ゴーストリンク
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かつて銀河の覇権を握った旧帝国は、長い戦乱の果てに崩壊した。
だが、その理念と栄光にすがる者たちは暗黒宙域の奥深くで息を潜め、再起の時を待っている。
彼らは現行の新帝国政府を軟弱な傀儡政権と見なし、民衆への譲歩や星間条約を「滅亡への自殺行為」と断じていた。
銀河を支配するのは、融和ではなく恐怖と力――それが彼らの信念だった。
その切り札が、最新鋭無人戦闘システム“ゴーストリンク”。
エースパイロットの脳波を複製し、複数機の無人機群で常時共有する。
数秒先の未来を予測する戦闘機動は、人間の限界を超え、数で勝る艦隊すら圧倒する。
弱体化した銀河を再び鉄の支配下に置くため、これ以上の兵器は存在しなかった。
マリア・クレスト宙域 新帝国統一軍 秘密ドック――
「ゴーストリンク機体の状況は」
「……5機が完成。6機目を組み立て中です」
「遅いな。理由は」
「レアメタルの供給が途絶えかけています。運搬ルートの一部が――」
「言い訳は聞かん」
男は机を指先で軽く叩く。その音は、待つことを拒絶する意思のリズムだった。
「メルセデスに採掘所を襲わせろ。量産化こそ我らの悲願だ」
「はっ!」
「帝国には敵が多すぎる。“融和”など夢物語だ。隙を見せれば喰われる……それを理解できぬ今の帝国は、既に死にかけている」
報告書に並ぶ赤字の「不足」を睨み、男は紙束を握り潰す。
「この拠点も、いずれ嗅ぎつけられるだろう……忌々しい海賊どもめ」
唇の端が歪んだ。
「ならば、その前に――潰す」
マリア・クレスト宙域 新帝国統一軍 秘密研究所――
「システムの進捗は」
「……試作機のデータ反映中です。ただ、不安定で……」
「急がせろ。作戦は前倒しになる」
「ですが、暴走の危険が――」
黒い銃口が、会話を断ち切った。
「危険?戦場は常に危険だ」
男は冷ややかに笑う。
「パイロット不要の兵器……恐怖も休息も知らず、壊れるまで戦い続ける理想の兵士だ」
研究員の額に冷たい金属が押しつけられる。
一瞬の沈黙――答えは決まっていた。
「……わかりました」
「よろしい。時間は、我々の味方ではない」
新帝国統一軍旗艦艦橋――
艦橋の照明は最小限。青白いホログラムが浮かぶ作戦室に、低く抑えた声が響く。
「――アスカロンの接続試験、成功しました。対象は三機とも制御下に」
報告を聞き、黒い軍服の男はゆっくりと椅子にもたれた。
タルギス・ヴォルフ元提督。旧帝国艦隊を率いた歴戦の将であり、今は“新帝国統一軍”の総指揮官だ。
「よろしい。これで、兵士の命を賭けずとも戦える」
声は静かだが、確信の響きを帯びている。
副官がためらいがちに口を開いた。
「しかし……敵は我々を残党と呼び、狂信者と断じます」
タルギスは一瞬だけ目を細めた。
「狂信者……か。やつらは戦争を知らぬからそう言えるのだ」
彼の脳裏には、帝国崩壊前の惨劇が蘇る。焦土と化した惑星、同盟を信じて裏切られた宙域、前線で散った仲間たち。
「和平など幻だ。融和を唱える者ほど、裏切りの刃を隠し持つ」
「弱者の振る舞いをすれば、強者に喰われる。それが銀河の法だ」
彼は指先で艦隊の陣形をなぞる。
「新帝国は、甘やかされた平和ではなく、力による安定を築く。本物の秩序をな」
ゴーストリンクの表示が拡大され、赤いラインが敵艦のシルエットを包み込む。
「アスカロンは象徴だ。これをもって、二度と侵略されぬ国を築く」
副官が問う。
「……その過程で民間人に被害が出れば?」
タルギスは淡々と答えた。
「必要な犠牲は払う。勝者が歴史を決める」
視線は艦隊の映像に戻る。
「準備を整えろ。我々は必ず勝つ。敗北は、歴史から消え去るだけだ」
その瞳に宿るのは狂気ではない。
銀河の現実を生き抜くための、確固たる信念だった。
ヘッジホッグ艦橋にて――
「いよいよ作戦開始か。しかし、よくこれだけの海賊を集めたな。」
視界に映るのはどれもちゃちな海賊ではない。歴戦の艦が何十隻も連なっていた。彼らの誇りと戦果が漂う空気を纏っている。
「Aランク海賊“カロン”“ノーチラス”“ヘラルド”他どれも数多くの戦果をあげた猛者ばかりです。帝国の本気度がうかがえます」
「ひゃー、有名な海賊ばっかり。うちが見劣りしちゃうね」
「ふふふ、この日のためにヘッジホッグを徹底的に改良してきた。彼らに見劣りしない戦果を約束しよう」
「がんばるぞー!」
「みんなやる気満々だな。期待してるぞ」
「任せて!」
「任せておけ」
「準備は万端です。艦長」
「おー!」
リサ提督から通信が入る。
『皆、よく集まってくれた。今回の作戦は、新帝国樹立後、最大規模の戦いとなる。目標は違法海賊船団“メルセデス”、そしてその背後にいる旧帝国残党だ。奴らは今の帝国が歩む平和の道を妨げる逆賊である。太平の世を守るため、皆の力を貸してほしい。』
艦橋に静かな決意が満ちて行った。
そんな時。
ビー!ビー! 警告音が艦橋に響き渡る。
「なんだ!?」
「熱源多数、識別コードなし。敵襲です」
レーダーが真っ赤な点で埋め尽くされる。
「このタイミングで来やがるとは……!」
「敵戦艦、砲撃開始」
主砲の一撃が帝国軍戦艦を直撃し、爆炎が弾けた。
その直後、漆黒の機体が6機、超高速でこちらに迫ってくる。
『怯むな!作戦通りに動け!海賊諸君はゴーストリンク機体を抑えろ!その隙に我々帝国軍はメルセデス及び旧帝国軍を叩く!行動開始!』
艦隊が一斉に動き出す。俺たち“ヘッジホッグ”も戦闘態勢に入った。
「ハイペリオン、発艦!脳波コントロールシステム作動!行くぞ、お前ら!」
これから始まるのは、激闘の幕開けだった。
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