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亡霊の牙

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デブリ帯に紛れた俺たち“ヘッジホッグ”は、違法海賊団“メルセデス”の暗号通信を傍受し、その背後に“旧帝国軍”の存在を嗅ぎ取った。


「艦長、再び暗号通信を受信しました。前回とは異なるプロトコルです。解析に少々時間を要します」


「頼む、アイカ。リズも手伝ってやってくれ」


「ふふ、任せたまえ。今こそ我が叡智の真価を示す時!」


「えいえいおーなの!」


キョウカが、なぜか頭にタオルを巻いて士気を上げている。……可愛いから放っておこう。


マリナは武装デッキに張りついたまま、何度も主砲と迎撃システムのチェックをしていた。


「どうも気に入らねえ。相手が海賊ならいつも通りぶっ潰しゃいいが、旧帝国軍ってなると話が変わってくる」


「同感だな。しかも直接名乗ってない以上、あいつらは裏で何かを動かしてる可能性が高い。単なる亡霊じゃないということだ」


通信傍受の結果が出たのは、それから三十分後のことだった。


「解析完了しました。断片的ではありますが、通信内に“アスカロン”というコードネームが確認されました」


「アスカロン……それ、聞いたことあるな。確か……」


リズが即座に端末を操作し、関連データを引き出す。


「“アスカロン”は以前帝国で行われていたの実験兵器群の開発計画の名称だ。正式には“アスカロン計画”。高機動自律兵器群の開発、およびAI制御艦隊構築が目的だったとされている」


「そんなもんがまだ残ってるってわけか……」


「あるいは、当時の技術を引き継いだ別勢力が再現しようとしているかですね」


「メルセデスの海賊どもが、そんな高級品扱えるとは思えないけどな」


俺は椅子の背もたれに体を預け、息を吐く。


「……つまり、こういうことか。メルセデスは表の顔。裏で操ってるのは旧帝国軍の残党。そして奴らは“アスカロン”を使って、何かを始めようとしてる」


「推測ですが、宙域内の資源施設を複数襲撃している記録があります。アスカロン再稼働に必要なレアメタル類を集めている可能性があります」


「どんどんきな臭くなってきたな。リサ提督には?」


「すでに報告済みです。“情報の裏取りを最優先にしてくれ”とのことでした」


「了解。引き続き監視と解析を続ける。リズ、リモートドローンで宙域内の海賊拠点を探ってくれ」


「はっはっは、このリズ様の出番だな!見つけ出してみせよう、奴らのアジト!」


そのとき、モニターが赤く点滅する。


「宙域内に熱源反応。ステルス性能の高い艦艇です」


「距離は?」


「……接近中。こちらに気づかれた可能性もあります」


「くそっ、ばれたか!マリナ、アイカ、迎撃準備!全員、戦闘態勢に移れ!」


「よしきた!久々に暴れてやるぜ!」


「AI戦闘モード、起動します」


「おにいちゃん、がんばって!」


どうやら静かな監視任務では終わらなかったようだ。

“ヘッジホッグ”は、再び戦場へと突入する。




「来るぞ、全員構え!」


 俺の指示と同時に、艦内が赤く点滅する。

 “ヘッジホッグ”は素早く回頭し、敵影に対して艦首を向けた。


「敵艦、ステルスフィールドを解除。型式不明ですが、構造は帝国式に酷似しています。火器多数搭載。交戦姿勢です」


 アイカの報告を聞きながら、俺は眉をひそめた。確実に、普通の海賊船じゃない。

 こいつは“戦うために作られた艦”だ。


「正面装甲厚め、側面に推進器集中……速攻型か?マリナ!」


「任せて、艦首主砲、目標ロックオン……発射ぁっ!」


 閃光が走り、こちらの砲撃が先に敵を捉えた。だが──


「回避されました!推進力、高速回避に特化してます!」


「ちっ、動きが速すぎる!」


 敵艦はまるで滑るように砲撃を避け、こちらの死角を突くように接近してくる。


「側面から来るぞ!マリナ、そっちにも砲塔回して!」


「やってるよぉ!でも動きが小賢しいったらない!」


「くそ!マリナ、ハイペリオンに!あれなら高速戦闘に対応できる!」


「了解!行ってくる!」


「軽微な損傷。リアクターと制御系に異常なし」


「マリナ、まだか!?」


「準備完了!いつでも行けるよ!」


「よし。ハイペリオン発艦!かき回してやれ!」


「了解!ハイペリオン発艦!いくわよ!」


「アイカ、脳波コントロールシステム作動。操縦権を!」


「了解。脳波コントロールシステム作動。操縦権を艦長に移譲」


視界が広がっていく。背中にも目がある感じだ。


「よし!ヘッジホッグは砲撃で奴の行動を阻害しろ!とどめはハイペリオンに任せる」


「了解しました」


しかし俺たちの行動が読まれてるかのように敵艦は回避を続ける。


「くそ!ちょこまかと!なんだこいつは!」


 こいつには、何かが乗ってる──それも、人間の感性を凌駕した“何か”が。


「アイカ、敵の操艦パターンを解析してくれ!」


「……解析中。特徴的な機動パターン、複数の回避行動がAI的ではありません。おそらく、搭載AIは“試作型戦闘思考型”──アスカロンプロトタイプである可能性があります」


「プロトタイプって……つまり、実戦投入前の試験型ってことかよ」


「それでもこの強さか……!」


「回避予測パターン完了。マリナさん、次の射線で必中率が高まります。座標送信」


「ナイス、アイカ!──撃てっ!」


 砲撃が直撃。敵艦の一部装甲が吹き飛ぶ。


「よし、動きが鈍った。今だマリナ!やれ!」


「了解!レールキャノン発射!」


直撃。しかし敵艦は未だ健在。


「くっそ、硬いな……!」


「熱源反応減少中。撤退行動か?」


 モニターには、徐々に距離を取って離脱を始める敵艦の姿が映る。

 ──だが、それが決定的な一手ではなかった。


「通信が入っています」


「敵艦から……?」


 アイカが頷き、通信回線を開くと、モニターにノイズ混じりの影が映し出される。

 機械音の混ざった、低く冷徹な声が流れた。


『ヘッジホッグ……想定戦力上限を超過。次回、抹殺対象に設定……我ら、“アスカロン”の咆哮をもって迎えよう』


 通信は、それだけで終わった。


「……名前、バレてるじゃねえかよ」


「正面から襲ってきた上に、捨て台詞まで残してくとか……妙に人間臭えAIじゃねえか」


 俺は椅子にもたれ、肩を落とす。


「どうやら、亡霊ってのは──ただの残党じゃなさそうだな」


ここまで読んでくださり、ありがとうございました!


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