艦隊戦演習対決!
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「第二回戦、勝者はType-Eirです」
「サーバーと有線接続さえできていれば……」
悔しそうに呟くアイカ。通信の遅延が勝敗を分けたらしい。
「私の勝ちのようですね。判断速度、解析精度、すべてにおいて上回りました」
Type-Eirは無感情な口調ながら、微妙にマウントを取ってくるのが腹立たしい。
リズはというと――
「ふふっ、さすが私の子だ。美しい勝利だな!」
完全に親バカモードでご満悦だ。
「続いて、第三回戦。艦隊戦シミュレーションです」
研究主任が操作パネルを叩くと、室内のホロスクリーンに二つの艦隊編成図が浮かび上がる。
片方はType-Eirの指揮する“理想化艦隊”、もう片方はアイカの指揮する“現場対応型艦隊”。
「この勝負、制限時間は30分。条件は“艦隊規模10隻・補給なし・重力場ありの宙域”。AIは各自の判断で戦闘を進行させ、最終的な勝率評価で勝敗を決定します」
「リアルタイム演算処理と戦術予測精度の勝負ですね。望むところです」
「データ戦において私が劣ることはありません。貴女が得意とする“現場勘”は、統計上の誤差に過ぎません」
「それが“誤差”ではないことを証明して差し上げましょう」
両者、戦闘開始前から火花を散らす。
「さあ、勝負の始まりだ。我が娘――叡智の化身、《Type-Eir》、進撃を開始するのだ!」
「「戦闘モード、オンライン。艦隊制御リンク、確立」」
その瞬間、仮想空間において2つの艦隊が静かに動き始めた。
AI同士のプライドを賭けた、一進一退の艦隊戦が、いま始まる。
「主砲、発射」
アイカの命令と同時に、仮想空間の艦隊からレーザーが迸った。
真空の戦場を切り裂く光線は、敵陣の主力艦へと狙いを定めて放たれる。
「回避行動。左舷25度、回頭」
冷静に対応したのはType-Eir。艦隊の陣形を素早く変え、直撃を回避。
ぎりぎりのところで回避しつつも、フォーメーションは崩れていない。むしろ、Eir艦隊の距離が着実に詰まっていく。
「陽動としてはまずまず、です。次はこちらの番ですね――ドローン艦隊、分離、展開」
「来ますか!」
Eir艦隊から分離した無人ドローンが、側面からアイカ艦隊に襲いかかる。小型で高速、制御も精密。
「砲撃のタイムラグを利用しての奇襲か……だが、読めていました。迎撃システム、展開」
「ええっ、全部撃ち落とした!? あのドローンって、回避行動までAIが計算してるんでしょ?」
研究主任の驚きの声が観戦席に響く。
「ええ……ですが、アイカは予測演算に“経験値”を混ぜてくるんです。だから、定型通りにはいかない」
「ドローンが落とされたか……」
リズも真剣な顔つきで、自分の娘の苦戦に目を細める。
「エネルギー充填、完了。火力集中、敵旗艦狙い」
「そこっ!」
アイカの艦隊が一瞬の隙を突き、集中砲火を浴びせる。
Eirの旗艦が火花を散らしながら大きく後退――
「……しかし、私の読み通りです。被害は想定内」
「何!?」
「リカバリ艦、前へ。フロントを張らせて、逆包囲」
Eirの艦隊が一瞬の被弾を盾に、あらかじめ配置されていた修理支援艦を囮に変えた。
その間に、側面から回り込んでいたサブ艦隊が、アイカ艦隊の後方へ――
「しまった、背後に回られてる!」
「はあ……はあ……ふふっ、これくらいの逆境、想定済みです……!」
アイカの艦隊が囲まれた。だが――まだ終わりではない。
「背後からの包囲……これで詰みです。アイカ様」
Eirの冷静な勝利宣言が響く。
だが、アイカの瞳に焦りはない。
むしろ――うっすらと笑っている。
「いえ……まだ手は残されています」
「え?」
「艦隊、後方宙域へ後退――ではなく、《強制突入》。敵艦隊の間隙を突いて、突貫します」
「なっ……!? 包囲網の内側へ、突っ込むだと?」
「そうです。包囲されたなら、逆に中心を貫いて突破すればいい。包囲を“利用”するのです」
アイカの艦隊が、まさかの“突破前提”の強行戦術に出た。
防御を捨てた機動、あらかじめ撃破された無人艦の残骸を盾に使う、非常手段。
「敵の砲撃は最大火力帯に入ります。通常なら自殺行為です」
「でも……それこそが狙いです。Eirは、私が“合理的”に判断すると読んだ……ならば」
「非合理な行動には、Eirの予測モデルが対応しきれない……!?」
観戦していたリズが、思わず身を乗り出す。
「これぞ“愚者の逆手”です」
Eir艦隊は、動揺した。
AI同士の勝負で“予測不能”が発生するというのは、致命的だ。
「再構成不能……包囲網、乱れました」
アイカの艦隊が、包囲網を抜け――反転。
「主砲、再照準。旗艦、狙撃可能距離です」
「――!」
仮想空間に閃光が走る。
直後、Eir旗艦のモニターが“沈黙”。
「第三回戦、勝者、アイカ!」
勝利のBGMが(脳内で)流れる中、リズが口をぽかんと開けていた。
「まさか、そんな無茶を……AIが選ぶなんて……」
「ふふ。合理と非合理の境界、それを越えるのが“私”なのです」
「第三回戦は……アイカの勝利! これでスコアは2対1、アイカが巻き返しました!」
熱気の残るシミュレーションルームに、勝利判定のアナウンスが響く。
そのタイミングで、研究主任が手を上げた。
「ふむ。では、少し休憩としましょうか。体力的にはともかく、我々も喉が渇いてきました」
その言葉に、俺たちは思わず頷いた。
……たかがAI対決と侮るなかれ。見てるこっちが緊張して、どっと疲れるレベルだ。
ステーションの自販機コーナーで、俺は微妙に見覚えのある炭酸飲料を手に取った。
「“グラビバーストZ”……なんだこれ。銀河中で売ってんのか?」
「それは舌が痺れるタイプのやつですね。リズさんが“炭酸で脳が加速する”とか言って、箱で買ってました」
「へぇー? 私はそんなこと言ったかな?」
リズが口元をぬぐいながら、しれっととぼける。
一方、アイカはというと……
「ボディ温度上昇により、冷却モードを併用します。ついでに水分も補給します」
手にしていたのは、冷たいハーブティーの缶。妙に優雅だ。
「人間の真似?」
「いえ。構造的に必要な処理です。副次的にリラックス効果も得られる可能性がありましたので、試行しています」
――そして、Eirはといえば。
「補給行動は不要です。現在、全システム最適稼働中。次戦に向け、モジュール更新完了」
あいかわらず無表情に、淡々と応答する。
「あー……やっぱアイカの方が人間っぽいな」
「そういう基準で勝負してるんじゃありませんが」
アイカが微妙に口をとがらせる。
「さて、そろそろ再開か」
第四回戦の火蓋が、切られようとしていた。
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