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アスカロン

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「以上が今回の報告だ。問題ないか?」


 俺は椅子に座ったまま、モニター越しにリサ提督へと報告を終える。


『確認した。……だが、貴艦が敵を逃がすとはな。そこまでの相手か?』


「ただの戦闘艦じゃない。ステルスに高性能AI、機動力も並の艦じゃ追いつかないレベルだ。Gの負荷も無視してやがった。おそらく、あれは無人艦だ。あんなのが複数いるとなれば、こっちは地獄を見るぞ」


『……作戦を練り直さねばならんな。貴艦の戦闘データと情報は、極めて貴重だ。よくやってくれた』


「それと──奴は“アスカロン”だと名乗った。ご丁寧に、こっちを“抹殺対象”だとまで言いやがったよ」


 リサの表情が一瞬凍りついた。


『“アスカロン”……その名も出たか』


 重く、冷たい沈黙が数秒流れた。


『それが事実なら、状況は一段階シリアスになる。“アスカロン”は、帝国軍の中でも一部の狂信的将校が推し進めた非正規兵器計画だ。……正式には、数十年前に凍結されたはずだった』


「それが今、再び動いてる。となると──連中の目的は?」


『わからん。だが、もし“アスカロン”の実働部隊が再建されたとすれば、この宙域は確実に戦火に巻き込まれる』


「……戦争の亡霊、か」


 俺の呟きに、リサも静かに頷いた。


『今後の作戦だが、貴艦には引き続き、マリア・クレスト宙域における情報収集と“メルセデス”の追跡を頼みたい。今回の戦闘で、やつらも焦って動くだろう。貴艦の自由な機動力に期待している』


「了解。そっちはそっちで備えてくれよ」


『ああ。気をつけてな、コウキ艦長』


 通信が切れる。


 艦橋に静寂が戻る。その中で、俺は椅子の背に身を預け、深く息を吐いた。


 ──終わっちゃいない。いや、ここからが始まりか。


 ふと、背後から小さな声が聞こえた。


「おにいちゃん……なんか、こわいの」


 振り返ると、キョウカが不安げな目でこちらを見ていた。


「ああ、俺も同じだ」


 胸の奥に残る、嫌な予感。あの艦──“アスカロン”が持つ殺気は、ただの兵器のそれじゃなかった。


「でも……ヘッジホッグは、やるときはやるんだからね!」


 キョウカが、小さな拳をぎゅっと握りしめる。


 その言葉に、俺はふっと笑い、うなずいた。


「その通りだ」


「なにが来ようと、我が叡智の前には無力なのだ!」


 リズが得意げに宣言し、マリナは口にしたパック酒のストローをくわえたまま言った。


「戦争の亡霊なんざ、酒のつまみにしてやるわ」


「よし、出発だ」


“ヘッジホッグ”は、再び宇宙へと舵を切る。


目指すは、戦火の根──

亡霊たちが蠢く、その真相の地へ。




「今日は皆良くやってくれた。これからは自由時間だ。好きに過ごしてくれ」


「よーし、飲むわよ!」


「レーザーの照射を無駄にぐるぐる回ってる感じに改造してやろう!ふははははは!」


「リラックスモード起動。ハーブティーでも飲みましょうか」


「おやつ!おやつ!」


それぞれが思い思いに行動を始める。


マリナはバーに向かい酒を満喫。カウンターにはすでに何本ものボトルが置かれていた。


「いや~やっぱこうじゃなきゃね。戦いの後の一杯、最高~!」


リズは整備区画で武装制御システムをいじっていた。


「レーザー砲のエネルギー波形をもっとこう……無駄に美しく!目に優しくない感じに……!ぐふふふ!これは良いものができそうだ。」


自分の世界に没頭し始めた彼女の手元から、時折スパーク音が漏れていたが、誰も止める者はいなかった。


キョウカは食堂でおやつの構え。今日はホットケーキのようだ。


アイカは隣でほほえましそうにキョウカを見つめながらハーブティーを飲んでいる。


一方、コウキはブリッジに残ってひとり、静かにモニターを眺めていた。


宇宙は相変わらず、何も言わず、何も答えず、ただ静かに広がっている。


(……戦争の亡霊、か。俺たちはいったい、どこへ向かってるんだろうな)


胸の奥に、言いようのない重さが残る。


だがそれでも、艦は進む。仲間がいて、命がある限り――。




「艦長、リサ提督から通信が届いています」


背後からアイカの声がかかる。


「まったく、休む時間もないな。繋いでくれ」


「了解。通信、繋ぎます」


『急にすまないな、コウキ艦長』


「構わないさ。なんだ?」


『無人艦との戦闘の件だ。戦闘ログも確認したが、実際に戦った君の感触をもう一度聞きたくてな』


「……ただの無人艦じゃなかった。あれは――人間の限界を超えた怪物だ」


『そうだ。操縦パターンは人間の反応速度を超えていた。まるで先を読まれているような動きだ』


「となると……ただの自律AIじゃないな」


『ああ。情報局は、旧帝国軍が“ゴーストリンク”という制御システムを使っている可能性が高いと見ている』


「ゴーストリンク……初耳だ。どんなシステムだ?」


『旧帝国時代、アスカロン計画の中で研究されていたものだ。』


「どんな研究なんだ?」


『エースパイロットの脳波パターンをスキャンし、その反応速度や判断基準を無人機に移植する。エースパイロットを大量生産する計画だ』


「脳波を……コピーして機械に操縦させる?」


『そうだ。人体の負荷は一切ない。だからこそ“人間の限界を超えたエース”を作れる』


「……死角もGも無視できる怪物ってわけか」


『さらに複数機運用が前提だ。ゴーストリンクで繋がった機体は戦闘情報を常に共有し、最適化する。結果、数秒先の未来を予測するような戦闘軌道が可能になる』


「……エースパイロットが連携を組んで未来予知しながら襲ってくる、か。悪夢だな」


『ああ。試作機があれだけの動きをした。完成型が部隊規模で現れれば、この宙域は持たん』


「時間も敵ってことか」


『その通りだ。我々も急ぎ対抗戦力を整える。最低でもBランク上位、できればAランクの海賊を集めたい』


「……本当に集まるのか?」


『集めるしかない。ギルドにも緊急要請を出すつもりだ。そして――君にも参加してもらう』


「依頼と報酬があればやる。それが海賊ってもんだ」


『助かる。では、頼んだぞ――コウキ艦長』


通信が切れる。敵は強大かつ未知数。俺たちも、準備を進めなければならない。

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