単騎突撃、死地を制す
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ダストベルトZ9、それはスクラップ11にほど近く、大量のデブリが点在しており、違法海賊の絶好の隠れ蓑になっている。そんなところを無謀にも単騎で突っ込もうとしてる馬鹿が一人。そう俺です。
俺の目の前には、ぐるぐると軌道を回るジャンクの渦。
捨てられた機体、爆散した衛星、どこかの戦争の名残……そういうのが全部ごちゃ混ぜになってる場所。
「艦長。スキャン範囲内に、熱源反応が多数」
「出たな、ポンコツ。敵か?」
「推定五隻。散開しつつ、こちらの動きに警戒している様子。待ち伏せの可能性が高いです」
「マジかよ……やっぱり複数いんのかよ……」
俺は思わず額に手を当てた。冷や汗がにじむ。いや、最初から分かってた。分かってたけど、こうして現実に直面すると、やっぱり怖い。
「艦長、撤退しますか?」
「……」
いや、ここで引き下がったら、“仮ID”が剥奪される。
それにスポンサーとの契約だって、無傷じゃ済まない。
「やるしかねぇ。ここで俺が死ぬか、“本物の海賊”になるかだ……!」
「了解しました。戦闘モード、解除不可状態に移行。武装全展開します」
ジャンクの影から、敵艦の影が姿を見せた。赤い塗装の、明らかにこちらを舐め腐ったようなフォルム。
「来やがった……さあ、ハイペリオン。ぶっ潰してやるぞ!」
デブリの海に、赤く塗装された海賊船が現れる。
計五隻──こちらの倍以上の火力。正面からやって勝てるわけがない。
「敵艦、距離8000……6000……急速接近中!」
「脳波コントロールセット、操縦権をよこせ!」
「了解。脳波コントロール開始。接続完了」
「ポンコツ、スラスターバースト。軌道反転であいつらを巻き込め!」
「了解。左舷カウンター噴射──回避軌道に移行」
船体が急激にスピンし、デブリの渦の中へ突入する。敵艦が後を追ってきた瞬間、俺は叫んだ。
「右舷ミサイルベイ、デブリに向けて撃て!」
「撃ちます」
──バシュン!
ミサイルが腐った人工衛星を撃ち抜き、破片の嵐が舞い上がる。
その一瞬の視界不良に、先頭の敵艦が突っ込んできた。
「今だ、拡散弾、ゼロ距離射撃!」
「了解。発射」
──ドゥン!
一瞬の爆音とともに、敵艦のコクピットごと砕け散る。残骸がデブリに飲まれ、火花と煙の点になる。
「……一隻、撃破」
「よし、次!ジャンクの影に隠れながら、順番に潰していく!」
ポンコツの補助AIが敵の陣形を解析し、浮遊するガラクタの裏を取るルートを示してくる。
「どうしてこんな無茶な戦法を?」
「ジャンクの中で育ったんだ。これぐらい余裕だ!」
艦は機敏にデブリをすり抜け、二隻目の横腹へ回り込む。
「EMPグレネード、投射準備」
「投下──いまだ!」
バシュン!
電磁パルスが炸裂し、敵艦の制御システムがショート。
動きが止まった隙に、精密レーザーを一点集中。
──ズガァァン!
「敵艦、2番艦沈黙。残り三隻」
この時点で、敵の動きが鈍くなる。
(やつら、混乱してるな……)
「ポンコツ、オーバーロードできるか?」
「可能ですが、艦体温度が閾値を超えます」
「いい。あと一発、叩き込めば流れは変わる!」
スラスターを最大出力で展開し、三番艦に突撃。
「接触限界距離……100……50……今!」
「拡散弾、オーバーロード発射!」
──ドオオオオンッ!!
爆音とともに、敵艦の前部が砕け飛ぶ。制御不能に陥った艦体が自らジャンクに突っ込み、火花を散らして爆発した。
「敵艦、残り2……撤退信号を発信中!」
「逃がすかよ!」
スナイパーレーザーでエンジン部を狙い撃つ。片方が火を吹き、停止した。
最後の一隻は、武装解除して降伏。
「敵艦、武装解除確認。──任務完了です、艦長」
俺は深く息を吐いた。
「……勝った、のか」
船内には煙が漂い、冷却ファンがフル回転していた。
パネルには損傷表示がいくつも灯っている。
それでも──生きている。俺も、ハイペリオンも。
「やったな、ポンコツ」
「ポンコツではありません。完璧です、艦長」
──俺の、宇宙での初勝利だった。
「それで一人で突撃し、壊滅させた、と。」
「はい。あの、怒ってます?」
「いいえ。ギルドの依頼受注は個人の判断に任せていますので。ただ、あきれただけです。」
「へぇ……」
「とはいえ、実績としては申し分ありません。これで仮IDの期限内に十分な成果を上げましたね」
「よかった。これで安心して次に進める」
「次の任務は選んでいいですが、くれぐれも無茶はしないように」
「分かってます……たぶん」
「“たぶん”はよくありません」
受付嬢はそう言いながら、微笑みを浮かべた。
「でも、コウキ艦長。よく単艦でこれだけの戦果を挙げられました。これからも期待していますよ」
その言葉に、俺は小さくうなずいた。
「それでは、本登録の手続きをさせていただきます。」
「本登録?」
「はい。仮登録は、個人の身分をギルドが保障できるかどうかを見極めるためのものです。あなたは十分な実績を上げましたので、正式に“星間海賊ギルド所属艦長”として登録が可能となります」
そう言うと、受付嬢は端末を操作し始めた。画面には俺の顔写真と仮ID、そして“認証済み”の文字が表示される。
「では、正式登録に必要なデータをこちらに転送いたします。内容をご確認の上、指紋認証をお願いします」
端末に指を乗せると、小さく“ピッ”という音が鳴る。
「──コウキ艦長、これをもってあなたは正式に、星間海賊ギルド登録艦長となりました。おめでとうございます」
「……これで俺も一人前ってことか」
「その通りです。以降は、より高ランクの依頼も受注可能になりますし、ギルドクレジットでの報酬前払い申請などもご利用いただけます」
「ほぉ……」
ギルドクレジット。つまり、“信頼に基づいた借金”ができるってことだ。
──信用されるってのは、気持ちいいもんだな。
「ただし、正式登録者には義務も課されます。依頼の遂行率が著しく低下した場合や、ギルドの名を傷つける行動があった場合、資格剥奪や罰則の対象となることがあります。ご留意ください」
「うわ、なんか一気に重くなったな……」
「それが、“一人前”ということですから」
受付嬢は、ほんの少しだけ口元を緩めてそう言った。
「……気を引き締めます」
「それが一番です。どうか、良き航海を。──正式な艦長殿」
その言葉に、思わず背筋が伸びた。
──ここからが本当のスタートだ。
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