マリナのグルメ(酒)
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ヘッジホッグは補給のためマリア・クレスト宙域の辺境にあるステーションに立ち寄っていた。
クルーはそれぞれ自由時間を満喫していた。アイカは補給の監督、キョウカはお昼寝。リズは研究室に引きこもって何かやっている。
マリナはというと……
一人、ステーション内を散策していた。
「さて、今日はどうしようかねぇ。やっぱり酒屋巡り?うーん、服も欲しいけど……やっぱり酒でしょ!よーし、良い店見つけちゃる!」
こうしてマリナの酒巡りの旅は始まった。
ステーション内の市街ブロックは意外と賑わっていた。補給や乗り継ぎで立ち寄る船も多いのだろう。軒を連ねる店の中を、マリナは鼻歌混じりに歩く。
「居酒屋、バー、食堂……ふふっ、選び放題じゃん」
その中で、ひときわ目立たない、けれど渋い雰囲気を漂わせる店を見つける。
【宇宙食堂 しずく】
看板には古い筆文字のような書体で名前が書かれ、扉には手書きで「本日、地球風煮込みあります」と貼られていた。
「……こういうのに限って、当たりだったりするんだよなぁ」
マリナは迷いなく店に入った。
店内は静かで、落ち着いた照明。年季の入ったカウンターに、無口そうな店主が一人。常連らしき客が数名、各々の時間を楽しんでいる。
「いらっしゃい。カウンターどうぞ」
マリナは腰を下ろし、メニューを手に取る。
「へえ、“ハルコ星鮫の味噌煮込み”、なんてあるんだ。しかも“地球風”って……どんな味なんだろ」
店主が笑った。
「うちのは旧暦型。ガス窯でとろとろにしてるよ。味噌はグルード産の発酵菌を使ってる」
「……そそるじゃん。じゃあそれと、小皿に“ノヴァ茸の炙り”、それから酒は……“蒸留ロジウム42”、炭酸で」
「はいよ」
料理が出てくるまでの間、マリナは一人グラスを傾ける。銀色に輝く酒が、炭酸の泡と共に舌をくすぐる。
「っくぅ……たまんないね、これ。まさに宇宙の炭酸爆弾って感じ」
そして出てきたのは、湯気の立ちのぼる“ハルコ星鮫の味噌煮込み”。
とろけるような身に、濃厚な甘辛いタレが絡む。
「……んん、うっま!味噌が効いてるのに臭みゼロ!っていうか、逆に鮫のコクが増してるじゃん!やっば、これは……」
マリナは黙々と食べ始めた。
──何も喋らず、ただ食い、飲み、また食う。
周囲の喧騒は遠のき、時間が止まったかのようなひととき。
(まったく……宇宙は広いけど、腹に染みるのは結局こういう“濃いメシ”なんだよなぁ……)
ふと、隣の席で老人が一人、同じ煮込みを食べているのに気づく。マリナと目が合う。
「……あんたも、星鮫好きかい」
「んー、まあね。肴にもなるし、力も出るし。宇宙で食べるなら、こういうのが一番よ」
「若いのに、いい舌してるな。昔の宇宙軍にも、あんたみたいな娘がいたよ」
「へえ、じゃあ私も見込みあり?」
「あるともさ」
二人は自然とグラスを掲げ、軽く乾杯した。
食後。満足そうに店を出るマリナは、星空を見上げて一言。
「……うん。悪くないね、宇宙のごはんも」
美味い酒と肴。彼女のご機嫌な一日は続く。
マリナの足取りは軽かった。酔いが回っているというより、舌と胃袋が「次の獲物」を求めて騒いでいた。
「よし、もう一軒……いけるね。むしろ、いかないと損」
そんなわけで、彼女が次に目をつけたのは──
【宇宙立呑処 バル・ドリフト】
雑多な店が並ぶ裏通り。光るネオン看板と、店先に並ぶ“おすすめ宇宙酒”の張り紙に惹かれた。
「うわ、いい意味で怪しいなぁ。絶対濃い店じゃん」
中に入ると、そこは立ち飲みスタイルのカウンターバー。様々な種族が気楽にグラスを傾けている。無重力対応の磁気コースターが各所に設置されていて、酒瓶や皿がぷかぷかと浮いていた。
「お姉さん、ひとり? 空いてるとこ、どこでもどうぞ~」
「ありがと。……じゃ、ここで」
壁に貼られたメニューを見ると、どれも知らない酒ばかり。
《マイクロブラックホール蒸留酒・サジタリウス13年》
《惑星蒸留・クリスタライト・ブリュット》
《プラズマ発酵酒・紅イオン》
「はー……名前だけで酔いそう」
そこに声がかかる。
「初めて?だったら、うちの看板メニューいってみる?」
出てきたのは、バーテンダーの女性。片目に義眼レンズ、銀髪に紫のリップというサイバーな風貌。妙に艶っぽい。
「“サジタリウス13年”、炭酸割りで。あと、つまみは?」
「“クオリア海老のチリパウダー焼き”。地球の“えびせん”をリスペクトしてるの」
「それ、ください!」
グラスに注がれた黒曜色の酒。炭酸が弾け、光がチラチラと浮かぶ様は、まるで星雲の中の星屑。
ひと口。
「……くっ、強いけど……芳醇!鼻の奥に残るこの香り、まさに宇宙!」
続いて、クオリア海老。パリパリの食感に、しびれるような辛さと深い甘味が交互に来る。
「なにこれ、やばっ。これはね、酒を呼ぶ。こっちもグイグイ来るやつ!」
立ち飲み席の隣にいた大男が笑った。
「姉さん、飲めるねぇ。どこの船乗り?」
「秘密。でもまあ、宇宙の端っこでドンパチやってるフネのクルーってとこよ」
「へえ、だったらここ来て正解だ。ここの酒は、戦うやつの疲れをほどくためにある」
「……気が合いそうね。よし、じゃあオススメの酒、一本もらおうかな」
静かに、しかし熱く。
酒とつまみを前に、マリナの夜はまだまだ続く。
(……あー、ダメだこれ。つまみが止まんないし、酒がうますぎる!)
そんな中、背後のモニターがふとニュースを映し出す。
《帝国軍、次期宙域掃討作戦を準備中か。前線では艦隊の選定作業が始まった模様――》
マリナはちらりとそれを見るが、気にした様子もなく、もう一杯を頼む。
「明日の戦い?明日の酒の話にしてくれっての……今はこの一杯が正義、でしょ?」
そう言って、再びグラスを傾けた。
「ただいま~」
「おかえり。休みは楽しめたか?」
「最高!いい店見つけてさ。今度コウキもどう?」
「いいぞ。お前の舌は信用できるからな。楽しみだ」
「ふふ~ん、楽しみにしててよね!」
こうしてのんびりと、彼女たちの日常は続いていく――
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