むように消えた映像を思い出してください。構造材の内部に潜んでいる可能性は排除できません」


背筋に氷が這い上がる。

たとえ一片残っていたとしても、時間をかけて再び“群れ”になるかもしれない。


「……回収したサンプルは帝国軍に渡す。万が一の場合は容器ごと宇宙に投棄しろ」


「了解」


俺は深く息を吐いたが、不安は消えなかった。

それはブリッジの誰もが同じだった。


そして何より――こいつらをここに持ち込んだ“誰か”がいる、その痕跡を追うまでは、決して安心できない。


モニターには、焼き払われた培養槽の残骸が静かに映っていた。

無機の塊が眠っていた場所の静寂が、逆に冷たい警告のように感じられる――。

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